↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山間討鬼伝…【R15】  作者: くとぉ
三章 魔界の生態学
12/31

①沼地の邪鬼



マドカが言霊を使い、庵から少し離れた森の中を整地して、約三十分程で作り上げた修練場で初めての訓練を行った。


訓練場から三人で戻る途中の会話、正人の惨めな泣き言が周囲に木霊する。


その訓練の内容とは美咲と正人の組手であったのだが…


英二と涼夏は体力作りのランニングを終えた後に、少し修練場の様子を見に来たのだが、余りにも一方的で凄惨な有様に、目を背けながら…今は庵に戻って座学に励んて居る事だろう。


「うぅ~酷い目に遭った…俺…やっぱり美咲ちゃん嫌いかも……ってか!やり過ぎだろう!見ろ!この顔面!……アレ?…でっ…でも!…鼻血の跡見ればどれだけ酷いかは分かるだろ?…何であんなに簡単に人の顔面を殴れるんだ!容赦無さ過ぎだろ!人の心が無いのかよ!」


そう、【地霊の加護】の回復能力で、蹴りを受けすぎて既に上がらなくなった筈の腕も元通りになり、素早いジャブを何度も打たれた青痣、打撲だらけの顔面も今は鼻血の跡を残すのみでとっくに回復している。


「えぇ?私に意地悪な態度取ってたの反省したんじゃ無かったの?直ぐに直るんだから別に良いじゃない!…あれぐらいの傷でさ、アタシの親友は女の子なのにあの顔面ボコボコの状態で殴り掛かって来たんだけど?…正人君と来たらさぁ、直ぐに目を瞑って、目を閉じたら余計に攻撃が当たるに決まってるじゃない!」


「あの状態で反撃出来るって一体どんな女だよ!どっかのヤンキー女とオタク学生を一緒にしないでくれ!それに加護があっても痛いモンは痛いんだよっ!」


「そんな立派な身体してんだからさぁ、アタシのダーリンよか恵まれてるんだよ?…覚悟の問題よね、それにダーリン…英二は正人君より弱いかもだけど、戦いで目は閉じないと思う。」


それは美咲の言う通りだろう。


英二は生粋のオタクで体格も小さく、身長は美咲とほぼ変わらない、体力も…腕力も…正人には及ばないだろう。


それでも彼は敵を目の前にして目を瞑る様な真似をしない、目を開けたまま、勝てずとも殴り掛かり、痛みに耐え気絶するまで耐えるに違いない、特に…美咲を守る為ならば。


「まぁまぁ♪二人ともその辺にしときなさい、明日も有る。兄弟は目を開けて組手をする事を意識して、そうだなぁ、今は無理に攻撃しようと思わない事だ、それも兄弟に取っては高いハードルだろう。明日からは防御と回避に専念して訓練を続けようか?大丈夫!地霊の加護が最大限効果を発揮出来る様に訓練場は出来ている。世界でこれ以上安全な場所は無いからね、さっ…二人とも身体の整備をしたら昼食にしよう、昼休憩の後は、午後は座学から、邪鬼の事を知ろうか、小鬼ばかりが邪鬼では無いからね。魔界には今のアシハラの【システム】の影響と言うか…地形上、沼地がかなり多く出来てしまったんだ。沼地の邪鬼に付いて色々と解説するから…まぁ休憩の延長だと思って気楽に聞いてくれ…」



