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24話ー側近ー


ーアルパース大穢場 第1拠点 5時07分ー


 8分にも及ぶ攻防で、アルパース第5軍の数名が命を落とした。


 ラウーシュには着々と、心身的疲労が溜まっていく。


 クルスエドは他の兵士と位置を入れ替えながら、ラウーシュの隙を突いて攻撃に入る。


 ラウーシュも、クルスエドの狙う精度の高さを警戒し始めていた。よって、格納魔法により刺突剣を取り出す。


 変わらず、瀕死の兵士はラウーシュへ攻めることを止めない。


 条件反射に近い感覚で、向かってくる兵士に刺突剣を突き向ける。


 兵士の首を貫く刀身。


「あがっ……」


 声が漏れる。


 兵士は瞳孔を縮め、その刀身を掴む。


「……っ!!」


 その兵士は、自身に向け拘束魔具を発動。刀身を掴み喉に力を入れた状態を固定した。拘束を解かなければ、微動だにしない。


 刺突剣を引き抜こうにも、それすらの動きも別の拘束魔具により邪魔される。


 ラウーシュには、優先順位の判断が強制された。


 ①致命傷にならない兵士の攻撃を見切り、傷を負ってでも刺突剣を引き抜く。傷はリスクになる。


 ②刺突剣を手離し、再度格納魔法にて刺突剣を取り出すか、生命力を消費して穿廻(せんかい)を多用するか。刺突剣の残数は重要な為にリスクになる。


 ③刺突剣を手離し、空中で体勢を整えるか。空中に留まることは穿廻を継続的に使う為に大きな生命力消費の為リスクになる。


 ④側近の隊に移動力が乏しいと判断し、この場を去って前進するか。この計画が長引いた時、遅れてやってきたこの隊がリスクになる。


 ⑤予定より大幅に生命力を消費し、即座にこの隊を消滅させるか。影を使うリオルドランが後に控える為に、その消費は大きなリスクになる。


 ラウーシュのこの思考は、瞬きが終わるまでの間に脳を駆け巡ったのだ。


 リスクの隙間を潜り抜ける、豆粒にも満たない最適解を見つけるに至る。


 リクをも唸らせた反射神経は、ここでも光る。


 微力な生命力を刺突剣に込め、予想通りに拘束される。その間、刺突剣は回転。兵士の手の皮膚を剥がし、首の傷口を広げる。拘束を解くと同時に緩んだ刺突剣を引き抜いた。


 ……危険だ。


 この軍隊は、恐れるに値する。


 大穢場(おおけがれば)を持つ大国として、この場所を護るだけのことはあるな。


 ヨロレイヒ湖国で対峙したオドムも個としてはそれ程だが、この軍を率いていたとなれば話は変わってくる。


 後に控えるリオル……そうか、俺はビビっちまってるんか。


 あの影の奴を、恐れてる。


 リスクリスクって、今の状況を打破しないでどうする俺。


 今現状で回避できるリスクは、この隊を消滅させることだろ。


 【穿廻(せんかい)ゼレ……】


 ラウーシュが技を出そうとした時、視界の端でクルスエドが動くのを捉えた。


 クルスエドは左手に拘束魔具を握る。


 ラウーシュの脳は、拘束が来ると瞬時に判断する。


 技の体勢から、穿つ空弾を放つ体勢へ移行。


 拘束魔法を解く時の力を、既に込めた。


 穿つ空弾を放って気付く。


 拘束されない……!


 穿つ空弾はクルスエドの横を大きく通り過ぎる。


 瞬間。


 ラウーシュの身体は拘束された。


 慣れた力の入れ方で、それを解こうとする。


「クソすぎる!」


 吠えたラウーシュ。


 クルスエドの拘束魔具は、"破壊されていない"。


 つまり、この拘束はクルスエド本人が唱えた拘束魔法なのだ。


 拘束魔具と違い、人の生命力から放たれた拘束魔法は、拘束力が遥かに上回る。


 切羽詰まるこの時に、2秒近く使って拘束魔法を解く他ない。


 その秒数は、再度クルスエドが接近するに充分たる時間。


 加え、他の兵士の拘束魔具を受け、ラウーシュの消費する体力は跳ね上がる。


 【穢獣(あいじゅう) 裂爪砕(れつがくだく)


