10.仮面の男の正体
宴のあと、城の夜は静けさに包まれていた。
アイカとサクナは、客間の一室で明日の旅支度をしていた。
だがその扉は、予期せぬ訪問者によって静かに開かれる──。
揺れる明かりの中、
仮面をかぶった一人の男が、影のように姿を現した。
仮面の男「……ユウキュ、リョウキは倒した」
仮面の男「これで──魔王城を護っていた結界は消えた」
仮面の奥から、低く冷静な声が響いた。
サクナが眉をひそめる。
サクナ「……あなた、一体誰なんです?」
サクナ「もう隠さなくていいでしょう?」
仮面の男はしばし無言で二人を見つめ、やがて静かに仮面を外した。
──その顔を見た瞬間、アイカは言葉を失った。
皺が刻まれた頬。疲れをにじませた瞳。
だが、確かにそこに映っていたのは──自分だった。
アイカ「……冗談だろ」
呆然と、アイカが呟く。
老けたアイカが、重々しい口調で口を開く。
老けたアイカ「……30年後の君だよ」
老けたアイカ「俺がいた世界線では、魔王を倒せなかった……」
老けたアイカ「ナギも……守れなかった」
その言葉に、アイカの表情が凍りつく。
老けたアイカ「だから俺は、過去に戻った。──今度こそ、ナギを助けるために」
老けたアイカ「過去を変えることで未来を救う。それが俺の……いや、“お前の”使命だ」
静寂が流れる。
アイカは拳を強く握りしめ、目の前の──いや、“自分自身”を睨みつけた。
アイカ「未来のお前が過去のナギを助けて……どうなるっていうんだ……!」
老けたアイカ「……助けたい」
老けたアイカは、淡々と、しかし力強くそう答えた。
アイカは震えていた。
アイカ「バカだね、ありがとう俺。」
サクナは静かにアイカの隣に立ち、そっと問いかける。
サクナ「……もう一人のアイカさん。あなたの未来では、“ナギ”を失った……」
サクナ「私たちは、これから何をすればいいか、指示をください」