 ◆ ◆ ◆



【沼地の幼女】


沼地の妖女、或いは沼地の幼女とも呼ばれる、文字通り女性に近い姿をしては居るが、単性生殖の半動物半殖物の肉体を持つ、黒き魂の眷属…邪鬼の一種で有る。


声を発する器官が無く、邪言は使えないが、代わりに沼の瘴気を変質させた毒性の粘液を吐く事が出来る。


寿命は数年から長い者で十年程度、汚い藻の様な髪に薄っすらと乳房らしき物が有り、身体の各所は苔の様な獣毛に覆われている。


知性は乏しく、小柄で醜い幼女の様な姿を取る。



本来は単生生殖の魔獣であったらしいのだが…


下の重い世界…人間のみの世界に転生出来なくなった黒い魂が溢れた結果、その低い精神性に見合った肉体をこの世界で得たのだと言う。


現在はその依代となった生物の本来の形を歪め、女性の形だけを持って増殖する不快な生物と成り果てた。


黒い魂を持つため、堕ちる前の転生体が幼女のまま亡くなったわけでは無いだろう。


魂が黒く腐りきった時点で人の胎児へは宿れない、人間は善と悪の狭間に生きる生物では有るが、それには限度が有ると言う事だ。


人間であった頃は成長しても大人になりきれず、自身の問題と不幸を全て他者へ押し付け、周囲に怨嗟を振りまく呪物と化していたのだと云う。


そんな哀れな生物、沼地の幼女を孤独汚婆(こどおば)と呼ぶ者もいる。


本来魂に性別などは有りはしないのだが、元の魂の持ち主が女性で有る事に固執した為に、女性型の邪鬼に進化したのでは無いかと推察されている。


また元の魔獣の生態がそうであった様に、沼地から離れて生活する事は出来ない。


時が来れば分離した髪や皮膚の一部が沼地の瘴気を吸取り別の個体へと増殖するが、分裂時には稀に魂を持たぬ個体も発生するらしく、分裂元の個体の性質を受け継ぎ女性型にはなるが、元々植物系でもあり感情は乏しく攻撃性もそれ程無く、空腹で無ければ非常に大人しいとされている。


またオスを毛嫌いしており、沼に他の種族のオスが近づくと毒を吐いて執拗に攻撃して来る。


女性は容姿が美しく無ければ攻撃の対象にはならないのだが…


美しい容姿を持った獣人や現人の女性は集団で攻撃され、切り裂かれ、骨の髄まで食い尽くされるので注意が必要だ。


また綺麗な宝石や装飾品に目が無く、たまたま旅人を襲って捕食した時に、その手の宝飾品を得る個体がいると嫉妬とやっかみで共食いを起こす事も有る。


持っていたところで使う宛など無いのだが、人であった時の残滓で有ろうか?


但し、【青鱗の魔女】が統治する集団で有った場合は、そちらに財宝や捕獲したオスを捧げる為に同種での諍いは起こらない。


また子連れの夫婦で旅をする旅人も注意が必要である。


黒い魂に染み付いた習性によるものなのか、恋人同士、夫婦や家族連れに激しい憎しみを抱いており、過去の記録では街の直ぐ側まで追い掛けて攻撃して来たと言う事例もある。


また沼の幼女に寄生、或いは共生する別種族も存在する。


何を勘違いしたのか、群れからはぐれた小鬼が近くに生息している事も稀に有る。


妖女に毒を吐きかけられ、運良く逃げ出せた旅人を襲って捕食し、または食料として沼の幼女に捧げる特異な行動を取り、とある真人の観察で明らかになったのは遠目に沼の妖女達を指を咥えて盗み見ていたとの報告も有る。


連中は容姿は女性だが単生で生殖機能は無い、食べて排泄するだけの存在で、例え彼らが生殖行為を要求しようがそんな機能は持っていない。


哀れな話で有る。


基本的にはあらゆる種族のオスを毛嫌いする性質を持つ沼の幼女ではあるが、その子鬼達はエサを提供してくれる存在では有る為、彼らは冷やかな視線を投げ掛けられる事はあっても攻撃される事は無い。


そんな変わり者の小鬼は皮肉を込めて妖女の…幼女の騎士、或いは人を襲って食料を確保し指笛を吹いて幼女にアピールする事から笛魅鬼士(フェミきし)とも呼ばれている。





◆ ◆ ◆





【青鱗の魔女】【青鱗の魔人】


青鱗の魔女は幼女と同じく瘴気溢れる沼に住む…


いや、少し違う、活動拠点とする邪鬼の一種で有る。


全身の大半を青い鱗に覆われた姿で光彩の無い邪悪な赤い瞳と、爬虫類にも似た尾を除けば、それなりに美しい肉感的な美女に見えるかも知れない。


沼地の幼女とは全くの別種では有るのだが、何故か沼地の幼女は青鱗の魔女の指示に従う。


幼女達を焚き付け、オスに対する憎悪を煽り、旅人を襲撃させる。


人であった時も、恐らくは他者をけしかけて漁夫の利を得る人生であったのだろうか?


