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異世界転移①赤い霧の黒い森



都市部から離れて皆ピクニック気分だった。


元々水泳で鍛えていた美咲も…


中部地方の田舎育ちの涼夏も…


メンバーの中で山道をヒィヒィ言いながら歩いていたのは、都市部育ちの生え抜きのヲタクである英二くらいであった。


で、有れば同じ様な都市部育ちの東京出身のヲタクである正人も同じ筈。


だが…妙庵院の住職、尼さんに聞いた場所を目指し山道を歩き出してから妙に調子が良く。


身体の奥から力が湧いて来る様な、いや…周囲からエネルギーを取り込んでいる様な心地良さを感じていた。


「いやぁ〜驚いたなぁ〜これが流行りの森林浴って奴なのか?町中にも公園とか有るけど、やっぱり違うわ!全然疲れないよ!あれ?違うなぁ、そう言えば俺…林間学校とか遠足とか、毎回テンション上がってたわ♪ワハハハ!」


「正人君、無駄に元気ですね~地元で【走るヲタク】と呼ばれたこの私でも、流石に疲れて来ました。ちょっとこの辺で休憩しませんか?」


田舎育ちの涼夏も音を上げ始め、続いて美咲も…


「だよねぇ〜慣れない山歩きで足にマメが出来てるかも、ちょっと前から足痛いし、それに英二も…」


一行の動きが止まった瞬間に、英二がその場に崩れ落ちる。


「……ぜぇ……ぜぇ……え?…何?休憩じゃ…無いの?……休憩……だと…言ってくれ………」


正人は英二の惨状を見兼ね、元気に煽り気味に休憩を提案する


「そっかぁ!いつもより調子が良いから気付かなかったよ!スマン!…じゃっ!…腹も減ったし休憩にしよっか?」


「あ♪アタシ英二に食べさせてあげようと思ってお弁当作って来たんだぁ〜♪サンドイッチ♪あぁ!勿論みんなの分も有るよ♪」


「そりゃ…ありがとう、ちょい腹だたしくは有るけど、でも英二、食い物とか食べれる状態なのか………?」


美咲の作って来た弁当に舌鼓を打ち、だらし無い英二をからかい。


タウン誌の編集長の尾形や鬼出村の尼寺、妙安院の住職である妙案尼から聞いた、様々な情報を元に研究会のメンバーや美咲とあーでも無いこうでも無いと考察し。


いつもの如く涼夏とマウントの取り合い。


調子が良い為か、正人の口の滑りも良く。


いつもより活発に議論を戦わせ、勢いに任せて涼夏を言い負かす事さえ出来た。


普段は早口で持論ををまくし立て、重箱の角を突付く嫌らしい弁舌で相手の逃げ道さえ塞いで勝ち誇る、そんなヲタク女の悔しそうな顔。


メシウマで有る。


わちゃわちゃと仲間達とオカルト談義に華を咲かせる、楽しい休日。


学生らしいサークル活動、雲一つない日本晴れ、緑溢れ小鳥が(さえず)る山道、ピクニック気分で体調は最高潮!


それどころか無尽蔵に気力と体力さえ湧いてくる!


充実した休日、それはそれは…楽しかったのだ…なのに…



 ◆ ◆ ◆



「おい!ここは一体何なんだ!いや…何処なんだよ!おい!鈴本さん!何が起こったんだよっ?!」


周囲をぐるぐると、焦り気味に見渡しながら正人が怒鳴る、ほんの数分前まで少し開かれた岩場に有る小さな泉で、史跡に良く有る説明文が書かれた看板を見たり、泉の水面を覗き込んでいた筈で…


太陽もお昼を少し過ぎたくらいでサンサンと中天に輝いていた。


…だが…


今や周囲の様相は一変していた。


山の中の岩場で遠くに村の家々の屋根や、テレビのアンテナさえも見渡せた筈なのに。


平地の少し開けた森の中、周囲は薄暗く、植生は先程の山の中とほぼ同じだが、妙にこちらの様子を伺う様な意思の様な物を感じ、どうにも居心地が悪い。


明るく雲一つ無かった空は、天に太陽らしきものが輝いてはいるが、森全体に赤い靄が掛かっているのか、それとも別の要因なのか、妙に周囲は暗く…赤い、


「怒鳴らないで!私に分かるわけ無いでしょ?!整理しなきゃ…えっと…鬼出(おにいで)の泉をを見ていて…美咲ちゃんと英二君が説明の看板見てて…水面に黒い影が写って…えっと…それからっ!あ〜〜〜分かんないよぉ…」


