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冥府への旅路⑥青い炎と白い炎



「左手に大地の守りを♪右手に鋭き刃を♪」


戦闘開始直後に言霊で右手のナイフを不壊の霊刀に変化させ、左手には…空間に霊力の塊の様な歪みを展開させる…地霊の盾、或いは地霊の防壁、天蓋、自在に変化させる事が出来る汎ゆる攻撃に対処出来る防御の術を準備する。


不壊の霊刀…とは言え実は弱点は有る、正人の霊力で日本刀の形を維持はしているが、霊刀故に霊力が尽きれば当然形は維持出来ず、触媒となっているナイフ自体は三区の道具屋で買い求めた鉄製の実用向きでは無いナイフに過ぎない。


つまり触媒そのものが腐食したり、戦闘中に紛失、破損してしまえば土に関してはどうにかなっても大地の派生属性で有る金属や石材の生成までは手が回らなくなる。


戦闘中で無ければ地霊の加護を持つ正人で有れば修復も可能では有るのだが…敵と対峙している状況ではそんな余裕は無いだろう。


瘴狐…夜太郎も戦闘開始直後に飛び上がり、そのまま飛び掛って来るのか?


と…思いきや…


「なんだ?!」


正人の刃が届かぬ範囲を空を蹴る様に軽快に飛び越え、背後に着地し再び周囲を軽快に跳ね回る。


(なんだ?おちょくってんのか?様子見なのか?分からない…今迄の魔獣と違い過ぎて…妙に人間臭い…)


空を蹴った、と言う事は空属性の空間凝固の術で足場でも作ったのかも知れない。


その敵に情報を渡す事にも繋がるのだろうが、それは正人が先程の戦いで見せた【地裂】、或いは【大地の槍】に対する牽制であったのかも知れない。


『お前の大技は俺には通じないよ?』


と…。


だが、ただおちょくっているだけでは無いらしい、途中…正人を見つめる夜太郎の細い瞳が妖しく光る。

 

恐らくは…邪眼の魔狼と同じかどうかは分からないが精神系統の呪術の類なのだろう、魔狼との違いは生来の特性では無く、夜太郎自らの意思で術を行使しているのだろうが…アイラの精神防護術【ライオンハート】の効果なのか正人には何の影響も出ていない。


(何らかの霊力の波動をこちらに飛ばしてるのは分かるんだけど…俺の霊能力適正が低いから何なのかは判別出来ない…アイラのお陰で影響は受けて無いけど)


汎ゆる放射系の霊術は発動すれば霊力の軌跡を残す、霊能力の適正が高ければ例えば、不可視の術や風の刃等でも形を伴った力の波動を目視出来る、正人レベルの適正値であると感じる事は出来ても目視には至らない。


「キャン?」


夜太郎が妙に人間臭い態度で首を傾げ、一瞬動きが止まる。


一瞬の隙を突き巨体とは思えないスピードで地霊の刃を片手に一気に詰め寄るが…夜太郎は軽やかに空を駆け上がり距離を取る。


「やっぱりそうそう詰めさせては貰えないか…あんまり直線的な動きをするタイプじゃ無いみたいだし…あの赤鬼の方がガチンコで戦うって事ならやり易いまで有るよ…」


それ程長い時間は滞空出来ないらしく、離れた場所に着地し…夜太郎の三本の尻尾の先に小さな火炎球が渦巻く、作戦を変えてエネルギー攻撃に切り替えるらしい。


「次は何だ?火炎球?英二やジョーイの使う焔の礫みたいな術か?」


小さな火炎球が正人目掛け、ゴウッ…と唸りを上げ飛来するが…火属性のエネルギー攻撃はあの程度で有れば地霊の盾で簡単に防げる。 


「地霊の盾!」


正人が構えた左手の前に瞬時に薄い土壁が展開され、小さな火炎球が火花を散らす…


「…何なんだ…精神特化で火術は得意ってわけじゃ無いのか?英二やジョーイなら指向性の有る火炎弾を十個は飛ばして見せるぜ?…問題はどうやって動き回る獣を捕まえるかって…トコか…ヨシ!」


何かを考え付いたらしい正人が土壁と地霊の刃を解除し、詠唱を始める。


「地霊よ♪魔獣を土塊の玉で穿っておくれ♪」


轢弾(れきだん)】土属性のポピュラーな放射型の術…大地から飛び出した土塊がビュンと音を立て夜太郎に向かうが…当然距離も有り、恐らくは霊能力の適正は正人よりも高いのだろう…飛んで来る前に軌道を読んで直前で再び空を駆け上がり回避する。


ある程度の放射物に指向性を持たせると言う事は、意識化に於いて事前に霊力の軌跡がどうしても発生してしまう、霊能力の適正が低ければ正確には読み取れ無いがCランク以上だとかなり正確に感知出来る。


これはこの上位世界で霊能力の適正値が高い一部の獣人が、格闘系の回避タンクになる理由でも有る。


「だよなぁ…的も小さいし…指向性を持たせすぎると霊力の消費もデカいし…当たる保証も無い…ん?当たる保証か…どちらでも良いなら…地霊よ♪大地に数多の礫土の塔を打ち立てよ♪」


