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16話ー会合ー

16ー会合ー


ーヨロレイヒ湖国 首都フィルサラー


「おい……。何だこの有様は」


 雪を降らせた雷雲が閃光を放ち、倒れ込んだラウーシュの側でヨデンは立つ。


「まさか、オドムを逃したのか……?」


 ラウーシュの沈黙は続く。


 突き上げた右手に稲妻を落とし、身の丈に合わない大剣を握り地面に切先を突き立てる。


「優しいからなあ、言い訳を聞いてやるよ」


 腕をズリながら体勢を変え、鈍い動きで立ち上がる。


「……リオルドランだ」


「……で?」


「影を遣う奴だ」


「その影に、オドムは連れられたと?」


「恐らくな……」


「魔法陣と顔は見たんか」


「いや……魔法陣は地中に展開して見えなかった。顔は……影の猿を分身体として戦っていたから、わからない」


「は?分身体に負けたのか?」


「事実、負けた」


 【時葬(じそう)バデキオン】を使用していなければ、確実に負けていた。課せられた制限の中で、勝ったに過ぎない。


「それに、宝剣(ほうけん)の所持を確認した」


 ヨデンは大剣に預けていた体重を軸足に戻す。


「"どれだ"」


「【宝剣 煤黒絵矛(ばいこくえのほこ)】」


 "影猿の死のみ"が有効となったが、記憶は残ることが証明される。


 リクの賭けであった宝剣の顕現は、ヌルビアガに知られてしまう。


「すー……」


 ヨデンは息を吸った。


 雲は黒さを薄めさせ、雪を降らすのを止めた。


「影の本体の場所も、オドムまでもわからないと……」


 ラウーシュは、頷く。


 ヨデンの目は笑わず、口元だけを微笑ませた。


 横に生命力を付与した雪だるまを生成する。


 その頭に触れ、ラウーシュへ手を伸ばす。


「ほら、バデキオン早く」


 ラウーシュは左手でヨデンの手を握り、右手で雪だるまへ触れる。


 【時葬(じそう)バデキオン 仮葬時駆(かそうじく)


