修行の日々④邪鬼の種類…森
【真人の庵】と呼ばれる辺境の監視所に来て、間もなく二ヶ月が経とうとしている。
今はこの監視所で生活しているのは、マドカの他には正人と美咲だけで有る。
英二と涼夏はそれぞれの術の専門家の所で、二週間程の修行に行っている。
英二は四人の中でも最も精神性が高かった事から、第二居住可能区域に住むマドカの友人で、火術を得意とする真人の元で修行中で有る。
とは言え、やはり落ち着かないらしく二週間程度が限界だろうとの事…
涼夏の方は第四居住可能区域に住む、西方最果ての島から避難して来たドルイドの術士の元で修行している。
こちらの方は精神性もピッタリ合致している様で、中々快適に過ごせてはいるらしいが、英二に合わせて同じく二週間となった。
ドルイドの術は木々と親和性を高めて、同調共鳴して効果を及ぼす、言霊よりも発動は早いが精神力の消費は激しい、木々とのコミュニケーション次第と言った側面も有るので、地元での防衛と言った状況で有れば精神力の消費も少なく、非常に便利である。
木々も知り合いなら割り引きしてくれる、と言った感じかも知れない。
ドルイド達の術は原理的にはかつての有翼人が使った術と同じだとされている。
属性が違うために精霊とのコミュニケーションの取り方も違うので、ドルイド達に有翼人の術は使えない。
今の人類には翼も無い為、空中を飛び回るのは言霊を使っても不可能である。
真人レベルの使い手でも神速で走る、或いは風と同化して任意の場所に移動する
大気の精霊に働き掛けて、空中で短時間滞空するぐらいが精々だろう。
「僕は風が得意でね、それに大地と霊術はそこそこ行けるけど、あ…浄化も勿論出来るぜ?これでも真人の端くれだからさ、直で触れればね…でも、やっぱり餅は餅屋だからさぁ、ある程度の手解きは出来るけど限界も有る。ここからはそれぞれ師を変えて自分で鍛錬してくれ、三ヶ月目の後半は実戦も兼ねて第四居住可能区域に有る魔界で訓練しよう。あの辺なら邪鬼は多分居ないし、小型の魔獣ぐらいだろうから…さ」
とは…マドカノミコトのお言葉である。
夜の食事も終わり、美咲は一応適正の有る水や火の初歩的な強化や付与に関する本を読んで勉強中…
そして正人は薄暗い森の修練場で、松明の焔に照らされながら一人筋力トレーニングに励んでいる。
「1223…1224…1225…1226………………………」
人影が近付き炎が揺れる。
「おっ!兄弟!やっぱり気付いてたかぁ〜ちょっと遅かったけど、ここ半月くらい夜中部屋に居ないからさぁ…」
「あっ!なんだよ!話し掛けるから何回やったか分からなくなっちゃったじゃん!……遅くて悪かったな、最初から言ってくれてたら今頃はもっと…」
勿論…普段の午前中の組手の前に美咲と一緒に、一通りのランニングや基礎的なトレーニングはするのだが…
「いやいや、そう言う知恵はさ、自分で気付かないとね、それに最初から言ってたら覚える事も沢山あったし、精神的な疲労ってのは地霊の加護でも癒せないからねぇ、余裕が出て時間を持て余すから丁度良かったんだよ、大地の言霊や術が得意な真人はみんな西大陸へ行ってるし、現人や獣人の師匠に付いて大地の術を学ぶ必要もあんまり無いからね…それよりは…」
そう、地霊の加護が弱点は有るにしてもチートと呼ばれる所以で有る。ここに居る間、この特殊な修練場を使える間しか出来ない、いや…出来ない事は無いが効果は薄くなる。
つまり身体中痣だらけになった所で、三十分程度で傷は直り、どれだけ過酷な筋力トレーニングを積んだとしても疲労は数分で、いや…鍛錬中にも徐々に回復しパンプアップも早い。
既に、正人の体力は美咲を凌駕し、基礎的な筋力や瞬発力も超えてしまった。
日々打たれる事で痛みにも慣れて来た。あ、いや…慣れてしまった。
反射神経や格闘センスは全く無いのだが、度胸は多少付いた。
残る課題は攻撃をする時に目を瞑ら無い事…である。
少なくとも単純なパワーだけなら、超人の末席レベルに達していると言う事だ。
基礎的な身体能力を上げておくのはいざと言う時に、危険を回避軽減するのに役に立つだろう。
と言うのも地霊の加護を持つ正人は地属性特化で、水中や空中では加護の効果が無いどころか…
空中は兎も角として水中では力が抜け、と言うか…力が削られてしまうの方が適切だろうか?