涼夏が反応して怒鳴り返し、状況を整理し始めるが余計に混乱している。


「最後に見たのは…空中に空いた黒い穴…英二…アタシ…これからどうなるの…?…」


美咲は不安げに…英二の手をそっと握る…


「美咲ちゃん!大丈夫!俺が付いてるから!正人!一旦落ち着こう!女の子達が不安がってる、鈴本さんの言う通り整理しよう!…そう、水面を二人が覗いていて、俺は影は見ていない、うん…最初に引っ張られる様な浮遊感があって、疲れていてそう感じたのかと思っていたけど、その後に落下する様な感覚があって………ここにいたんだ」


英二の冷静だが強い声に、ハッとし正人は恥じ入る。


(ううっ!英二、彼女出来てから…本当に変わったよな、パッと見は惚れた弱みで美咲ちゃんの尻に敷かれてる様に見えても、それに比べて……俺は…恥ずかしい…)


「あ、あぁ、スマン英二、慌てても仕方無いよな、そうだ!尾形さんに聞いた話の中で…」


 

 ◆ ◆ ◆



エロ親父…尾形進は最初は取り繕って、恐らくは貴重な資料に美咲が興味を持ったのを良い事に、口説くつもりでいたのだろう、やや不機嫌な様子で渋々リビンクで古い資料を開きながら正人達に説明してくれた。


最も、元々少しおちゃらけた性格で有るのか、徐々に紳士然とした態度は崩れ、メモを取りながら真剣に自分の話に聞き入る学生達の様子に満足したのか…


きっとスケベでは有るが、その本質は広い家に一人暮らしの淋しいオジサンなのだろう。


徐々に説明にも熱が入り、正人達も散々考察してきた山間市に流れる血塗川(ちぬれがわ)、それから挟間町(はざまちょう)で支流に分かれる骸川(むくろがわ)の話。


尾形市東区の更に東の山中に有る、これは正人達もノーマークで有った小似呼村(おにこむら)の話。


そこはある程度探索していた矢鱈(やたら)と鬼が付く名前の村々、(山間市東部と尾形市西区の県道を北に進むと有る)とはかなり離れており、尾形市を挟んで更に東側でもあり。


どう言う経緯があったのか、明治政府が出来た頃に改名されていて、本来は鬼子村であったとのだとか…


由来は山間市近辺の東人(あづまびと)の集落で迫害された女達が隠れて住み着いた。


…等と云った伝承の有る村だったらしい…


伝聞を収集した江戸時代当時は工藤家と言う豪族が代々村長をしていたであるとか………


現在はその様な伝承も既に消えて伝わっておらず…


後は幾つかの地区が有りそれぞれ地名性の住人が多く…


野生の栗の木が多い栗原地区には栗原姓が多く、小さな湖の周りにポツンと無人の小島が有り朝と夕方に霧が立ち込める…霧島地区…には霧島姓が多い。


そんなエピソードから…


不思議な事にこの村は昔から弁の立つ者、また何事かに異常な執着を…物作り…収集癖…を見せる者が多く、それで身を立てた人間も多いのだとか?


尾形の話に拠れば、今の昭和の怪物と呼ばれる県知事もルーツをたどれば先祖はこの村の出身であるとか?


反面…昔はこの村から街へ遊びに、或いは仕事を探しに降りてきた若者が詐欺紛いの揉め事を起こして十手持ちに捕らえられ投獄されたりであるとか…


或いは、若い娘が色街以外の場所で商売を始める等々、犯罪を犯し、治安を乱す者も多かったのだと言う。


【その(さが)()しき者、街人に迷惑を掛ける者は皆鬼子村の者であろうとからかわれり…】


明治に名称を変えさられたのは差別対策の或いは、迷信を排除する為だろうか?