 世界が灰色に染まった途端。


 ラウーシュの両腕は斬り飛ばされる。


 倒れたラウーシュの頭をヨデンは踏み付ける。


「やってくれたなあ!ラウーシュ!六将の会合にも顔出すぞあいつぁよ!」


 踏む脚を捻る。


「それに?リオルドランに能力まで晒しやがって」


 大剣の切先をラウーシュの腹部に突き刺し、刀身の温度を下げていく。


「このまま殺しちまってもいいんだぜラウーシュ」


 自身の犯した罪の重さを、ラウーシュは自覚していた。だからこそ、ヨデンの怒りを振り解かずに受け入れる。


「か……あ……」


「あ?聞こえねえよ」


 ラウーシュは右腕の切断面を雪だるまに向け、穿つ空弾を放った。


 世界に色が取り戻され、元居た位置に戻る。


 元通りになった身体だが、仮世界で切断された部位と、腹部に生じていた痛みを覚えている。


「必ず、殺す」


「じゃなきゃ、お前を殺す」


 ヨデンは踵を返し、八つ当たりで建物を破壊した。


「行くぞ、アルパースランド」





ー現在ー


 レイゼルと影虎(えいこ)を通じて会話するリク。


「ヨデンとラウーシュ……」


「ヨデンは未知数だが、ラウーシュの能力は脅威すぎる」


「だな。それ俺には効くんかな」


 生命力の関与を受けないレイゼルの身体。次元の違う者同士の可能性など、予測すらできない。


「空弾放つなら、割と対処できそう。俺と当てたいねラウーシュは。それと___」


 レイゼルは一拍置く。


「___ネビアルは、知ってんのかな」


 心労が溜まる。


 書きかけの手紙に、なかなか筆が進まないのはその所為だ。


 レイゼル以外のリオルドラン全員に向けた、報告を兼ねた手紙。


 それはもちろん、ラウーシュの双子の姉であるネビアルも目にする。


「今手紙書いてんでしょ?最低でもさ、アルパースランドにヌルビアガは4人集まっちゃうんだし、応援呼ばないとやばいもんね」


 昼下がり。


 賑わう外の声が聞こえる中、リクはこれから起こるだろう戦いに憤りを感じた。


 この平和なままの、アルパースランドが愛おしいのだ。


「この手紙を読んだなら、"ネビアルたち"は必ず来る。必要戦力だな」


「来てもらわんと困る。俺らも急ぐわ。あと2日くらいで着くかな。"円卓の六将の会合"には間に合うよ」


 6年ぶりとなる円卓の六将の会合が3日後に迫っていた。


 メスローデの席が空席の他、新規が2人。


 この会合に合わせてメスローデの殺害と、ミリオットの妻の殺害、オドムへの襲撃。


 ヌルビアガが我々(リオルドラン)の前に姿を現した。


 そしてもう一つの謎、ラスティオン帝国のクァズノーム含むハドアがアルパースランドを目指していること。


 暗躍している。


 何かが起こることに、間違いはない。


「そういえば、オドムは無事なん?」


「……内緒」


「出たー、教えてくれたっていいじゃん」


 このケチぃと捨て台詞を吐き、影虎は陰に潜った。


 両手で後頭部を支えながら、窓の外を見やる。


 3日後に控えた会合に合わせ、街は装飾の準備を始めていた。


 まずは、この手紙を完成させなければ。


 重すぎる筆を持ち、進まない文字へと向き合うのだ。





ーアルパースランド 首都アルパース 2日後ー


 会合を明日に控えた街は響めいた。


 街の各所に配置された掲示板に張り出された紙は、多くの人を集める内容となる。



 "円卓の六将 ミリオットの特級指名手配。"



 大々的に記されたその表題は、読み手の意欲を掻き乱した。


 以下、その内容を簡易に記す。


 2日前、廻陽都市クロックヴェルクにて、円卓の六将であるミリオットはリオルドランと結託し、1万7362人の国民を惨殺した。事の起こる数日前に、ミリオットは妻を亡くしており、"妻の所持していた穢獣(あいじゅう)の顕現が確認できない"ことから、犯行に及んだとみられる。"居合わせた巡礼者"が阻止の為に奮闘するも負傷。奴らは虐殺を楽しんでいたと語る。


