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異世界に残った、ただ一人  作者: 梅道
第1章 魔王退治
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1.勇者アイカ

謎の声が静かに響いた。

「よくぞ、魔王を倒した。君たちには二つの選択肢がある。」

「この世界に残り、与えられた力のまま生きるか──元の世界へ帰り、元通りの生活を送るかだ。」


沈黙の中、少女の声が震えた。

少女A「お母さん…お父さんに会いたい。」

少女B「お願い、元の世界に帰して。」


男の子Aは遠くを見て、小さく首を振る。

男の子A「寂しいけど、俺は帰るよ。」

名残惜しそうに呟くその声は、決意と後悔が入り混じっていた。


一人だけ、真っ直ぐに前を見据えた男の子がいた。

アイカ「俺は、この世界に残る。」

そう言い切った彼の表情は揺らがない。


これは、異世界で魔王を討ち果たした勇者たちの、その後の物語だ。



賭博場の外。警備員に肩を押され、路地へ放り出された少年が膝をついていた。

名前はアイカ。16歳、身長168cm。彼は必死に通りすがりの女性にすがる。


アイカ「お金が必要なんです。」

女性は驚きながらも、困窮した姿を見て席を勧めた。

アイカ「詳しく聞かせて。」


近くの喫茶店のテーブルで、アイカは震える声で事情を話す。

アイカ「大切な人が、明日競売にかけられるんです。買い戻したくて……それで、賭博場で増やそうとしたんです。一度勝ってしまって、やめられなくなって──全部失ってしまった。」


金髪碧眼の長身で中性的な美貌の女性は、静かに名前を名乗った。

サクナ「サクナ。君の名前は?」


アイカ「アイカです。」


サクナは目を細め、真剣に尋ねる。

サクナ「なんでその人が売られるの?」


アイカは俯いて、言葉を絞り出した。

アイカ「誘拐されたんです。必死で探して、やっと見つけた。明日、競売になるって聞いて……お願い、もう一回だけ。勝たせてください。」


サクナはため息を一つつき、手を差し出した。

サクナ「落ち着いて。お金なんかいらない。奪われた人を取り返せばいいだけよ。」



奴隷市場の入口付近。サクナは静かに剣を抜いた。

サクナ「アイカ、僕についてきて。目的の子を見つけたら教えて。」


アイカは黙って頷く。二人は建物の中へ潜り込み、サクナは次々と警備を制していく。刃が光るたび、通路の空気が震える。アイカは無言でその背を追い、内心で呟く──この人、強すぎる、と。


扉を切り破り、部屋の向こうに薄暗い影。アイカの目に目的の少女が映る。


「アイカ……」


少女の声は掠れていた。

アイカは飛び込むように走り寄り、手を伸ばしたその時、銃声。

男がピストルを構えていた。


引き金が弾かれる。

弾丸は一瞬で、アイカを直撃した。──だが不思議なことに、

弾は弾かれたように跳ね返る。男は呆然とし、サクナもその場で息を呑んだ。


アイカは一歩踏み出すと、固い鉄格子を素手でひねり曲げ、中の少女を抱きしめた。

守る姿は震えているが、揺らがない。


サクナは静かに前へ出ると、剣を振るい一人、また一人と男を沈める。

倒れるたび、場内の緊張がほどけていく。


倒れた男を見下ろし、サクナはアイカを見据えて、淡々と告げた。

サクナ「やっと見つけた──勇者様。」


その声に呼応するように、背後から敵が再び押し寄せる。

だがサクナは退かない。刃は確かに、無駄なく敵を切り裂いていった。


子供たちの泣き声が響く。誰かが助けを求める。

アイカは少女を抱え、ためらいながらも立ち去ろうとする。


アイカ「サクナ、逃げよう!」と叫ぶが、サクナは首を振る。

アイカ「この子だけじゃない。みんなを助けよう。」


アイカは困惑する。助けても、養う当てはない。が、サクナは一歩前に出て、真っ直ぐ彼を見る。


サクナ「私はこの国の第一王女。この子たちはしかるべき場所へ導き、親のもとへ帰してあげる。」


言葉は短く、しかし重い。アイカは驚きと安堵が混じった表情でそれを受け止める。


アイカ「驚いたな」


サクナはゆっくりと、しかし確信を込めて宣言した。

サクナ「アイカ、それは君だよ。君は──勇者だね。」

サクナ「その銃の弾丸をもはじく屈強な体。」


そして視線をさらに前へと伸ばし、声を張る。

サクナ「復活した魔王を、僕と一緒に倒そう!」

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