そんな真偽不明な、この周辺の市町村の都市伝説めいた記録や噂話は大変面白く。


今は誰も知らないとなれば余計に貴重な記録であろう。


そして尾形が興奮気味に話したのは先祖の話、徳川時代の小大名でもある、この資料を編纂した殿様では無く。


その初代の、尾形左衛門の武勲の話であった。


その尾形家を興した初代は朝廷から領地を下賜された、貴族の荘園を守る、家名すら無い兵士の一人であったのだと云う。


これは殿様が書面に残し、伝承を編纂するまでは口伝のみであったらしく…。


尾形の見解では祖先の武功の真偽を、確実な物にするべく作られた物であったのだろうとの事だった。


各地で調べた伝聞には公平な記録が記されてはいたが…


最終的には……


おとぎ話などでは無く、鬼は実在したであろうと半ば確定的な描写で纏められており…。


つまりは尾形家の統治はその功あっての正統な物である。


……と


当時の徳川政権から、何度かお家取り潰しの策謀もあったとの事であるから、その対策の一つとして作られた物かも知れない。


それは兎も角として…


その先祖の功績とは即ち、鬼狩りの武功であった。


後に尾形姓を貴族から賜り、尾形左衛門と名乗った初代は鬼狩り左衛門と呼ばれ…


生家のあった中央区の駅前公園付近、かつては鬼首集落、今では鬼首公園とも呼ばれている。


但し…その戦いの描写に若干の違和感が有る。


編纂された書物にはこう記されている、他の兵士が怯み動けぬ中、左衛門は鬼の前に踊り出るや大上段から槍の石突で鬼の頭を打ち。


鬼が昏倒した所に馬乗りになり首を短刀で切り取った…とある、そうして瞬く間に三匹の鬼を討ち取りその首を主に献上した。


主はその首を干して都へ送れと命令するも、日光に当てて一日目には腐臭を放ち、二日目には肉は溶け出し、三日目には白骨となり、四日目には骨が崩れ出し、五日目には風に散った。とも有る。


まずは大上段から槍の石突きで鬼の頭を打ち、当時の日本人は大体百五十前後、左衛門はかなり大男であるとも書かれているのでそれよりは大きいだろうが、恐らくは百七十に満たない身長だろう。


それよりも鬼の小ささである、そこは振り被るよりも…頭…高い場所に向かって突く、のが正解ではなかろうか?


左衛門が豪の者であったとして、槍の一撃で昏倒してムザムザと首を取られる鬼とは?


鬼と言えば赤い肌の筋骨隆々の大男、或いは茨城童子に代表される様な大女で頭から立派な角が生えているのが一般的なイメージだが。


それに元々その様な生物が存在していたとして、その死骸の劣化の早さは異常である。


キチンと観察した描写もあるので、怨霊だとかそう言った不確かな物では無いだろうが…


その疑問点を尾形に質問した。


「おっ!良い質問じゃあ無いか♪僕はこれでも長年雑誌の編集やってんだぜ?描写の違和感はとっくに気付いていたんだ、それには僕なりの見解があるのさ…」


涼夏が控えめに、持論の賛同を求めつつ質問する…


「あの…やっぱり鬼は大して身長の変わらない縄文人の生き残りだったのでは?死体の劣化の早さは、大げさな表現の仕方で…」


だがその説を尾形は否定する。


「いや、山間で見つかった竪穴式住居にこの近辺で使われていた品物などの取引の痕跡が有るんだ…それに、これは昭和初期の火事で焼けて、向うには記録は無いけど、先祖の手記にはその件に付いても書かれている、そもそも赤縄神社は山間の民が従う条件として尾形氏が赤縄の御神体を祀り神社を建立した。と有る、つまりあの神社は無血で山間の民を尾形氏の支配下に入れる平和の象徴なのさ」