水流は大地を穿つ…
地霊…大地…派生属性の石や金属の変化操作は出来るが、基本の属性はあくまでも土、と言う事なのだろう。
だから、身体能力を高めるのは必須事項である。
地属性の術を得意とする冒険者はタンク役や戦士タイプが非常に多い。
後は、一般の市井の術者であれば、建築術士なる者も相当に多いと聞く。
例えば地属性でも金属に適性があったり、石に適性があれば、より限定的であり、影響を及ぼせる範囲は狭まるが、その分それに特化して強力になるのだから面白い物だ、とは言え、加護持ちなど滅多に居ないのだが…
「地の術を使う真人みんな戦地なのか?現地の人って……達人は戦地に行ってるって事か?」
「ん…要塞や防壁を作るのに有用だからね、海外はアシハラとは比べ物にならないくらい危険だって事さ、現地の達人ってか、街の術師から家造りとか学んでも仕方無いでしょ?何だっけ?第四居住可能区域の街に、こんな看板が有ったよ?【大地の温もりに包まれたマイホームでなんたらライフを!】…だったっけな?某建築術士組合…みたいな…戦闘系は瞬間的に結果を引き出す術が多いから、効果が消えるとすぐに元に戻るでしょ?…ゆっくりと変化と構築を繰り返す建築で使う術とはまた違うしね」
「あ…そっちか…戦闘に使う人はあんまり居ないのか…」
「大型獣人は割と使うけどね、でも戦士や軍人の家系が多いから、今は戦地に行ってる人ばっかだね、加護が有ればすぐに出来るよ?想像して言霊…声法で唱えれば良い、強力な…大地に裂け目を作って飲み込む、みたいのは想像も出来ないだろうから一度は見る必要有るけどね、兄弟がやったら、他の三人に被害出そうだから見なくて良いけど…」
「おい!酷いぞ!」
「アハハ♪冗談だって♪まぁ小鬼や魔獣の群れに出くわしたら使いドコロも有るけど、取りあえずは慌てないで声法の周波数を調整する事だね、実戦でね…どうしても冷静さが保てないなら、代償を捧げる方法も有るけど…でもやっぱりちゃんと大地の槍や盾なんかの基本的な術を確実にマスターして、それからだね…それに地裂みたいな大技は大鬼には通用しない、万が一出くわしたら強化と防御に徹する事、仲間を確実に守り…信じる事…」
マドカは…急に真面目で深刻な表情になった。
何故かは、分からないが緊張してしまう。
「う、うん練習はしてるけどさ、大鬼はアシハラには居ないんだろう?だったら別に、そんな顔しなくても…」
「辺境を監視している真人は東西南北に一人づつ、皆…姿隠しや千里眼のエキスパートさ、でもね、今でもアシハラの地の魔界は六割近い、その内辺境に有る魔界は五割、アシハラの土地は君の世界、日本よりも少し広いと思う、魔界は千里眼の精度が極端に落ちる。全ては見渡せない、未確認の個体がいるかも知れないし、小鬼が進化する事も有る。この前話しただろう?」
「あ…うん…」
座学で小鬼達の詳しい話を聞いたのは半月程前だったか…?