 振るう刀身に穢獣の爪を生成し、刃での傷口を更に裂く役割を持たせる。


 避け遅れたラウーシュの、左脇腹の鎧の隙間を斬り、遅れた穢獣の爪がその傷口を大きく裂いた。


 擦り傷には程遠い、大きな傷。今後の動きに大きな影響をもたらすだろう傷。


「攻め時!」


 クルスエドの号令に合わせ、兵士の怒涛の拘束魔具の発動。


 次の動きに繋げたクルスエドは、ラウーシュの首へ狙いを定めていた。


 額の血管がはち切れんばかりに力を込めるラウーシュ。


 【穿廻ゼレスカン 庭穿踏血(ていせんとうち)


 自身含めた超広範囲に空気の圧を落下。


 立ちあがろうとする兵士。


 【穿廻ゼレスカン 庭穿踏血】


 指の一つが動こうものなら。


 【穿廻ゼレスカン 庭穿踏血】


「……がぁ……はぁ」


 地面に脚を突き、その場に立つのはラウーシュとクルスエドのみとなった。


 しかし、クルスエドは頭からドバドバと血を流している。


 心身的疲労による怒りで荒い息を吐くラウーシュ。


 3度の庭穿踏血は、無駄な行動である。


 散々リスクを考慮したラウーシュだが、自棄(やけ)になったのだ。


「どうした……はぁ……苛立ちが見えるぞ」


 クルスエドの眼光に、ラウーシュはまた息を呑む。


「生への執着が凄いなお前ら」


「国の為に命を賭すのは……名誉だからな」


 話に聞いたメリトーを連想する。


「軽い命だな」


「愛するものの為なら、命など惜しまない」


「ははっ。面白いこと言うね。たかが矮小で意味を持たない感情に命など懸けられるものか」


 クルスエドは笑った。


「愛するものが無いとは……可哀想だ」


 愛するもの……。


 その為に命を賭すことが、ラウーシュには到底理解できないのだ。


「愛することは美しく……そして尊い」


 怖いと、感じてしまう。


 眼光絶やさず向かってくる兵士の瞳が、怖い。


「あいつの……」


 "姉"の眼光が、怖い。


 刻みつけられた感覚に、無意識に重ねる。


 ラウーシュは眼鏡の両端を親指と薬指で支え、定位置に戻す。


「……」


 風の音に乗せ、ラウーシュは口を開いた。


「栄誉のままに、愛の為に死ね」


 ラウーシュの指先がクルスエドへ向いた。


 【拘束魔具】


「まだ、諦めてないぞ。我々は」


 兵士は、立ち上がる。


 クルスエドは手を伸ばす。


 日の出と重なる手。


 彼は強大な敵と戦う為に姿を変えた。


 【穢纏(あいてん)


 戦士である。


「っ!!」


 2本の巨大で鋭利な爪を両手に携え、全身は鎧の上から獣毛を被り、獣の尾が地面に垂れる。


 踏み込んだ脚が地面を掴み、ラウーシュへ間合いを詰めた。


 立ち上がった兵士が拘束魔具を連発するおかげで、対応が遅れる。


 【拘束魔法】


 直前でクルスエドから直の詠唱。


 堪忍袋の緒が切れる。


 【穿廻ゼレスカン 地盤穿突(じばんせんとつ)