「ミリオットさん、奥さん亡くして悲しいだろうけど、やっちゃいけないことだってあるよ」


「奥さん殺したのもミリオット自身かもしれねえぜ」


「閉鎖的な国だから、みんな逃げれなかったんだね。可哀想に……」


「リオルドランも良い噂は聞かないけど、ここまで残忍な奴らだったなんて」


「奮闘してくれた人は、どこの誰なんだ」


「噂によると、アルパースランドに来てるらしいよ」


「頑張ってくれたんだな」


 当日、ミリオット邸の全焼。


 親族に加え、ミリオットの隊に所属する者らの家も全焼。


 関係者は職を失い、迫害にあう。


 会合のパレードに向けて彩られる街に、黒煙の立ち昇る異様な光景となった。


 それは首都から遠く離れた街にも噂として広まり、アルパースランドの峠国境を越えて入国したレイゼル達の元へも届いた。


 ミリオットはイゼに流浪のコートを借り、フードを深く被って下を向く。


 口を開けて呼吸し、一歩一歩確実に進む自身の脚をただ見る。


 ミリオットは締め付けられる胸の痛みを感じている筈が、目が渇いて仕方ないのだ。


 時々、焦点が合わない。


 前を歩くレイゼルの背中を、チラと見る。


 怒りに満ちたその背中。


 声を出そうとして、しかし、その力が入らない自分が居る。


 カリンもまた、イゼすらも、行き場の無い怒りを前に向けることしかできない。


 ミリオットはそれが、頼もしく感じたのだ。





ー円卓の六将 会合当日ー


 前日に黒煙が立ち昇ったことなど忘れたように、街は祝い色に染まっていた。


 連なる霊峰が遠目に見え、標高こそ高いものの、陽光が暖かく山々は緑の化粧を施す。頂上付近にのみ、雪の模様がある。


 巡礼祭とは異なるものの、6年ぶりに集う円卓の六将に国民は歓喜していた。


 首都アルパースに地方各地から国民が押し寄せ、街は大いに賑わう。


 そこかしこの大通りでは盛大なパレードが催され、喜びの楽器が歌声を響かせた。


 アルパース城下町には、新編成された円卓の六将を一目見ようと行列を成す。


 アルパース城大園庭広場にて、円卓の六将の登場を今か今かと待ち侘びる大群衆。


 両脇に階段がある踊り場で拡声魔法の施された花束を掲げ、行事を進行する司会者は群衆を煽る。


「さあさあ!皆さんお待ちかね!円卓の六将の方々にご登場いただきましょう!まずは!長年この国を支え続ける大黒柱!!」


 掛け声と共に、踊り場奥の階段上にある両開きの大扉が開かれる。階段両脇に配備された軍人が、槍の切先を晴天へ掲げる。槍先には軍旗が結ばれ、穏やかな風に靡く。


 大歓声。


 左胸に勲章を幾つも付けた軍服に身を包む、隻腕の男が姿を見せた。白髪の混じった黒髪を整髪料でビシッと固めている。


 国王の大楯、ジェンドである。


 深々と一例し、群衆に右手を挙げながら階段を降り、踊り場にて立ち止まった。


 円卓の六将の中で最も従事期間が長いこともあり、国民から信頼を置かれ愛され続ける男。


「続いては!若くして多くの戦績をあげた!美しく野を駆ける女騎士!!」


 騎士の威厳を放つ鎧を身に纏う女性が姿を現した。


 国民の前に初めて姿を見せる、ウルビダである。


 茶髪で艶のある長髪を後ろに束ね、その中に疎に桃色が混じる。風に靡いたそれは美しく流れた。容姿の整ったその美貌に、群衆は心を打たれるのだ。


 しかし彼女は、ごった返す人前に立つことの緊張に飲み込まれ、手脚を交互に動かして歩くことしか考えていないのだ。呼吸すらも忘れて。


「凄い自身だ……凛としてる」


「美しい」


 表情筋など動かせるはずもなく。


「続いて!裏でこの国を支える頭脳!その実力はまだ!我々も知り得ない!可能性に満ちた男!」


 堂々とする姿。黒くウェーブのかかったミディアムヘア。額の真ん中から前髪は分かれ、輪郭よりも少し長く伸びる。髪の内側は蒼い。


 遊びのある髪型とは反対に、腰を直角に曲げて頭を下げる。深々と。


 面長の整った容姿に、女性は釘付けになった。


 国民の前に初めて姿を見せる、ロザンパーゴである。


 落ち着いた様子で群衆を見渡し、手を振る人に会釈していた。


「残念ながら、オドム様は欠席でございます」


 司会者の言葉に群衆はざわめく。


 "円卓の六将"が、半分の3人しか居ないのだから。


「しかし!興奮を冷めることはありません!」


 一拍置いて、続ける。


「何と!新たに円卓の六将に加入した!かのクロックヴェルクにて奮闘していただいた英雄をご紹介致しましょう!!」


 噂の渦中。


 茶の髪を後ろに掻き上げ、2本の束が前に垂れる。額と"腹部"に包帯を巻く。"腹部"の包帯は、軍服の上から巻かれており、今なお若干の血が滲んでいた。


 階段を降りる姿を見る群衆は、次第に状況を呑み込み、歓声をあげ始める。


「新生!ルゼラカルト様でございます!!」


 ルゼラカルトは両手を上げて歓声を浴び、深々とお辞儀する。


 その大群衆から、乱れる感情があるのを見逃さなかった。


 ニヤけた面をそのまま大衆向けの笑顔に変え、手を振るう。


「ご紹介に預かりました、ルゼラカルトと申します」


 自身の喉に拡声魔法を施し、この広場に響く。


「国民の皆々様のため、尽力することを約束します」


 歓声。


「クロックヴェルクの国民の皆様のご冥福をお祈りします。そして、その悲劇を引き起こした前円卓の六将ミリオット含め、世界の脅威であるリオルドランの"殲滅"を、誓います」


 歓声は止み、静寂へ。


「新参者の立場ではありますが、ここで皆様にご協力いただきたいことがございます。後に掲示板に張り出される内容ではありますが、私の対峙したリオルドランは生命力が探知できず、不気味な者です」


 ジェンドは横目にルゼラカルトを見やる。


「紅い髪の長身。しかし、そこに居るはずが、居ないように感じる。まるで木がそこにあるような錯覚を起こさせるのです」


 ロザンパーゴとウルビダも、群衆を眺めながら静かに聴く。


「そのような不気味な者を見た方は、迷うことなく近衛兵に通達してください。皆様の勇気が、この国を救います。何卒よろしくお願いいたします」


 ルゼラカルトは再度、深く頭を下げた。


 ……。


 やられた。


 クロックヴェルクの件、目撃者は全員亡くなった。その場に居た観光客も、その状況を説明できる筈もない。


 ルゼラカルトの穢纏(あいてん)の使用は世界に公開される。しかし、それはミリオットとリオルドランに対抗するためといった理由で片付けられ、むしろアルパースランドに貢献したと評価が高められる。


 アルパースランドという大国を、味方に付けた。


 これでヌルビアガは、国の内側から大穢場の情報収集を可能にした。


 そして、入国したであろうレイゼルとミリオットの行動までも制限される。


 円卓の六将……オドム以外の3人の誰かが、ルゼラカルトの手引きをした。


 後手の後手。


 正直言って、かなり厳しい状況になった。


 ヨデンとラウーシュが合流した場合……。


 大きな……戦いになるぞ。





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