そして闘技場内に数十の土塊の小さな塔…と言うよりは脆く崩れ易い…積み上げられた土の塊が立ち並んだ。




◆ ◆ ◆




「お〜〜っと!【礫弾】を躱されてしまった異世界の闘士円谷正人!何をトチ狂ったのか?!役に立たない練習用の土術で一体何をするつもりなのかぁ〜?!」


司会の狐人が少しバカにしたイントネーションで実況をする。 


土の脆さを考えれば、あれば一時的な生成物では無い事は確かで、主に建築術師が練習用に変化させる実体を伴った土の術…闘技場の土を変化させた物体で有る事は間違い無い。


正人は意外とあの術が得意で有る。


何故なら…


慰霊の森であれを素材にゴーレム…散々霊達の偽骸を作らされたから…


「さっきまでの三戦とは全く違う術法戦みたいデスね…」


「あぁ…空属性に火属性、陰属性でも何か仕掛けてたみたいだね。相手は大きいと言っても大型犬サイズだし…火属性の術も大した事は無い…直線的な動きになりがちな正人には厄介なトリッキーな相手では有るけど、接近して捕まえる事さえ出来れば正人の敵じゃ無い、アイラ様の精神防護が無ければ危ない魔獣なのかも知れないけど…」


「でも…正人君は何をするつもりなんですかね?あんな土の塊いっぱい作って…」



ジョーイはふと気になり観覧席の周囲を見回す、また高夜が近くに来て口を挟むのでは無いかと勘ぐっての事ではあったのだが…


当の高夜は少し上のVIP席で、他種族の奴隷化した美女に酒を注がせながら…薄笑いで闘技性を見守っていた。


(なんだ?アイツニヤニヤして…所詮は娯楽で、勝とうが負けようが構わないって事か?まぁ…胴元だからなぁ…賭けが盛り上がってテラ銭が入れば御満悦なんだろうな…)


そう結論付けて涼夏の問いに応える。


「さぁ?さっきも心配して損したから何か策があるんじゃ無い?多分この試合も勝てるさ♪」



◆ ◆ ◆



そう、策と言えば策では有るのだろうが、実際は運任せの乱暴な策とも言えない…つまりは…


「いくぞ!これなら霊力の軌跡も読めないだろ!そりゃ!」


土塊の塔の配置は、夜太郎を中心に円形に配置されていた…とは言え移動した所で正人が動けば問題は無い、観客席にも多少の被害は出るかも知れないが…アウェーな環境で観客に対する正人の配慮も…若干目減りしていたのかも知れない。


そう正人がやったのはただ固まった土の塔を…思い切り殴っただけである。


超人級の怪力で…、だ。


当然物質そのもののただの土塊で有る、殆どは細かく粉砕され観客席の方にまで飛び散り、ブーイングが巻き起こる。


たが、その中には硬いままの土塊も残っており弾丸並みの弾速で飛ぶ土塊は当たればタダでは済まない…当たればだが…


それはまさに、【下手な鉄砲数撃ちゃ当たる】方式の乱暴なやり口であった。


夜太郎も当然素早く動き、何とか躱しては居るのだが…知性が人に近い為か…苛立ちと怒りからなのか毛が逆立ち、霊力の軌跡が無い為だろう…必死さを感じさせる。


観客達も…どうにも夜太郎の動きが強張っている様に感じたであろう。


殆どは無駄に粉砕され、硬い土塊も躱され観客席に飛び、当たっては居ないが悲鳴があがる。


そしてついに…一つの土塊が…夜太郎を捉えた!