沼地の幼女達をけしかけ支配する青鱗の魔女は別名、隠振怨嗟(いんふるえんさ)と呼ばれる事も有る。


何故別種の沼の幼女達が従うのか?


これには魔女の邪言で操作されている説と、自分達の上位種で有ると勘違いしている説と二通り有る。


女性型の邪鬼は上位種が存在しないパターンも多く、青鱗の魔女は進化は起こさないが、成長し加齢と共に大きく能力を増す、生物としては完全に別種の沼地の幼女が、いくら憧れようと青鱗の魔女にはなれないのだ。


西大陸には【魔王種】に進化した魔女が暴れ回っているらしいが、これは進化と言うより変異に近いもので諸説あるが、それは【魔王種】に至る経緯でも有る為、別の項で説明したい。


彼女らの生活水準は意外と高く、実は住処は沼地では無い。


彼女達は邪言で支配した他種族のオスを使役して水場の洞窟に住居を作らせ、財宝を溜め込み割と文化的な生活を送っている。


支配した他種族のオス達は暴威頭(ボーイズ)と呼ばれ、身体能力に秀で美しく戦闘力が高い…元冒険者であった個体が多い、彼らは食料では無く、子作りする為のオス奴隷であると同時に強力な兵士でも有る。


邪言で支配されている為、住処を荒らす者は人類であろうが躊躇せずに襲い掛かって来るので、魔女を討伐する際には注意されたい。


また魔女自身も、高い戦闘力を持ち水術系の高度な邪言を操る。


斬撃に特化した人を傷付ける長い爪…


精神支配と水流や水毒生成に長け、逃げ場も無い水場に有る洞穴の内部で巨大な水流の柱をぶつけられ、四肢が千切れ飛んだ冒険者は後を絶たない。


彼女達との水場での戦いは死を意味する。


だが炎に弱く、住処を突き止め燻して隠れる場所を無くし、外に出た所を炎上させるのが効果的かも知れない。


陰振怨嗟こと青鱗の魔女は炎上に弱い、覚えておくと良いだろう。


それでも危険では有る、だが…討伐出来れば大量の財宝を得る事が出来る筈だ。


彼女達の種族は小鬼とは逆に、生まれて来る者は殆どメスばかりである。


子作りは精神支配したオスの奴隷と行うのだが、一点だけ疑問が残る。


一見爬虫類にも見え、粗乳類で有る現人や獣人とは交配など出来るとはとても思え無いのだが…それには諸説有り…



彼らの元の素体は所謂レプティリアン、ナーガ、竜人と呼ばれる地球の先住種…の下位種にあたるレッサーリザードマンと呼ばれる亜人族であつたとされている。


現人に取っての類人猿の様な存在であったとされてはいるのだが、類人猿よりも遥かに古い種で有る為に、元々木製の槍などを作る程度の知能はあったらしい。


竜人とその下位種達の歴史は大型獣人以上に古く、古い星神達と何らかの取り引きも有り、文明も星神に近いほど発達している為に星神達の実験体で有る【人類】に対して然程興味は持っていないとされている。


その点から何らかの取り引きがあったと考えられ、竜人達は不安定な地上を離れ、安定した地下世界、或いは外惑星に移住し星神の実験には我関せずの姿勢を貫いているらしい。


だが…それは主流派のみであって中には、地球の異物である人類を快く思わない種族もあったらしく、過去には人類を攫って何か改造を施した、或いは遺伝子を採取して…自分達の下位種に…等という都市伝説めいた噂も有る事から…


その実験の結果派生した人類と交配出来る新種のレッサーリザードマンに黒き魂が宿った存在である…と言った珍説も存在するが、魔女に近付くのも捕獲するのも危険極まりなく…詳しい事は分かっていない。



メスとして産まれた子供は成長すると母親から離れ、沼や水場の近くを根城にして独立する。


稀にオスが生まれると母親は絶対に手放さず、子供は甘やかされ、上げ膳据え膳で育てられる。


過剰な執着と歪んた愛情も黒き魂故で有るのだろう。


オスの子供の方も母親には一切逆らわず、言いなりになって生活し、不思議な事にどの個体も白い髪を同じ形状のマッシュルーム型に切り揃えられるのは、魔女の文化なのだろうか?