◆ ◆ ◆
【小鬼】【大鬼】
言わずと知れた邪鬼の代名詞ともなった、全世界のあらゆる種族の中で最も個体数が多い不浄な種族で有る。
その総数は数億、数十億とも言われているが、確認のしようが無い。
小鬼、邪鬼、ゴブリン、ブッカブー、ウェンディゴ…黒小人…天邪鬼、カコダイモーン…
大鬼などの大型になれば、オーク、オーカス、オーガー、アークデーモン…或はその個体の特徴によって〇〇の鬼女…〇〇の鬼神…巨人等…呼び名は異なる。
性質は他者の支配を好み、欲望に忠実で、それぞれの興味有る事に矢鱈と固執し、欲望のままに行動するかと思いきや、狡猾で奸智に長けた他者を操ろうとする性質の者も多く存在する。
他に共通する部分は力有る者にしか従わないと言う所だろうか?
力を示せなければ直ぐに反乱が起きて、寝首を掻かれる事も多いのだが…
一般的に多数を占めるのは、緑色の肌で頭に、一本から数本の角が頭部に生えている矮躯の小型生物である事がほとんどだろう。
で、有るのだが、小鬼の中でも上位種と別の特徴を持った個体も確認されている。
それは黒き魂の眷属に共通の要素で、人であった時の最後に転生した種族にその容姿が寄る、と言った特徴が有る。
皆一様に矮躯で邪悪な表情で、ほぼ現人に、比較的近い顔立ちをしている者が殆どでは有る
だが、稀に特殊な特徴を持つ個体も存在する。
犬の様に口元がせり出している者…
豚の様な鼻をしている者…
手に水掻きの様な膜を持つ者…
背中に役に立た無い小、さな羽根を持つ者…
翼の有る小鬼に関してはわ最後の転生は有翼人であったとされており、醜いが容姿は中性的で邪悪な童女の様な顔立ちをしている。
あくまで顔立ちだけは…だが。
何故なら全ての小鬼はほぼオスしか産まれない、で…有るので必然的に他種族のメスを奴隷にして種族を増やす。
容姿に特徴が有るのは一説には母方の特徴を引き継ぐ為だとされているが、それに異を唱える者もいる。
翼の生えた種族など今の人類には存在しない、谷の妖女などの上位の眷属の精神操作は不可能で有る、だから母方の形質を受け継ぐと言う説は間違いで有る。…と
その点は意見が分かれるところで、研究者の対立を引き起こす要因にもなっている。
魂が黒く染まってしまうと霊能に特化した神格者でも霊視が出来ない為、邪鬼の過去生は分からない。だからこそ余計に情報が錯綜し考察者同士で対立してしまうのだろう。
ほぼオスしか産まれ無いとされる小鬼では有るが、色付きと呼ばれる小鬼の上位個体へ進化を果たすと、女性的な顔立ちに変化する者が居る。
これも仮説でしか無いが、メスの奴隷に対して生殖行為を積極的に行わない個体がそうであるとする説もある。
これらのやや中性的な個体は個体差は有るが、色付きと呼ばれる上位種、或いは大鬼にまで進化した時に、完全なメスとして体型と機能が変化する。
精神は肉体によって変化する為か、行動や言動も徐々に女性らしい物に変わるのだと言われている。
…まぁ…オスでもメスでも、暴力的で危険な存在で有る事には変わりは無いのだが…
魂自体に性別は無い、恐らくは邪悪では有るが、元々最後の転生で女性だったとしてもその辺には固執しない者が小鬼に転生するのかも知れない、その辺の魂の残滓は人の姿に近くなる、色付きや大鬼になって初めて反映されるのだろう。
小鬼の上位種、色付きや大鬼の体色は使う邪言の性質によって変化するらしい。
これは魂に関係無く、人類と同じく才能、肉体やそれに宿る霊体の特徴だとされる。
