夜空に響く声
前回のあらすじ
フレディたちは、アレンくんの心の拠り所になろうと考え、ソフィアの提案で公園で思い出の遊びを一緒に楽しむことに。
一日中遊び、アレンくんは久しぶりに笑顔を見せるものの、根本的な悩みは解決せず。今後の課題が浮かび上がる中、ソフィアを呼ぶ声がした。
後ろの方でソフィアを呼ぶ声が聞こえた。
「お姉ちゃん!」
「…!」
声がする方を振り返ると、そこにはソフィアと同じ髪色をした少女が立っていた。
「お姉ちゃん、最近会ってなかったから嬉しい!」
うれしそうに話す少女。トレに比べて、うつむいたままのソフィア。お姉ちゃんと呼んでいるし、もしかしてソフィアの妹さんかも…
「お姉ちゃん?聞いてるの?そうだ!明日、一緒に夜ご飯食べない?」
「…」
ソフィアは相変わらず黙ったままで、その少女と目を合わせすらしなかった。
しばらくして、ソフィアはノートを手に取る。
『わたしが行っても、お母さんとお父さん喜ばないでしょ。』
「そんなことないよ!少なくとも私はお姉ちゃんと一緒にご飯を食べたいよ!」
『わかった。行けたら行くね。』
「やった!じゃあ明日待ってるから!」
そう言って少女は去っていった。
「もしかして、今のが妹さん?」
『はい。妹のリリィです。食事会に誘われました。前、言っていた例の食事会です。妹がどうしてもと言うので、迷っています。』
「妹さんのことを大切に思ってるんだね。」
『はい。妹のことは大切です。もちろん家族のことも。でも本当に行っていいのか、わからないんです。』
「…ソフィアが思ったなら行けばいいわ。」
「僕もそう思うよ。決めるのはソフィアなんだし。」
ソフィアは微笑みを浮かべ、少し嬉しそうな顔をした。
『ありがとうございます。少し考えようと思います。』
「…喉、乾いたな…」
その日の夜。嵐の後の静けさと言うやつだろうか、夜空は澄み渡りとても美しかった。フレディとノアは隣で深い眠りについていた。
何か飲み物を飲もうとキッチンの方へ向かった。
「綺麗な月…」
本当にきれいな月だった。思わず見とれてしまうほど。
飲み物を飲み終わり部屋に帰ろうとしたが、少し目が覚めてしまった。このまま帰っても眠れないだろう。
「外で風にあたろうかな。」
そう思い外に出た。
すると、そこにはソフィアもいた。
「…ソフィア?」
「…?」
「ソフィアも眠れないの?」
「あっ…」
その時のソフィアはノートを持っておらず、どう答えたらいいか悩んでいる様子だった。
「わ…た、し…」
「ノートを持ってないのね。無理。喋らなくてもいいわよ。私少し喉が渇いたから飲み物を飲みに行ったんだけど、そしたら目が冴えちゃって、それで夜風に当たりに来たの。ソフィアも眠れなかったの?」
ソフィアは、首を縦に振りイエスと答えた。
「食事会の事悩んでるの?」
ソフィアは再び首を縦に振り答える。
「悩んでいるなら、相談に乗りましょうか?私も妹がいたから、ソフィアの気持ち少しはわかるかもしれない。」
「…」
「妹は8歳の時に死んじゃったの。私の誕生日に。突然のことで全然受け入れられなかった。昨日までは一緒に話して、笑って、でももうそれができないって…近くにいる人ほど、大切な人ほどすぐになくなっちゃうんだよ。」
私の話をソフィアは真剣に聞いてくれていた。
「…何かごめん。すごい重い話しちゃって。私の価値観をソフィアに押し付けるのも違うよね。今の事は忘れてくれて構わないから。」
「わ、たし…」
「…どうかした…?」
ソフィアはしばらく黙っていた。口を開こうとして、少しだけ俯く。
「話…して、くれ、て…ありが…とう…」
初めてソフィアが話した瞬間だった。途切れ途切れに言葉をつなぎながら、一生懸命私に語りかけてくれた。
「わたし…話すこと、怖い、の…昔、お母さん、に…話し方、変って…言われて、から…だから…ノートに、書いてた。でも、わたし…お話するの、好き。ノートに、書けば…お話しできる。だからそうしてた…」
ソフィアは少し涙目になっていた。怖い思いを必死に堪えて、今私に話してくれたんだろう。
「ソフィア。ありがとう。ソフィアの声はとっても素敵だし、話し方も変じゃないよ。」
「…ありがとう。いつか、わたしのこと、話したい。グレースさん…話して、くれたから。」
「いつまででも待ってるよ。」
「まだ、みんなの…前では、話せないかも…しれない。でも、頑張る。みんな、とっても、優しいから。」
「私は嬉しいよ。ソフィアが自分の声で自分のことを教えてくれて。何かあったらまたいつでも相談して。それに、私のことグレースって呼んで、敬語もいらないからね。」
「…グレース…」
ソフィアは私の名前は呼んでくれた。その時なんだかとても嬉しい気持ちになった。
夜風が私たちを撫でながら静かに吹き抜ける。
朝が来た。今日はソフィアの食事会の日だ。
「ソフィア、おはよう!」
『おはようございます。フレディさん。』
ソフィアの顔はなんだか昨日よりスッキリしていて、気持ちが良い笑顔だった。
「ソフィア、おはよう。あの後よく寝れた?」
『うん!グレースのおかげだよ。』
「なら、よかった。何かあったらまた言ってよ。私たち友達でしょ。」
『もちろん!グレースもわたしに何でも言ってね。』
2人の距離感がやけにに近い気がする。なんでだろう?何かあったのかな?