成体になってもまだ乳をせがむ事すら有ると言う事例と、その鈍牛の様な大きな身体と生気に欠ける無気力な生活から…


乳依牛(ちいぎゅう)などと呼ばれ、冒険者から嘲笑される存在である。


無力な牙を持たぬオスは、愛情深く過度に心配性な子離れ出来ない母親によって作られると言う事実の好例であろう。


悪徳や危険から遠ざけられ、安心安全だけを求めれば生物はやがて気力を失い役立たずと成り果てるのだ。


その為に成長しても能力は低く邪言も使えない、黒き魂も宿さないとされ…知能だけは親の形質を受け継ぎ高いが…大した抵抗はされないケースが多く、討伐は容易だろう。


そう…普通であればオスの子供に危険性は全く無いのだが…


だが、幼体の時に母親を討伐し、幼いから可哀想だから、と始末せずに生かして置くと大変な事になる。


長じて災害級の邪鬼である大鬼に匹敵するとされる【青鱗の魔人】となる。


彼らはメスの子供の様に魔女となる為の教育をされないが故に、邪言は使えない。


たが、母親以上の硬度を持つ青鱗を持ち、身体を覆う粘液は弱い火炎や雷撃を軽減し、或いは散らすのだと云う。


一応粘液は油の一種であり、火炎が弱点では有るのだが、炎上させるにはそれなりの火力を持つ術で無ければ難しいと言われている。


また大鬼に匹敵する腕力と鱗同様の硬さを持つ鋭い爪を振るい、近接戦闘だけに絞れば大鬼以上に厄介な存在でも有る。


ヨチヨチ歩きの幼体でも注意は必要だと言う事だ、放っておけば母親の憎悪の念と、黒き魂を噛み砕き、全て成長の為のエネルギーに変え吸収変異し、【青鱗の魔人】に成長するのだ。



邪鬼や魔獣の成長は早い、数年で大鬼に匹敵する戦闘力を発揮する様になり、母親を殺した冒険者の波動を追い、探し当て…街を襲うのだと云う。


分類するので有れば魂を持たない事から魔獣に分類される事も有るが、災害級の脅威で有る事に変わりは無い。


黒き魂を噛み砕きエネルギーに変える行為…それは非常に禁忌に触れる行為であるのだが、青鱗の魔人が邪鬼では無く、魔獣に近い存在で有る一点に於いて、幸いで有ると言うべきかも知れない。


何故幸いなのかと言えば…それに付いては後程【魔王種】の項で詳しく説明すべきだろう。


このアシハラ、及び旧大八島国に於いても過去に何度が出現した事例が有る。


最も最近で有ると、新生歴二百年代初頭にアシハラ南部の3区の街に出現した事例では、討伐されるまでに街を半壊させた例も有ると言う。


例え無力に見えても、黒き魂を持つ存在にに温情を掛けてはならないのだ。


全てを失い、自分の命すら投げ捨てる暴れぶりから、青鱗の魔人は別名…【無敵の人】とも呼ばれ恐れられている。


母親に大切に甘やかされ育てられると役立たずに成長し、親を早くに亡くすと凶悪に…有る意味強靭に育つとは何とも皮肉な話で有る。



 ◆ ◆ ◆




「へぇ~沼の幼女かぁ…邪鬼になる前はどんな人間だったんですかね…」


話を聞いた英二がマドカに問う。


「そうだなぁ、君等の話を聞く限り、君の時代ではまだアレになる黒き魂は生まれないだろうね。もっと先の時代にそうなってしまう要因が有るんだ。だが、それはもっと以前に種が蒔かれた結果でも有る。こちらの世界だといくつかに別れた悪神の残滓、西の大陸の北の地に降臨した大悪の一つ…【平等】に起因するんだと思う」


「おいおい!待ってくれ平等公平なのは良い事だろう?何で大悪になってしまうんだ?!」


「うん?えっと似ているけど…平等と公平は別物だよ?兄弟は勘違いしてるんじゃ無い?まぁ、固執し過ぎず程度をわきまえればそこまで平等も悪く無いかも知れない。だが悪神を形作っていた概念は分裂し、その【平等】が宿った対象は全てを等しくしようとした。能力が高い者も低い者も、持てる者から奪い、持たざる者に分け与える。それはもう努力は意味をなさない、平等も過ぎれば新たな不公平の温床と成りうる。その概念は宿った対象の死と共に薄まり、拡散し宿主を変えた。そう…弱体化して対象を完全には支配出来なくなった。つまり…」