青白い体色は冷気や氷系統や阻害に特化しており、黒に近い体色は固体によって変わるが得意な属性の付与、他者への強化…減退などの邪言を得意とする。
赤の体色は炎と自己強化、青に近い体色は薄めで有れば水に関する術、濃くなると雷撃…罠や障壁の邪言を得意とする…緑色のままで有れば風や短時間空中に滞空する移動系の邪言を使うとされる。
言霊の術と邪言は似て非なる物で、言霊が祈りや願い…理力や霊力を源とし万物に請い願う物で有るなら、邪言は欲望と支配、呪力と負の力で無理矢理、精霊を従わせる邪法である。
これはルーン文字を媒介として、つまりは古代に文字に力を込めた神人を騙って精霊に命令を下す、魔法と似ているかも知れない。
ルーンは文字自体に力が有り、完成された物で有るのに、魔法に走った経緯は、最初こそ弾圧に対抗する為で有ったのだが…
今では魔法を使う者は、己の欲望を満たす為に行使する。
より力を望んだ結果の悲劇であろう、世界宗教に追い詰められての事ではあるので同情の余地は有る。
邪言と魔法の違いとは…
一つだけ違う部分は古代の神人の神威をあてにするか、己の呪力をあてにするかの違いで、どちらにせよ深層異次元の悪魔達の干渉を受けてしまう。
魔法の方がその悪魔達の影響は軽微であるとされている。
つまりは遅いか早いかの違いなのだ、人間達の魔法は魂を徐々に黒く染めるが、その進行速度は遅い。
直接コンタクトを取るに等しい、邪言を使う黒き魂を持つ邪鬼達はどうなるのだろうか?
或いはそれが【魔王種】の誕生を後押ししているのかも知れない…
※【魔王種】に関しては他の項に記載する
ただの子鬼でも注意は必要である、矮躯では有るが筋力自体は現人とほぼ変わらず、脚力に関しては数倍あるとされる、突然飛び上がり高所からの棍棒の一撃で昏倒した冒険者は数多くいる。
言語自体は多少のなまりは有るが我々とほぼ変わらない、つまりアシハラの鬼はアシハラの言葉を話し、西方の鬼は西方の言葉を話す…
但し、二百年近く人類が存在しない西大陸西部〜中部、南大陸最南端の前線基地周辺以外は現在どの様に変化しているのかは未だ分かっていない、潜入調査をするなら【言の葉の護符】は必須であろう。
そんな無謀な者が居るとは思えないが…
小鬼は基本的に邪言を使わないとされているが、街に侵入した小鬼に精神支配、或いは精神誘導され取り逃してしまったとされる事例もある。
邪鬼達の上位進化とはその様にして、徐々に邪言の力に目覚めて行く事で発現する可能性も有る。
大鬼は大戦終結後に、この地の神格者達が総力を上げて狩り尽くしたとされ、少なくとも現在このアシハラには存在はしないが、西大陸にはまだまだ多くの大鬼が存在しており、須弥山の近隣、西大陸極東の一部地域以外はまだまだ警戒が必要である。
積極的に攻めて来ないのが唯一の救いだろうか?魔界と化している場所以外での行動を嫌がる為と、もう一つはこのアシハラと同種の結界を張っているので精神性が低い者には不快極まりない状態になる為だろう。
大鬼を相手にする時は並の冒険者では歯が立たない、ここ百年で組織された焔の巫女と同レベルの霊力を持つか真人、或いは神人と共に戦わねば勝ち目は薄い。
それ程までに危険な大鬼は別名、【歩く災害】とも呼ばれる。
東方のエデン…アシハラに生まれた事を感謝したい…
◆ ◆ ◆
北部辺境、北の大森林……
周囲には所々残雪が残っており木々も針葉樹が多く寒々しい光景で有る。
何故か周囲には濃密な赤い靄が立ち込める。
だが別に、この霧状の物に触れても湿り気などは無い。
それもその筈、この霧は霊素…それも相当に濃密な…
