13.魔王
地下深く、重たい空気が漂う闇の中――
アイカとサクナは、慎重に足を進めていた。
そこに、突然現れた影。
タイガー「……お前が、アイカか?」
低く響く声と共に、獣のような目を光らせた男が立ちはだかる。
筋骨隆々の体、虎のような縞模様の毛皮。
――名は、タイガー。
アイカ「お前は誰だ!」
サクナもすかさず隣に立ち、剣を向ける。
タイガー「牢屋の番人だ」とタイガーは名乗ったが、その声にはどこか焦りがあった。
タイガー「待て、戦う気はない!」
タイガーは慌てて首の後ろに手をやり、言葉を続ける。
タイガー「……お前のことは、ナギちゃんから聞いている。」
アイカ「ナギ……?」
アイカが目を見開いた。
タイガー「そうだ。ナギちゃんのところに案内してやる。――ついてこい。」
そう言って、タイガーは背を向け、無言で歩き出す。
疑いの眼差しを向けながらも、アイカとサクナはその後を追った。
やがて、冷たく沈んだ牢の前にたどり着く。
タイガーは鉄格子の鍵を開けた。
――そこに、いた。
アイカ「……ナギ!」
アイカが駆け寄った瞬間、ナギが飛びつくように抱きしめた。
再会のぬくもりに、アイカの目から涙がこぼれる。
少し離れた場所で、タイガーは鼻をこすりながら呟く。
タイガー「……さあ、逃げるんだ。」
彼は牢の先にある階段を指差し、急げと促した。
だが、地上に出たその瞬間――
目に飛び込んできたのは、信じられない光景だった。
魔王が、未来のアイカの心臓に腕を突き立てていたのだ。
その手は血に濡れ、燃えるような瘴気が立ち上っている。
魔王「……裏切ったのか、タイガー。」
魔王の声は、凍てつくように冷たかった。
タイガー「ち、違います……! ナギちゃんは、間違って捕らえられていただけです。解放しても、問題ないと思って……」
言い訳をするタイガーに、魔王は容赦なく手を向ける。
その手に、眩い光が集まり始めた。
アイカ「下がって……!」
アイカが、一歩前に出てサクナとナギをかばう。
――次の瞬間、閃光が世界を焼き尽くした。
轟音がすべてを飲み込み、魔王城ごと空間が吹き飛んだ。
魔王「……あっ……」
光の中で、魔王の声が消えていく。
跡形もなく、すべてが――何もかもが消えていた。
……ざぶん。
波の音が耳に届く。
アイカ「……ん……」
意識が戻ると、アイカは砂浜に倒れていた。
濡れた服、冷たい風、遠くに聞こえる海鳥の鳴き声。
ゆっくりと身を起こし、アイカは辺りを見回す。
アイカ「ここは……どこだ……?」
そこは見知らぬ海辺。