「何となく理解出来ました、残された新たな宿主達はそれぞれの主観でそれを捉え、更に歪んで、世界に広がって行った…と言う所では?」


「その通り英二は鋭いなぁ♪最終的にはその思想は西の大陸の極東地域を覆い、アシハラ…かつての大八島国にまで侵食し暴れ回った。歪んだ平等の思想を持つ者達によって。更に厄介な事に瘴気では無く神気の残滓でも有るから浄化も出来ない。広がり薄まるのを待つ事しか出来なかった。それに危険な世界でもあったってのも有るけど平等が歪んだ結果男女の溝は深まり、男女それぞれの役割を放棄する者が増え始め…人々は出産を嫌がり、或いは躊躇(ためら)い、人口は減少の一途を辿った。アシハラの神人達はその思想の流入による人々の精神汚染を止める為に大地を動かし岩山を周囲に作り出し、一時期は島の周囲を全て閉じたくらいなんだ。」


「成る程ね~あの何処までも続く岩山の連なりは、その時の名残ってコトなのね♪」


美咲は納得した様にウンウンと頷いているり


「そうそう、それを行ったのが…君等の西暦?だと…1999年だね、地震で多くの人々が亡くなってしまったけど、大八島国における黒き魂の増加を止める為には、その当時の国家を滅ぼすしか無かったのさ、大八島国の政治家達の多くも侵食されて魔人と化していたからね。」


その話に正人は眉を顰める。


「またとんでもない事するもんだなぁ~ある意味虐殺と同じじゃないか…」



「兄弟の言いたい事は良く分かるよ?でもね…放っておくと…バランスの崩れた世界ってのはある日突然消えるんだ。全てが無かった事になる、これは次元の高い世界でも低い世界でも同じ、いくつもの世界腺のラインが有るとして、ある日突然その一つが消去される…そんな感じかな?だがその兆候は下の世界よりもこちらの世界の方が分かりやすいかもね。この世界が消える時は地球の全てが魔界になった時…瘴気に覆われた時なのだよ、【大八島の大崩壊】の前には世界の八割が魔界になってたからね…手遅れになる前に…って言えば理解して貰えるかな?」


疑いの響きで英二が質問する。


「世界が消えるって…流石に荒唐無稽としか思えませんが…一つの宇宙が消えるって事なんですか?」


「いや、その瞬間に地球の存在しない宇宙が誕生するらしいね。僕達真人レベルでは観測など出来ないんだけど…多次元の自己と情報共有出来るタイプの星神や一部の神人はそう断言しているよ?だから現在この新生歴の世界に国家は存在しない。」


「その話が本当だと仮定して、消しているのは何者何だろうな?神…超越存在って奴か?それとも宇宙に組み込まれたシステムってのもあんのか?う~ん分からん……あぁそう言えば他にも大悪は存在したんだろ?」


「勿論侵食してきたのは歪んだ【平等】だけでは無いけどね、悪神の残滓は他の概念を宿す者と戦争し始めた。それが世界が壊れ掛け魔界が増加した原因でも有る。」


「難しい話ですぅ、マドカ様ぁ、他の悪神の概念ってどういった存在だったのですか?」


今度は涼夏が質問する。


「大きいものから小さいものまで色々とあったけど、大きなものは、【自由】【平等】【博愛】そして一番危険な【正義】これらは四大悪と呼ばれているのさ、旧大八島に関しては歪んだ【平等】の影響が一番強いかもね。当時の大八島は東大洋を超えた先…超大国、銃の国と付き合いが深かったから【自由】や【正義】の影響も強かったかも知れないね。まぁ僕の生まれる前の話では有るから伝え聞いた話だけになっちゃうけど…世には自由を振りかざず無法者で溢れ、正義を振りかざし、異なる考えを持つ者を悪と断定して攻撃する者ばかりになったんだってさ…」


「………俺も流石に分かって来たぜ、分量を間違えれば確かに危険だよな、しかも元々は一緒だった物がバラバラになって、宿主達はそれに固執した存在、他のモンなんか一切認めない、と来れば戦争にもなるのか…うぅっ…確かに怖い、思想ってのはある意味疫病だよな…人の心に巣食う…」