赤い色のものは瘴気とも呼ばれる。
かつて邪霊、悪霊等と呼ばれた物の成れの果てとも言える。
今はただの穢れた記憶の欠片…
霊素自体は別に珍しい物でも何でも無い、下の重い世界ではダークマターなどと呼ばれ、わけの分からないこの世の理解不能な構成要素の全てなどと呼ばれているが、その見解は一部は正しく一部は間違っている。
把握出来る構成要素も元を正せば全ては霊素なのだ。
何者かの認知によりそれがより集まり原子となり、それぞれの物質を形造り、有機物や無機物となり、或いはエネルギー燃料…食物…生命…この世の、下の世界ではあの世とも呼ばれる神界も、全ては霊素で形作られている。
見える物も見えない物も…
それはつまり、より原初の在り方に近い物である。
…但し…この場合は霊体や精霊を形作る構成素材としての性質が強いかも知れない、この状態をエクトプラズムと呼んでも差し支えない、だが邪気、邪悪な負の記憶…思念により穢れてはいるのだが…
その霧の中でも時々形有る生物の様な霧が蠢いているが…
「ダハハハハハ!!!」
威圧感の有る、呪力を伴った大気が震える様な哄笑に形有る霧が震え霧散し瘴気の一部へと溶けて行く。
邪悪で暴力的な、だが紛れもない圧倒的な生命力に満ちた呪力を帯びた波動の為だろう。
悪霊邪霊と言えど所詮は霊体、肉体と言う殻が無ければ、呪力や霊力の波動には脆い…
ここは、邪鬼、小鬼達の集落の一つ。
大酒飲みのドンの部族。
火を囲み、奴隷達に酒を注がせ、人間の男の物と思われる足を焼いた肉を鋭い歯で噛みちぎる。
高らかに哄笑するのは、小鬼の上位種、とまでは呼べないかも知れない、体色は未だ緑色のまま、だが身体は大きく人間とほぼ変わらない。
非常に筋肉質で、所々体色が赤色に変わりつつ有るので、進化の途上に有るのかも知れない。
それにしても…小鬼にしてこの生命力と溢れ出る威圧的、暴力的なオーラは一体?
…数万匹に一匹の特殊個体と言われれば納得も出来るだろうか?
部族の数は少ない、二十匹くらいだろうか?
…恐らくは若い個体大きい部族から抜け出して作った新興勢力なのかも知れない。
「それにしても大戦果だったなぁ!相棒よぉ!!!ダハハハハハハ!!!」
先程…精神支配が完了したメス奴隷の尻をバチンと叩いて満足気に哄笑する。
クセの有る短く刈り上げた金髪に彫りの深い顔立、大きな鼻、白い肌、シミやソバカス…青い瞳にエラの張った顎、骨太で大柄、ボロ布の脇から見える部分からは…筋肉の上に脂肪が付いているのがよく分かる体型。
お世辞にも美しいとは言えないが、肉付きの良い沢山子供が産めそうな良い身体をしている。
子鬼にはメスの美醜など関係無いのだろう。
恐らくは数代前の先祖は東大陸からの避難民だったのだろうか?
相当に筋肉も有るので、冒険者だろう。
今は首の部分にだけ穴の空いた汚れた布が衣服の変わりなのだ。
集落の隅に積み上げられた衣服の中に彼女が纏っていたであろう装具や衣服、食料に変えられた商人や他の男性冒険者の装具や衣服も…
冒険者の衣服と見られる装具には、妙に統一感が有る。
白地に炎と射線の入った光の紋章…
このアシハラの地に於いては【焔の従士】と呼ばれる戦士達の装備品に見られる特徴で有る。
【焔の銃士】とは【焔の巫女】を守る為にそれぞれ志願して来た戦士、冒険者達で有る。
焔の巫女に付き従いアシハラの辺境地域を巡って修練を積み、やがては西大陸を解放する勇者達となる。
そんな栄誉有る戦士達が何故小鬼如きに為す術無くやられてしまったのか?