「ギャゥ゙ン!?」


小さな土塊を避けきれず、夜太郎の身体が大地の上に投げ出される。


「どうだ?!やっと当たったぞ!名付けて…【礫弾発破】!と名付けよう♪」



やっと的に当たった喜びからか、正人がガッツポーズで小躍りする。



だが大型犬並みの体躯に空属性の防御膜でも展開させてもいたのだろう、致命傷では無く、相当なダメージはあったろうが…ヨロヨロと立ち上がり…


「ケーーーーーーン!!!」


怒りの瘴気を迸らせ大きく嘶きを上げた。



ツンと…怒りを表す様にピンと立った三本の尾の先に…先程とは違う、青白い炎が渦巻く。


「致命傷にはならなかったか…何だ?青い炎?火力の違いか?…赤鬼の火炎球程じゃ無いと思うけど…地霊よ♪左手に守りを♪」


正人も油断せずに盾の準備をして身構える。


青白い炎が…先程の火炎球よりも幾分ゆっくりとした速度で…それでも指向性が有るらしく、正人に向かって放たれた炎は移動しても確実に追尾して来る。


「クソっ!なんだこりゃ!着いてくる!盾で防いた方が早いか?地霊の盾!」


間近に迫った青い炎は盾に防がれ火花を…散らさなかった。


その炎は…正人が展開した土壁を透過し…そのまま金属製の鎧も…その下の胴着もすり抜け正人の身体の中に吸い込まれる。


「ヒェッ!冷た!な、何なんだ?これだけか?何をしたいんだ…あの狐は…うっ…また!冷た!一体なんだってんだ!こんなモンで……なっ!!!」


冷気系の攻撃にしては随分温い冷気であり、一瞬侮りの気持ちも生まれる。


だが…気づけば…周囲には数十の青白い…冷たい炎に囲まれ…それが次々と正人に迫って来たのである。



◆ ◆ ◆



「なんだ?!あれは…青い炎?見たことも聞いた事も無い…」


「ガスコンロの火…とは違いますよねぇ?正人君の様子から慌ててはいるみたいですけど…ダメージにはなって無いみたいデスよ?」


涼夏は冷静な意見を述べる。


だが…高夜の試合開始前の口ぶりを思い起こせば、そうだとも安心して居られない。


高夜の方に向かって怒鳴り気味に質問をする。


「確かに…そうは見えるけど………おい!高夜サマ!あれば何なんだ!」


少し酒が入っている高夜は面倒臭そうに立ち上がり、ジョーイの質問に応答する。


「あれぇ〜〜?金髪君?僕とは口聞かないんじゃ無かったっけ?まぁ…良いけど…さ…然し夜太郎も馬鹿な獣だよねぇ〜僕があれだけ注意しろと言ってやったのに油断してあんな馬鹿な攻撃食らっちゃうんだからさ…皮を剥いで敷物にしてやろうか…っとに!途中で呆れて大鎌鼬の準備させちゃったよ…アイツまで動かすつもり無かったのにさ!めんどクセーし…頭悪くて凶暴で言う事聞かないから僕…アイツ嫌いなんだよね〜♪」


酔っ払って関係の無い愚痴を零し始めた。


「そんな事は聞いて無い、あの青い炎は何なんだ!」


「あ〜〜せっかちで気の短い奴だなぁ〜会話を楽しむ余裕を持ち給えよ?それにあれは炎じゃ無いよ…触るとちょっと冷っ…とするかもだけどアレ自体にダメージは無いよ、あれは瘴気が変質したモノだからね♪エネルギー攻撃の様に防げないさ…陰の術って言うと大抵は精神の鎮静だとか気力低下の術を思い浮かべるだろうがね…アレは呪いを蓄積させて霊的なパイプを作る術なんだよね〜♪呪術には霊力だけじゃ無くて、相手の生命力を奪う術も存在するのさ♪まぁあれを喰らえば霊力自体も減退はするんだけど微々たる…あっ…あんだけ喰らえば…異世界人だもんね?霊力も元々少ないだろうし…殆ど残って無いかもねぇ、パイプが完成しちゃってるから夜太郎が死なない限りは…衰弱死確定だね♪…まぁ良く戦ったと思うよ?稼がせてくれてありがとう♪」 


明るく無慈悲な一言を告げ、それでも主催者として紳士的に儲かった礼だけは述べる。


これが…人間から逸脱した黒い魂の眷属、邪鬼…魔人の精神性である。


そう…今や闘技場内の正人は…青白い炎に包まれ、3本の尾から炎が連なり、それはさながら配線でも繋げる様に青白い炎が伸びている。


やがて完全に動揺し混乱気味の正人がふらつき始め…膝を付くのが見えた。


「ああっ!正人!!!」「そんな…正人君!」


ジョーイと涼夏が同時に叫ぶ。


「………残念だったね契約には無いけど…三戦分の獲得金額の半分あげるからさ…他で稼いで地図を買いに来なよ…まぁ…誰か闘技に参加するなら受付もするけど…………ん?…おい!警備員は何をしてる!フード被った客が闘技場に乱入してるぞ!捕まえて客席に戻すんだ!」


ジョーイと涼夏も高夜の怒鳴り声にハッとして乱入者を探す…


「ジョーイさん…あの赤いローブって…」


「あっ!認識阻害の…まさか…」


完全に酔いが醒めた高夜がジョーイを問い詰める。


「おい!金髪!奴を知ってるのか?!どうなんだ答えろっ!」


ジョーイは掠れた声で答える。


「あ…いや…ここには来ないと…自分で言ってたのに…巫女様…」


「あん?!巫女?!なんだそ…………」


その時…周囲全てに白い光が広がり…闘技場内を覆っていた全ての瘴気が消え…いや…燃やし尽くされた。


皆がその輝きに慣れ目を開けた時…


声にならない断末魔の嘶きを上げ…夜太郎が消滅して行く姿と…正人を庇うようにしてこちらを見あげる燃え立つ赤毛の女。


その手に白炎を掲げ、背後に正人を庇う様に一人…闘技場に立つ。



「瘴気が晴れた!いえ…あれは浄化の余波…初めて見ました。アレが焔の巫女が使う浄化の焔…なんて凄まじい…」


涼夏の微かな叫びが…静まり返った場内に木霊した。







お待たせしました。

お待たせし過ぎたかも知れません…m(_ _)m

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