四人の学生達は皆微妙な表情になり押し黙る。 


マドカは気にせずに大悪の説明を始める。


「西大陸の北に落ちた【平等】そこから少し南西に落ちた【正義】そして、東大陸に落ちたのは…【自由】と【博愛】…それに大戦初期に神人達が破壊し悪神を分裂させてしまった。悪神の核になっていた【選民】と【支配】の残滓も薄まってはいたが、分裂して世界中あちこちに宿主を求めて飛び散って行ったんだ。大八島国が無くなった世界で闘争は激化し世界の九分九厘までが魔界に堕ちる結果となった。…」


「じゃあここが、アシハラが本当に最後の聖域なの?」


「ん~まぁ…実質的にはね。現在は人類が一番多い地域ではあるかな?西大陸南方の島々…下の世界で言う東南アジアには、こちらから何人か上位者が向かって小聖域を浄化したりして、数万人規模では有るけど人類が集結して抵抗している。後は西大陸の西の果て…氷の島に数十万のコミュニティがある。神格者は全部アシハラに集まっていないんだけど、精霊から進化した霊性の高い存在、エルフへの信仰が厚い土地でね。彼らが終末の大戦時に姿を現したお陰で世界宗教の影響が他の西方諸国より軽微だったのさ。それでも人類の生息域は狭い、残りは西大陸の須弥山周辺とここアシハラに殆どだね。まぁ東大陸の北部の沿岸部に数百人規模のコミュニティ何かも点在してるらしいけど…担当じゃ無いから詳しくは分からない」


「アメリカ…えっと…東大陸には人類の生息圏は無いんですか?」


「東大陸は少し複雑でね、別の日に纏めて教えてあげるよ、今は巨大な結界を張って閉じ込めてるからあまり関係無いしね。じゃあ話を戻そう、大八島国には世界中の大勢の神格者や精神性の高い人々が移民に紛れて大戦前に避難してきたんだ。大戦後に壁を一部崩して西大陸極東地域や東大陸から逃げ出して来た人々を受け入れもした。神格者に近い者達は兎も角として…一般の避難者は文化の衝突で精神性を落として辺境…或いは魔界に流れて行く者が多くてね。まぁ彼らは大地震で現地のアシハラ人が生き残っているなどとは思って無かった者もいるだろうし…万が一生き残っていても制圧して支配下に入れてしまえば良いと思ってた人々も多かったんじゃ無いかな?」


「確かに知らない土地で自分達の我儘で習慣を押し通せば。精神性を落としてしまうだろうなぁ…ってのは分かるけど、何で辺境に行ったんだ?」


「新生歴ゼロ年に大地を動かしたって言ったろう?その時も多くの人死にが出た。それでもやらなければならなかった。大八島の地形は複雑に入り組んでいてね。人の生息領域は飛び地になり、その上魔界の侵食、悪神の残滓を滅ぼしても人類は追い詰められたままだった。大部分の避難民が辺境に行く羽目になったのは【有徳律】の法則の影響かな?龍脈と新たな世界の法則とかね…君らがアシハラで活動する時も影響は受けるだろうし、別の機会にもっと詳しく説明はするけど要約だけ伝えておこう」


英二は顎に手を当て考え込む。


「補給や人々の行き来が断絶されてしまっては、いつ奴らに滅ぼされても…大地を動かすか…スケールが違う…」


「要約すると、今アシハラはほぼ円形の小大陸と言って良い。そして円の中心から結界を多重に張っているのさ、龍脈を利用してね。つまり人々は精神性に応じた地域で無ければ生活が出来ない様になった。文化、多様性を維持するには棲み分けると言う選択肢が最もベストなのさ、精神性の高い者は思想が違ってもそれは人それぞれと互いに干渉せずに一応の共生は出来るが、精神性低い者は己の正しさを疑わず相手を罵り押し付け合い、ゴリ押しして更なる軋轢を生む者が多いからね、どうしても棲み分けは必要なんだ。」