小肥りな金髪の奴隷が族長に酒を注ぐのを横目に見、部族のサブリーダー的存在の子鬼がそれ程緊張もせず、だが敬意を感じさせる。
憧れだろうか?そんな感情を滲ませボスに返答する。
「オレ達は、アンタが居りゃあ最強だ!いずれはもっと仲間を増やしてデカい街を襲って!そして…そして、アンタがそこの殿様になるんだ!で!俺は侍になる!」
大酒飲みのドンが怪訝な顔で尋ねる?
「相棒?…イダよぉ…たまにおかしな言葉使うよなぁ?殿様って?族長とどう違うんだ?さむ…れぇってのは何だ?」
だが聞かれた小鬼、イダも…キョトンとした顔になる。
「え?わかんねぇ?殿様はデカい街を支配して…侍は…偉い戦士?」
「はぁ?オメェも分かんねぇんじゃ、しょ~もねぇなぁ!それよかよぉ、イダ…お前ちょっとデカくなって…メスみたいな顔になってねぇか?それに昨日の、コイツら襲った時のビカビカって奴とかもよ?身体の色も少し濃くなったか?」
「ああっ!俺がメスみてぇだとぉ!いくらボスでも言って良い事と悪い事が有るぞ!まぁ、あの雷はさ、コイツらの頭、あの赤毛の女の上に雷でも落ちればって呟いたら出来たんだよな、先月捕まえて食ったアレ、あの黒いビリビリする魔獣…アンタが殺した…雷獣?奴の肉食ったせいかもな〜」
「はぁ?アレの肉はみんな食ってんだろ?まぁ、メスみてぇとはもう言わねえよ…でも、お前も強くなったんなら今度はデカい街も襲えるかもな!しかし…コイツラ強そうだったのに…赤毛の女がオメェのビリビリでぶっ倒れたらよぉ!呆気無かったなぁ!一人這いずりながら逃げてった奴もいたけどな!小便漏らして泣きながらよぉ!ありゃ面白かったなぁ!そういやぁ…あの赤毛はどうした?」
集落の奥、山沿いに有る岩屋を見ながらドンに報告する。
「あぁ、アンタの支配の術が効かなかったみたいで、猿轡噛ませて腕縛ってるのにさ、アイツ割と強くてさぁ、暴れるから袋叩きにして、身包み剥いで言霊封じの岩屋に閉じ込めといた。毎日ぶん殴って調教すれば一匹二匹は産めるんじゃねぇか?あんまし言う事聞かねぇなら食っちまうのも良いし…」
だがドンはかつての焔の従士、金髪の奴隷を見つめながら計画を話す…
「調教も良いけどよぉ、アイツは囮に使える。コイツが大事にしてたみたいだしなぁ、戦士達が取り返しに来りゃよぉ、良い武器や防具…美味い食料にもあり付けるだろうしな、取敢えずは、嬲って遊ぶくらいにして生かしておけ…メシも牢に投げ込んどきゃ勝手に食うだろ?」
敵を呼び込む計画を聞いてイダが慌てる。
「戦士達が来るんだろ??仲間増やして…装備も集めないと…先ずは隣の集落の頭と一騎打ちして…奴等の部族を吸収して…」
「違うだろ!イダ!お前の出番だろうが!この集落を罠にしてよぉ!みんな隠れてだなぁ、じっくり観察して…頭株の奴見つけてな?お前のビリビリで、奴らが慌てたら、全員で袋叩きって寸法よ♪ヒヒッ、早速誰かに、あの…奴等の火の紋章を旗にして近くの街に挑発に行かせろ♪」
◆ ◆ ◆
北の大森林を根城にする小鬼達が焔の巫女を攫った。
そんな話が広まったのは正人達が修練を終え、山を降りて暫く後…
第五居住可能区域に有る東の辺境の入口に程近い街で、正人達と同じく異世界から来たと言う老人から聞く事になる。
だが、それは未だ少し先の未来の話…
m(_ _)m高評価ブクマよろしくお願いします…
魂が腐ってしまったら最後には燃やして灰にするしかないのざぞ?