「ノア、あの2人なんか仲良くなってない?」
「うん。やっぱりそうだよね。なんというか…気軽に話し合える友達になったって感じ…」
「昨日の夜、何かあったのかな?」
俺とノアはなぜ2人が仲良くなったのか、全然わからなかった。
2人が仲良くなる事は良いことだし、まぁいっか!
「今日は食事会なんだよね。結局行くことにしたの?」
『はい。行ってきます。食事会は夜なので、昼間は少し買い物に行きたいと思っています。グレースいいかな?』
「うん。いいんじゃない。」
『なら、今から行こう。わたし、お友達と買い物とかそういうのはあんまりしたことなくて、だからやってみたい!』
「確かに私も、友達と買い物なんてしたことなかったわね…行きましょう。じゃあ私たちへ買い物に行ってくるから、2人は適当に何かしといて。今日が終わったら、アレンくんの事についてまた考えるから。今日だけはお願いね。」
そう言って、2人は出て行った。俺らの会話をそっちのけに楽しそうな雰囲気で。
「あの2人、本当に仲良くなったね。」
「一晩であんなに仲良くなれるんだね…やっぱり同性同士だと話も合うのかな?」
「確かに、俺もグレースと距離詰めるの結構時間掛かっちゃったし…それに比べてノアの方がすぐ仲良くなれたかも。」
「あっちはあっちで楽しそうだし、俺たちはアレンくんの事について考えようか。」
「そうだね。ソフィアも楽しそうだったし。よし!じゃあ、アレンくん笑顔大作戦の作戦会議しよう!」
あっという間に夜になり、リリィとの約束の時間はもうすぐだった。
『行ってきます。家の中にあるものは基本どれを使ってもらっても構いませんので。』
「いってらっしゃい。せっかくなら楽しんできて。」
ソフィアは深呼吸をし、軽く頬を叩く。
ソフィアの背中は昨日より、少しだけ前を向けてる気がした。
「俺たちどうする?」
「私、今日昼間買い物行った時においしそうなご飯屋さん見つけたの。そこに行かない?」
「どんなご飯屋さん?」
「何か、和食…とか書いてたよ。お店の前を通った時に、すごくいい匂いがして…」
「じゃあそこに行こう!…待って…俺お金ないかも…」
「え…口の中、もう和食の気分なんだけど…」
「どうしよう…」
「僕が払うよ。フレディには助けてもらったしさ。」
「ほんと!ノア!ありがとう!!」
こうして俺たちは、店の方へと向かっていった。
「どんなメニューがあったの?」
「天ぷらとかお寿司とか書いてあったわ。」
「和食ってどれもおいしいやつばっかりって聞いたことあるから、楽しみ!」
家の前まで来た。自分の家なのに、ここに入る時は妙に緊張してしまう。門の前で手を振るリリィが見える。その姿に、ほんの少し口角が上がった。
「お姉ちゃん!いらっしゃい!やっぱり来てくれたんだね。中でみんな待ってるよ!」
リリィに言われて、門をくぐる。今日は家族としっかりお話をするんだ。大丈夫。わたしならできる。そう言い聞かせた。
どこか遠くかすかな鳴き声のようなものが聞こえた。
風の音?今日は少し風が強いからかな?わたしは足を止め辺りを見渡した。しかしこれといったものは無い。
「お姉ちゃん?何してるの?」
リリィに呼ばれハッと我にかえる。
気のせいだったのかな?呼ばれてるし、早く行かないと。
この日の街はとても静かだった。不気味なほどに。
次回予告
ソフィア、初めて妹リリィと向き合う夜。
笑顔の裏に隠された、幼い頃の傷と葛藤。街には不穏な影もちらつきはじめる。
ソフィアの初めて明かされる過去は…