特に…いつも持論を押し付け合う正人と涼夏は非常にバツの悪そうな顔で焦り出す。


「うぅっ!耳が痛い!俺もちょっとそうゆー所有るかも…」


「あわわ…私はいつも正人君の事を認めてますから、大丈夫、罵ったりしてません……よ?……そう!あればあくまで議論なのデスから…」


マドカは苦笑しながら二人に告げる。


「あ~別に無理なんかしなくて良いんだ。そんなの一度の転生では中々至れない領域なんだからさ、無理して綺麗事を述べれば本性が逆に透けて見える。正直で構わないんだ、嘘を語って善人を装えば、それはそれで魂の汚れに繋がる。段階に応じた生き方が有るんだよ…」


「青鱗の魔女と青鱗の魔人ね、あの女…アイツは絶対に死んだら青鱗の魔女になるわね。手下を使ってアタシにあんなに酷い事するんだもん、そうに決まってる、何か男にチヤホヤされてたし…」


美咲は誰かを魔女に当て嵌めたいのだろう。


「どうだろうね?少し君の記憶を見てみようか?」


「うっ…それはちょっと…その恥ずかしいってゆーか…」


美咲は何故か顔を赤らめる。


「ああ、その彼女の事を思い浮かべるだけで良い、君の私生活は見ないから大丈夫」


「そ、そうなの?それなら…ちょっとだけ、どうすれば良いの?…あっ……」


マドカは指先を美咲の額に当て目を瞑る。


「幼い魂、成長出来ない環境、恐怖と衝撃、祖先から受け継いた力、成る程…何も知らず純粋で有るが故に歪んでしまったのだね。恐らくは一つの人生でより多くの経験を得る為に宿ったのだろうが、過酷だな…なんて無茶な魂なんだ…ギャンブラーだよ…」


「え~~?何よそれ?!それじゃ、あの娘は元々悪く無いみたいじゃ無い!絶対真っ黒だと思ったのに…」


「そりゃあ君の主観で見たらそうかも知れないが、人生はね…ゴールと経験すべき課題は有れど、基本的には何も決まっていない白いキャンパスみたいなものでさ…」


「むう…納得行かない…」


「何かを経験しなければならないが為に、そうなって行くってパターンも有る。そう云ったものを歪めて現世での利益を独占しようとしたが為に、輪廻のシステムに手を加え魂を腐らせるパターンと、他人に影響され自分で考える事を放棄して、そんな人生が続いたが為に魂を黒く染めていく、魂の嗅覚が鈍ったが故にそうなるパターン、こちらの世界で言えば過去の世界宗教の信徒達とかね、後者は【沼の幼女】とか【青鱗の魔女】は少し違うかも知れないけど、前者に近いかもね、君が嫌いな彼女は単に未熟なだけさ…それより…」


マドカは息を吸い込み思考に沈む。


(もう一人見えた美咲が恐怖を抱く者、だが…彼女も別に黒い魂では無い、経験を積んだ古い魂ではあるけど、それよりも肉体に少し違和感が有る。祖先の性質と嗜好をほんの少し受け継いでいる。下の世界では異質な…肉体に微かに残る邪鬼…小鬼の因子を感じる。僕が円谷正人であった時の向こうの記憶は薄く、何故時空の穴に落ちたのかは定かでは無かった。この若者達が語る古い時代の文献と小鬼の描写、少しだけ見えたかも知れない。だが…僕は円谷正人が自力で帰還出来る様に手助けするのみだ。)


「なぁ…マドカさん、美咲ちゃんの霊視はその辺にして【青鱗の魔人】の出現で街が半壊したって有るけど…何?この大量破壊兵器が暴走したみたいな描写は、盛ってるだけでしょ?この本…」


「ん?…おお!それは嘘じゃ無いよ?歴史上出現して甚大な被害をもたらした事は何度かあったけど、その描写はね…僕が人であった頃の故郷の描写なんだぜ?実際にこの目で見てるから間違い無いよ」


「そ、そうなのか?マジか…後学の為に詳しく聞かせてくれよ、こっちの街も人がどんな生活してるのか興味有るし…」


「そっか、じゃ僕の若い頃の話をしようか、街での生活の事もね…あれは…今から六十五年前………………………」


修練初日の午後…


四人の若者達の学びはまだ始まったばかりであった。




1と2を一つに纏めて加筆しました☆


フィクション…なんて素敵な魔法の言葉…

(人´∀`).☆.。.:*・゜

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。