本音の夜
「…あなたが来たからですよ。悩んでるの。」
「え?」
フレディは知らぬうちに何かやらかしてしまったのではないかと焦りを感じた。
しかし、知り合ったのは、昨日…いや、正確には今日が初めて。
話をしたのも作戦会議で顔を合わせたぐらい。
「その、俺何かやっちゃった?」
フレディが恐る恐る聞くと、カイルは少し冷たい声で答えた。
「せっかく今回の件で、作戦部隊の班長を任せてもらえたのに…あなたが来たせいで作戦部隊の班長を外されたんですよ。……すいません。あなたのせいじゃないのわかってるのに。自分がもっと実力があったら、このまま班長を外されることなんてなかったのに…当たっちゃってすいません。」
今回、少女たちを助けたいとと依頼したせいで、今までやっていたゴルドの件、つまり彼が班長をやっていた時の作戦がほとんどなくなってしまった。
そして新たな作戦をたてるため作戦部隊の班長の仕事を無くしてしまったと言うことだ。
ゴルドの件については彼がほとんどの作戦を考えており、フレディが依頼しをしたことにより、彼の考えた作戦はほとんど無意味になってしまった。
「班長を任せてもらえたの今回が初めてだったんです。シャドウジョーカーに入ってやっとみんなの役に立てると思ったのに…」
その声は悲しそうで聞いているこちらも辛い気持ちになるほどだった。
「時々思うんです。自分は本当にここにいていいのかなって。僕ドジだし皆さんに迷惑かけちゃうことも多くて、もしかしたらいらない存在なんじゃないかって…」
「そんなことないよ。」
フレディは思わず声を上げた。
「カイルくん、みんなに愛されてると思うよ。」
「どうしてそう思うんですか?」
「実は今日アジトに来る時に聞いたんだ。」
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アジトへ向かっている途中でグレースにシャドウジョーカーのメンバーについて聞いていた。
「グレースさん、シャドウジョーカーってどんな感じなんですか?そのメンバーの皆さんのこととか。」
「メンバーのこと?メンバーはみんな優しくって素敵な人ばかりよ。」
「最近じゃカイルが話題の的だな。なんせ初の作戦部隊班長。そりゃみんな気になるよな。」
「それだけじゃないわ。カイル、最近かなり頑張ってるもの。みんなもよく言っているわ。努力家ですごいって。話題の的になるのも納得よ。」
「そんな人がいるんですね。」
「カイルはみんなから好かれているもの。」
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フレディはこのことを詳しくカイルに伝えた。カイルがいかにすごいか、みんなから好かれているかを。
「そんなことリーダーが…」
「君は必要とされているし、大切な存在なんだよ。この世に価値のない人なんていないんだから。」
カイルの顔はすっかりと明るくなり、先ほどまでの暗い顔が嘘のようだ。
「ありがとうございます。今日は寝ます。おやすみなさい。」
「うん。おやすみ。」
心地よい夜風に吹かれていると自然と眠気に襲われ、その後、フレディも宿に戻り眠りについた。
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作戦日当日。
「みんな準備はいい?」
「あぁ。」
「はい!」
全員が返事を返す。
そして別れて各自配置に着く。
「今回僕たちは捕まってる人の救助を最優先に、もし誰かに出くわしても出来るだけ戦わずという形でお願いします!」
とうとう始まる緊張感それと共に一層強くなる気持ち。
深く呼吸をし気分を落ち着かせる。大丈夫。できる。そう言い自分にいい聞かせた。
するとカイルがフレディに話しかけた。
「フレディさん、この前のことすいません。」
「この前?」
「フレディさんがシャドウジョーカーに入った日の夜のことですよ。」
「あの日の…ごめんね、偉そうなこと言って。」
あの日、フレディは宿についてからベッドで1人考えていた。記憶のない分際でありながらすごく偉そうなこと言ってたんじゃないかと。
その日は睡魔に負け眠りについたが、次の日も次の日もその事が頭から離れなかったのだ。
「偉そうなだなんてとんでもないですよ。おかけで悩みが吹き飛びました。」
「ならいいんだけど…記憶のない分際であんなこと言っちゃって…」
「記憶がない…?」
シャドウジョーカーのメンバーには記憶喪失だということをフレディはまだ言っていなかった。
カイルは黙ってフレディの方を見た。何か言いたげだが、決してそれを言葉にすることもなかった。しばらくの気まずい沈黙の後、カイルがそっと口を開いた。
「フレディさんって記憶喪失なんですか?」
「うん。みんなに話すの忘れてて…ごめん。」
「大丈夫です。ちょっと驚いただけですから。…この作戦が終わったら、色々聞かせてください。あなたのこと。オーウェンさんがあなたのことすごく強いって言ってたんです。あのオーウェンさんが言うんだから相当強いってことですよね。僕強くなりたいんです。僕、剣の扱いが慣れてない状態で、とても戦うことができないんです。だから教えて欲しいんです!どうしたら強くなれるか。」
キラキラとした眼差しでフレディを見つめてくる。そして、彼はふと疑問に思った。
「オーウェンさんに教えてもらわないの?オーウェンさんなら剣もうまく使いこなしてたし、同じ仲間なら新米の俺よりオーウェンさんに頼ったほうがいいんじゃないかな。」
「副リーダーは教えてくれないんです。お前にはまだ早すぎるって言って。稽古すらつけてくれなくて。だからリーダーにも相談したんですけど、リーダーもダメだって…だからお願いします。」
2人が断っているにもかかわらず、自分が勝手に教えて良いものか。そう自問自答しつつも、あまりにも眩しい眼差しに耐えきれず、フレディは了承してしまった。
「本当ですか、ありがとうございます。」
大喜びしてくれたのは良いものの、記憶のない状態でどのように教えればいいのか。
作戦実行前にもかかわらず、頭の中はいろいろな感情が止めどなく押し寄せてきていた。彼自身もなぜ自分がこのような身体能力を持っているか理解できていない。それを他人に教えるなんて無理な話だ。しかしこれを断りきれないのがお人好しのフレディである。
「絶対にここで捕まってる人たちを助けましょう!」
「うん。頑張ろうね。班長!」
「……はい!」
真夜中、月が昇らぬ今日、この作戦を実行される。
しかし、彼らの目には月がはっきりと見えた。静寂が訪れる街に響く1つの声。
「作戦開始。」