 庭穿踏血と同規模の生命力を込め、上空で空気を旋回させ、その中心を地面に向けて突き放つ。広範囲に地面を沈ませる空気の圧が鋭利に回転し、それは急降下する。


 クルスエドの爪がラウーシュへ届くと同時に、自身諸共、地面を穿つ。


 捻れ、力の成すがままに地面は穿たれる。


 3度の庭穿踏血を受けた瀕死の兵士は皆、捻れに押し潰され、瞬間にして土に血を混ぜた。


 轟音と共に巻き上がる土煙。


 歪に穿たれたその地面に、2人の姿は無い。


 荒く息を切らす。


 多量の血を地面に撒き散らし、右腕を抑える。


 肘から先を斬り落とされたのは、ラウーシュであった。


 傷口を捻り、生命力で圧迫して止血。


 そして、左肩から先を失ったクルスエドも同様に、傷口を抑える。止血せずに、また一歩踏み出した。


 穢纏まで使える戦士だと、思いもしなかったが故。


 想定を超える敵だと、今更に気付く。


 気付くのが、遅すぎたのだ。


 クルスエドの想定以上の傷を与えられたことに脳は満たされ、思考の端に居た不安が消えることにより、人生で一番の動きを見せる。


 右手の無い体重の変化に馴染めず、ラウーシュは利き手でない左手で振るう刺突剣でクルスエドの猛攻を防ぐ。


 度重なる戦闘を経験したラウーシュは、痛みにある程度の耐性はある。加え、バデキオン発動中の仮世界で、ヨデンに殺されかけたことも幾度もある。


 しかし、"現実"で腕が斬り落とされた経験など勿論ない。心の保ち様が違いすぎる。


 経験した痛みだが、これが事実ということが、痛覚をより鮮明にするのだ。


 対するクルスエドは、左肩から先が弾けている。にも拘らず、眼光そのままに向かってくる。


 狂気の沙汰。


 特に目立つ能力の無い穢獣を所持し、研磨された肉体と武術のみで、クルスエドに深傷を負わせた。


 【穿廻ゼレスカン___】


 ラウーシュ周囲の空気が大きく旋回。土煙を巻き込み、その中心には刺突剣の切先。


 クルスエドは、五感の全てが避けれないと感じる。


 ……。


 私の道は、ここで終わるようです。


 この国、ジェンド様の側に居れたこと、誇りに思います。


 倒すことが出来ないことが唯一の心残りですが、出来ることはやり尽くした所存です。


 "犯した罪に憤慨しながら"も、力を貸していただいた方々に、感謝申し上げます。


 ジェンド様。


 後は、お願いします。


 良い人生でした。


 【___穿里万象(せんりばんしょう)


 放たれた、回転数の上がった穿つ空弾。


 速度、威力共に跳ね上がったそれは、クルスエドの上半身を抉り取った。


 首から上が離れ、その威力に乗せられ宙に舞う。


 それでも、その眼光はラウーシュを焼いていた。


 その眼光を目で追っていたラウーシュは、その事象に目を瞠る。


 クルスエド頭上に、"穢獣の顕現"。


 四足歩行の獣型。2本の大きすぎる爪を携え、灰色の獣毛が全身を覆う。頭部は長い毛に覆われ、上下に向かって生える大きな牙が4本。着地と同時に、長い尻尾を叩きつける。象3体分はあろう巨躯が、そこにはあった。


 敵意を剥き出しにしていたラウーシュへ反応し、即座に敵対。


 巨躯を思わせない動きでラウーシュへ距離を詰める。


 クルスエドの目的は、飽くまでもラウーシュの生命力を削ぐこと。


 アルパースランド大穢場を戦場にしたからこそ、成し得る業。


 "死して尚、喰らいつく。"


 その真髄ここにあり。


 大きく口を開けた穢獣。振りかざされる大爪。


 そこにクルスエドの狂気を重ね、ラウーシュは一抹の恐怖を覚えた。


 【穿廻ゼレスカン 穿廻】


 穢獣の頭部を円形に穿つ空弾。器用に涙腺を残していたこともあり、涙が押し出された。


 桜の花弁が舞う。


 その些細な生命力の一つですら、クルスエドに撃たされたに過ぎない。


 花弁が身体に纏わりついて、更に気付く。


 この穢獣の生命力なんぞ、何の足しにもならないことに。


 穿廻一回分の生命力すら満たない穢獣。


 ラウーシュに、悔しさが滲み出る。


 これ程に微力な生命力の穢獣を所持し、肉体と武術と簡単な詠唱だけで、右腕は斬られたのかと。


 生命力を養おうと、拠点を漁る。


 食料も、治療道具すらも、無い。


 徹底されている。


 その覚悟が、現実(いま)を産んだのだ。


「……」


 ラウーシュは、次へ向けて地面を蹴った。





 クルスエドの穢纏使用を知らせる紙は、ジェンドの前に生成され、ヒラヒラと落ちるところを掴んだ。


 彼が穢纏を使用することの意味。


 長年付き添った、側近の覚悟。


 紙を丁寧に折り、鎧の懐に入れた。


 吐く息が白く。


 クルスエドの栄誉を讃え、目を瞑る。


「……後は任せろ」


 静かに、積もる雪に溶けるような声で、そう言った。





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