第三十五話
明人視点
俺は思わず彼女から距離を取り、キスされた部位を庇う。
「そんなに〜警戒する事、ないじゃないですか〜」
「いきなりキスなんてされたら驚くでしょう!」
「…それもそっか」
彼女はトンッと俺へと一歩近付くが、俺もまた一歩引く。
「ええ〜距離取らないでよ〜。もう急にキスしたりしないから〜」
「信用出来ませんよ…」
「ん〜。なら〜特別に貴方の疑問に〜、一つだけ……答えて上げる〜」
「疑問…ですか?」
「そうそう。例えば~私の胸の大きさとか〜」
疑問か…。だったら聞く事は一つだな。
「この村は何故男性が少ないんですか?」
俺の質問を聞いた瞬間にゆるふわな雰囲気を纏っていた女性の顔付きがピリついたものへと変わる。
「それが…聞きたい事?本当に?今なら変えられるよ」
「変えません。これが一番気になる事ですから」
「……そう。はぁ〜…。分かった。自分で言い出した事だし、いつかはバレるだろうし。…でも、あんまり私自身の口から言いたくなかったけど」
女性は近くにある小岩に腰掛け、自身の隣を叩いて座るように誘導する。俺は彼女の隣に少し間を開けて座る。
「この村…いえ、恐らくこの大陸全土では人間の管理がされています。役職、労働時間、食事、睡眠時間、繁殖する時期、そして女性を孕ませる男性の選別」
「選別…」
「ええ。男性の数は女性に比べて一割しか許されておらず、選別から漏れた男性は赤ん坊の時、魔人や魔物達に食べられる」
「…っ!?」
人間牧場と言う事か。…そうか、ならあのハーピィ?が言ってた家畜とは人間達を指していたのか。…この話は飛鳥や相澤さんには話せないな。
「更に三十歳という歳になった男女は首を落とされ、そして私達自らバラして魔物達の餌になるの…。私も…母を…」
彼女はそう言葉を詰まらせ、目尻に涙を滲ませる。かなり辛い事を思い出させてしまった。
「すいません。そこまで辛いものだと知らず。申し訳ありませんでした」
俺は彼女に向かって頭を下げて謝罪した。
「いえ…。お気になさらず」
「ですが…」
「もし……気にしておられるのなら………私と結婚して下さりませんか」
「えっ!」
女性は正面に俺を据えて、凭れ掛かって全体重を俺に預ける。
「母も父も居ない。とても…寂しいのです。私を哀れに思うのなら……」
俺はその先の言葉を指で防いだ。
「すいません。俺には生涯大切にしたい人が居るんです。だから…その願いは叶えられません」
「そうですか…」
彼女の顔に影が覆われ、俺から離れる。申し訳ないとは思うが、一番大切に想ってる人は変えられない。
「それでは、俺はこれで…」
彼女の顔を見ずに立ち上がり、その場を去った。自分よがりの願いだが、彼女の寂しさや悲しみを包み込み、癒してくれる人と出会う事を願う。
「…よし。それじゃあ無理矢理にでも手伝……」
「総員改修中断!!続きは明朝に!!」
と、俺が腕捲くりして意気込んだが虚しくも改修作業は明日へと持ち越された。ガックリと肩を落として俺は自室に戻ろうとしたが、一度飛鳥の部屋をノックする。
「はい」
扉を開きながらミカエルが返事して出て来る。
「あ、アキト。どうぞ、中に。もう着替終わってるから」
「ありがとう」
中へと入ると飛鳥はパジャマに着替えされており、顔や手に付いてた土汚れが綺麗になっていた。
「あ、貴山さん。飛鳥…綺麗に、したよ…」
「飛鳥の代わりに御礼を言うよ。ありがとう、相澤さん」
「いえ、飛鳥は……私の…友………達…ですから」
「そっか。でも、ありがとう」
「…はい」
彼女は嬉しそうにはにかみながらも照れる。
「それじゃあ…。私達は…部屋、に……戻り…ます。桶も……返さない……と」
「分かった。…また明日」
「はい…。また、明日…」
相澤さんとミカエルは退室し、その後直ぐに俺は部屋の鍵を掛ける。俺は飛鳥の部屋の鍵をベッド横にあるチェストの上に置く。
「…さて、飛鳥が目覚めてくれれば鍵を渡せて出れるんだが…」
俺は椅子に座りながら飛鳥の寝顔を見る。その横顔に思わず頬をふにふにとゆるく押す。
「こんなに触られて起きないなんて……安心し過ぎだ。また敵襲に遭ったらどうするんだ?うん?」
と、何度もふにふにとすると、ううん…と声を漏らしながら寝返りを打つ。俺は思わず笑みを溢す。
「…やっぱり飛鳥が一番可愛いな」
俺は何気無く飛鳥の首筋に唇で触れる。
「………これ、割と恥ずいな。起きてたら絶対に恥ずかしくて出来ないな」
飛鳥が起きる事を諦めて、飛鳥の部屋の鍵を取って退室して、鍵を掛けた。




