第三十話
飛鳥視点
私は明人に支えられゆっくり座り込むとゴホゴホと口の中に入った変な液体を吐き出し、更に少し飲み込んでしまった液体も身体の防衛反応か、胃の物と一緒に吐き出してしまう。…っ!最悪…。明人にこんな姿を見せたくなかったのに…!
「俺が浄化する」
「んぐっ…」
明人に無理矢理唇を重ねられ、息が送り込まれる。吐いた後にキスとか嫌なんだけど…!身体が痛くて抵抗が……あれ…身体中の痛みが消えていく。混濁していた意識が戻る。そして、明人自身の変化に気が付いた。
明人の髪色が銀…?いや、白っぽい色に変わっている。さっきまでは金髪だったのに…。この短時間で何が……あっ。私の視線は自然と明人が持つ剣に吸い寄せられる。
「お、おい!その剣は!!何故抜けておるのだ!!」
カマエルも明人の持つ剣に注目し、震えながら指差す。明人は奴をバカにするような表情で睨む。
「俺が抜いたからだよ」
「そんなバカな事があるか!!その剣を抜くには勇者と同等の聖心力が必要だ!!そんなのはただの人間にはあり得ない!!その剣は勇者の為に用意された剣で、普通の人間が抜ける筈がない!!」
勇者の為に用意された剣?嘘よ、そんなの。
「なら、何で勇者が抜こうとしたら弾かれんだ」
「簡単だ!魔王様が条件を一部変えたからに決まっている!勇者にしか抜けない剣を勇者には抜けないという呪いを魔王モーモス様が掛けたのだ!そして、剣には元々勇者の聖心力の量が無ければ抜けないという条件がある!此方はただの人間が抜く等という万が一がないようにした条件を利用したのだ!!だから、貴様が使ってはいけないのだ!!」
明人の質問に私情をかなり含めた説明をした後に斬り掛かる。
「〘吹き飛べ〙」
すると、明人の言葉通りにカマエルは後方に上半身が仰け反る。カマエルは身体を戻して見せた表情は理解不能といったもの。
「い、今のは…神告…。くっ!何から何まで!!私の神経を逆撫でする!!私を憤怒させた罪!!私と伴侶の蜜月を邪魔した罪!!万死だ!!貴様を地獄の底に叩き落とす!!」
「…何を言ってるのかずっと分からないけれど……」
ドクンッと心臓が跳ねたのを感じた。身体の奥底から感じる正体不明の何か。全身が総毛立つといった感覚。これは何…?明人が戦いに挑む時には周囲に冷たいプレッシャーを感じていた。これはいつもと違う。世界が凍り付くような、空気自体が重苦しく感じる重圧。自然と身体が震える…。恐怖…いや、それとは違う。じゃあ、何?……畏怖。…そうだ、畏怖。私は明人を畏れている。
「怒ってるのは俺の台詞だ。飛鳥を傷付け、首を締めた。ただで済むと思うなよ…」
世界が明人を畏れてるのか、空間が震えている。カマエルは怖気づき一歩下がるが、直ぐに余裕の表情と変わる。
「クハハハハハッ!!此方には何千万の軍勢!たかが一人で何が出来ると言うんだ!!」
「飛鳥を連れて逃げる事だな」
え…。明人と…。それって皆を諦めるって事?…今の明人でも……勝てないって事なの…?私は再び絶望し、涙が一粒ツーッと右頬から落ちる。
カマエルはポカンと間抜けた表情で明人を見て口角が上がる。
「はっ…。ハハハッ!あのような言葉を吐いたにも関わらずに逃げを選択するとは愚か!!誰一人逃さん!!やれ!!お前達!!」
カマエルが左腕を振り上げると一斉に全力で人間達に襲い掛ろうと地面を揺らす。
「でも、それは最後の手段だ。親友が居るし、逃げる訳にはいかないよな」
「ふっ!何をしようとも遅い!!後悔と共に死ね!!」
明人は目を瞑り、長く息を吸う。明人…一体何をするつもり?
「〘全員動くな!!〙」
言葉が響く。明人の言葉は全てのゾンビへと影響し、完全に静止する。カマエルも一時的に動けなくなった。
「し、神告が…ここまで影響する…だと!馬鹿な!!魔王様でさえこれ程の規模は不可能だ!!正しく…神のお告げと言うことなのか!!?」
「だから、うるせぇよ。〘消え失せろ!!〙」
たった一言。それだけで絶望を体現した軍勢と巨大兵器とも言えるゾンビ達が一瞬で白銀の粒子へと変わり、天へと昇った。カマエルの身体も朽ちようとするが必死に抗い、白銀の粒子と黒い靄が争い合い、何とか持ち堪えていた。
明人一人で戦況を一変させてしまった。明人は光だ。希望の光。人類の光。
「アハハ…」
明人は……私の恋人は凄いな。…私も負けてられない。津川さんに……皆に!私が明人の恋人として相応しいと思われる為に!!私は立ち向かう!!
「もう一度、もう一度だ!カマエル!貴方は!私達が!二人が倒す!」