「う〜ん…そこまで調べてませんでした…そうなんだぁ〜」


更に尾形は話を続ける。


「もし山間の縄文人の生き残りを、当時の尾形氏が虐殺していたなら、戦国期初期の尾形氏の下剋上も、乱世も尾形氏は生き残れ無かっただろうね、小大名だったから全国的には知られて居ないけれど、豪傑として知られた吉野勝正や、勇将と呼ばれた山川種厚なんてのも尾形の家臣に居てさ、彼らは山間の古来から続く部族の長の家系でね、つまり縄文人の生き残りの子孫、彼らがいなければ織田軍の侵攻も抑えられ無かっただろうね、まぁ二つとも明治期に尾形と一緒に没落しちゃって、今は一般人だけどさ、吉野は尾形同様に親族が財産持ち逃げしちゃって小さくなったらしいし、山川はこれも相続関連だね、十数年前に相続関連で随分ギスギスしてるって聞いたなぁ、だから詳しい年代は分からないけど、鬼や赤縄の由来はそれ以前、尾形氏が家名を拝領したのと同時期にはなるだろうね、恐らく西暦千年前後じゃ無いかな?」


正人も更に核心部分の質問する。


「で…尾形さん、尾形さんは鬼の正体は何だと思います?俺…僕らとしては、少し夢の有る回答で有って欲しいのですが…」


尾形はニヤリと笑う。


「ズバリ…僕は異世界の生物だと思ってるよ、或いは天からの描写も有るから、宇宙人とかね、その方が世の中面白いし、それにね…鬼出村は知ってるかな?」


英二が返答する。


「鬼の付く地名としてピックアップはしてましたが…」


「そうかぁ、まぁ実際に行って見て来ても良いと思うけど、山奥だからピクニックに良いんじゃ無いかな?景色も良くてさぁ、あの辺の伝承ではね、鬼って言うのは、天から降る鬼……天邪鬼(あまのじゃく)の事なんだよね♪宇宙人説も信憑性出て来たでしょ♪」


天邪鬼…人間の希望とは逆の事をする醜い醜悪な小鬼で、背中に小さな羽根が生えた姿で描かれる事もある、四天王に踏みつけにされている木彫りが一般的では有るが…


「あ…そうそう、その鬼出村の妙安院に有る秘仏ってのがさあ、天邪鬼を踏みつけてる像でね…仏教の護法神の四天王に似てるけど、そもそも仏じゃなくで確か降魔の鬼神と呼ばれてて名前は……愛………権現…」


 ◆ ◆ ◆


「そうだ!尾形さんは鬼は現地の生物じゃなくて異世界の生物、或いは宇宙人かもって言ってたけど、宇宙には、他の惑星には見えない、植生は日本と良く似てるけど、ひょっとして異世界に来た、或いは神隠しの伝承も…こう言う事なんじゃないか?」


その…冷静になった正人の考察が癇に障ったらしい、涼夏が叫ぶ!


「ちょっと!正人君!宇宙人と神隠しは後で良いの!って言うか絶賛神隠し中なんだからっ!どうやって帰るのか考えてよっ!!!」


女の叫びが…周囲の暗い森に木霊する………………森がざわめく…


「………えっ…誰?…私の頭に話し掛けて来るのは……逃げろって…………どう言う事?……何が……そもそもこの声…じゃない振動?……森が喋ってる?……ニゲロ……ニゲロ…ニゲロニゲロ………」


突然…トランス状態になり様子が変わった涼夏に恐る恐る声を掛ける…


「おいおい…何の冗談だよ…鈴本さ……」


木の枝が折れる音が周囲のアチラコチラで響き出し…やがて…


四方八方から…小柄な…細い割に盛り上がった筋肉…醜悪な醜い顔…薄汚い腰巻に手製の棍棒…錆びたナイフ…


或いは…不釣り合いな板金鎧に…小ぶりだが良く研がれ青白い輝きを放つナイフを手に持つ個体も見える。


頭に小さな突起が有る緑色、または薄黄色か?…黒に近い色がリーダーだろうか?…小鬼、天邪鬼(あまのじゃく)の群れ、周囲を取り囲むその総数は二十数体はいるであろう。


「嫌ぁ!なんなのこいつら!こんなのが鬼なの?!」


恐怖と嫌悪感の混じった声で美咲が叫ぶ…


…女の悲鳴に反応し…その下卑た視線はメスに…美咲に集中した…



加筆修正完了☆

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