第八話
飛鳥視点
勇者の能力ありの防衛訓練。私達は皆が居ない場所へと移動する。先ずは私と明人対四人となる。二人の聖心力は明人によって検証されており、玲子の聖心力の矢は人体や動物を傷付ける事は出来ないが、無機物や魔物に対しては攻撃可能。恵那の防御膜は聖心力以外のものは全て弾かれると分かった。
「じゃあ、相澤さんと清水さんは二人をサポートするように。では、行くぞ!」
明人は私を見て合図してくれる。私が頷くと直ぐに明人は動き出して駆ける。私も聖心力を全身に巡らせて後を追う。すると、消えた明人の姿が視認出来た。けれど、だからこそより速いと感じる。追い付けない…。それどころか離れて行く。全然違う、私達の扱う聖心力とは別物だ。
彼等も聖心力を巡らせるがこの中で動きが速いのは断トツで明人だ。昨日、二人は明人を抑えていたけど、それがどれほど難しいのかよく分かる。
私も一緒に攻撃しようとするが、敢えて明人は私が攻撃しやすいように隙を空ける。玲子が聖心力の矢で応戦するが難なく避ける。私は何本か喰らってるのに…。それに私の攻撃は恵那の防御膜で防がれるが、明人の攻撃は防御膜をニ、三撃で破壊する。破壊される度に恵那から苦悶の声が聞こえる。
にしても、明人の動きが変だ。エリストさん達の首に木剣を当てる隙が何度もあるのにそれをしない。……もしや私に彼等の首に当てろと言う事だろうか…?正直、厳し過ぎる。明人の攻撃の合間に入る事でさえ必死なのに、恵那の防御膜と玲子の矢で、前衛二人に構ってられない。…負け…られない!!
「ジャンヌダルクの剣!」
私はその名前を呼ぶと木剣が白銀の剣へと変化される。そして、私の脳裏には一秒後の未来が見える。
(…っ!気持ち悪く……ないっ!?)
本来は実際に見える景色と未来の景色がダブって気持ち悪くなる筈。けれど……これは何?異様に身体が軽く感じる。それに訓練で感じた嫌悪感が全くない。万全で戦える!!
私の攻撃は最適化したものへと変わり、徐々に明人の攻撃に付いて行ける。それにつれて私達の攻撃速度が段々と上がり、玲子の矢を掻い潜って、私はジャンヌダルクの剣を横薙ぎしながら木剣へと戻し、やっとミカエルさんの首へ木剣を当てた。
「お、終わった…」
ミカエルさんはそう言いながら膝から崩れ落ちるとそのまま倒れた。今頃になって心音が耳元から聞こえる程にうるさく鳴り始め、汗が急に噴き出される。玲子と恵那の方だが、汗は出てないのに呼吸がかなり荒くなっていた。平然としてるのは明人だけ、エリストさんは疲れを解放するように大の字で倒れる。
「あれ…」
目眩が襲い、視界が揺れる。ヤバい倒れちゃう。そう思っても身体が自由に動かない。地面とぶつかると思い、目を瞑った時にボフッと何かに包まれる。私はゆっくりと目を開けると、此方を心配そうに見る明人の顔があった。
「大丈夫か?飛鳥」
「う、うん…。明人のお蔭で…」
「一先ず、日影へと移動するか」
明人がそう言うと私の膝を抱えて、そのまま持ち上げる。えっ?…これって……お姫様抱っこ…?
「あ、明人!?」
「ん?女の子なら騎士とか王子様にお姫様抱っこされるの、一度は夢見たんじゃないかと思って」
「んぐっ!?」
わ、私が手の甲にキスされた後に言った言葉を…!!
「〜~~///……バカッ!!」
アキトからそっぽ向いて熱くなった顔を背ける。そして、ボソッと聞こえた玲子の「良かったわね、お姫様」の声を無視した。この心音の早さは動いたせいだから…!絶対にっ!
明人に聖心力を身体に巡らせれば回復が早いと言われ、その通りに私達は日影で身体を休めた。すると本当に回復が早くて身体の疲れが直ぐに取れた。けれど、皆は私に気を使って暫く休んで良いと言ってくれたのでお言葉に甘えさせて貰った。
「具合は大丈夫か」
「大丈夫だよ。休んだから元気だよ」
「なら良かった」
明人の優しい笑顔に胸がキュッと締め付けられて、少し苦しくなりドキドキする。こ、このまま黙ったら変に意識し過ぎてるみたいになっちゃう。な、何か話題を…!あ……!
「ねぇ、明人って転生したんだよね?なら此方にもお父さん、お母さん居るでしょ?どんな人なの?」
「ん?…う〜ん……お父さんは最後まで仕事を全うする人で、お母さんは……自分の命を張って子どもを守れる人…かな…」
最後…?命を張って…?
「え、え〜と…。ものの例え……だよね?」
「いや、事実だよ」
明人の言葉に重い石を載せられたみたいに精神的に重く感じた。え、事実って事は二人共……死んでる…?
「俺が…もう少しで六歳になるくらいの頃、住んでいた村が魔物に襲われて、滅んだ」
「っ!?!」
私は驚きのあまり、思わず口を塞いだ。話には聞いていた。けど、知ってる人がそんな目に遭っていると知ると現実味が強まる。
「父の死に際は知らない。父の死体も火と共に消えた。母は俺やチビ二人を馬に乗せて、走らせ、魔物の攻撃を背中に受けながらも、俺達三人を無事に街へと届けた。…そして、役目を終えたように……死んだ」
私にはその事を想像しか出来ない。それがどれほど偉大で凄い事を成し遂げたのかは多少なりとも分かる。
「凄い…人だったんだね…」
「ああ。…だから俺は、俺みたいな悲しい奴を生まない為に騎士になった」
「そう…なんだ…」
「勿論、飛鳥を守る為でもあるが」
と、言って明人は笑うが「バカッ!」なんて気軽に言える筈もなく、明人の言葉の重みに涙が溢れそうになる。明人は一見、あっけらかんとした様子だけど、胸中には辛く、悲しい気持ちが内在している筈だ。……私が…、私が言うべき言葉は何?私が何を言えば明人の悲しさは無くなるの?………よし。
「……私は…死なない」
「え?」
「私は死なない。明人も死なせない。皆を死なせない。…だから、一緒に戦って。戦って勝とう」
私はそう言って明人の手を握る。明人は戸惑った表情で私を見詰める。
「飛鳥…」
「大丈夫。私は死なない。未練があるから、死ぬ気で生きる。だから、明人も…死なないで。…ううん。違う。死なせてあげない。安らかになんてさせない。騒がしくして何度も叩き起こしてやる。…絶対、死なせない。そして、死なないから」
明人は何かを言おうとするが、直ぐに口を閉じて、結局その後は何も喋る事はなかった。




