前回に続き「座右の句」(2)の掲載です。完了です。
前回に続き「座右の句」(2)を掲載します。
座右の句 (2)
話しは変わるが、以前NHK仙台放送局の総合TV番組で『東北ココから』がある。この番組で「《今》を共に~膵臓がんの患者会』(注1)という番組が放送された(初回放送 R5:7:7)。
内容は、仙台の『膵臓がんの患者会』のメンバー同士が交流し親睦を深めている姿の紹介であ。番組に登場された方々は男性女性計7~8人だった。年齢の紹介はなかったが映像を見る限り30代~60代で、いずれも人生真っ盛りの年代の人たちである。
会の皆さんは日頃の悩みである抗がん剤治療の副作用、倦怠感や目まい・ふらつき・さらには脱毛など、人には一概には分かってもらえぬ苦しみを持っている。それを自分の生の言葉で語り合う。そしてそれをどう乗り越えたかの経験を共有する。脱毛にはオシャレなウィッグなどの、情報交換もしあうというのだ。番組では触れられてはいなかったが家族との関係やお金の問題も尽きない。
それでも活動はお互い元気なうちにと、ダンス会を開いたり、5月には記念にと、女性はドレス姿、男性はスーツ姿で写真撮影会の開催もした。時には食事会などで笑いを交えて普段の生活上の工夫なども語り合っているそうだ。
皆さんは口を揃えて、“”勝てないまでも負けない工夫“”が必要なのだという。どこでもいつまでも ”その日まで明るく、その日まで楽しく” がモットーなのだそうで、ここにこの会の凄さがある。
番組を見て印象にに残ったのは膵臓がんという稀有な難治療がんを抱えていても、メンバーの表情は明るくネガティヴなイメイージはさらさらない。むしろ悟りを得たような爽やかさがあった。
日本人の死亡原因は「第一位悪性新生物24.6% 第二位心疾患14.8% 第三位老衰(11.4%) そして脳血管疾患(6.8%) 誤嚥性肺炎(3.6%)〈R4厚生労働省調べ〉」と続く。 因みに術後の5年生存率は大腸がん63.8%、胃がん62.3%、肺がん43.2%、膵臓がんのそれは11.8%である。(資料 国立がん研究センター2014ー2015)。
5年生存率を見ると、医療技術が進歩した今日でさえ膵臓がんは他のがん疾患より飛び抜けて生存率の低さが窺える。膵臓がんで年間37000人の死者が出ている。生存率の低さから見えてくるのは膵臓がんは難治療中の難治療のがんといっていい。
その日、その時まで、瓢水の句の如く思いを棄てず生きる「膵臓がんの患者会」のメンバーの皆さんこそ、 ”浜までは海女も蓑着る時雨かな ” を地でゆく実践的教師といえよう。私はこの番組を見て感激したものだった。
三度話は変わる。私はかって通所の老人介護施設(注2)に勤務し、今は同所のボランティアとして活動している。
この施設を利用者している高齢者には、介助なしでは歩けない人も、食事に見守りを必要とする方も、そして認知症の方もいる。それでもそれぞれ思い思いに、この介護施設に通所されて、歌を歌い、職員の介助のもとに入浴し、食事を共にし、飾り物の工作や、ぬり絵、文字合わせなどをして施設での時間を過ごされている。
このような場で多数の人と交わり一緒に手足をつかい会話をすれば一定の体力は維持出来るしまた、何よりも社会性が保たれる。老人介護施設に通うということは高齢者にとってはこれこそ、瓢水の言う蓑代わりなのである。その日、その時まで生きる努力をし続ける。やがてそれがQOL(注3)の向上にも繋がってくる。この施設にも瓢水の”浜までは海女も蓑蓑着る時雨かな ” の立派な実践者がいるのである。
瓢水は躓いてこれが出来なかった。瓢水は浜で蓑を着る海女を見て、羨望し自責と自戒を込め、想いを赤裸々(せきらら)に語らず、われわれにそっとこの含蓄のある句を遺してくれた。われわれもこの句を受け取り、そっとポケットに入れる。いつでも、どこでも取り出せるように。
以上、瓢水の句がなぜ私の”座右の句”であるかを縷々説明した。かっては介護施設に勤務し、今は同所のボランティアとして活動し、このようなエッセイを投稿することは、私もその日までは”濡れざらましと” 蓑を着る一人のささやかな実践者なのである。
瓢水の句に答歌を詠んだのでご披露する
答歌
”蓑なくば手の甲でもしのぐ時雨かな”
(注1)
『東北ココから』のHPがあり直接 “《今》を共に~膵臓がんの患者会”
と入力するすると放送された内容をご覧になれる。
(注2)
認知症ディサービス塩釜となりの家翔裕園
(注3)
QOL :Quality Of Lifeの頭文字で、人の生活や人生の豊かさを示す
重要な指標。
了
完了です。感想ありましたらお待ちします。