第三話
お昼を食べ終え、食休みを一時間挟んでから聖心術を教わる為に再び庭へと出る。父は何処にあったか分からないが大人用の木剣を持ってくる。
「それでは聖心術について教える」
「はい!」
父は俺が返事をすると頷き、何も無い空間を見詰め、そちらに身体の向きを合わせながら木剣を両手持ちし、右足を後ろにし、木剣を右側に切っ先を傾けて横にし、腕を引くと木剣が金色に輝くオーラを纏う。
「えっ!」
急に木剣が輝き出したのを見て驚いた俺を父はチラ見してニヤリと笑い、直ぐに目線を前へと戻した後に左足を踏み込んで前進し、横薙ぎをした。その威力を示すように斬られた場所の正面にある雑草が強い風に煽られたみたいに薙ぎ倒される。しかし、攻撃はまだ終わって終わらず、何度も横薙ぎを繰り返し、最後に真っ直ぐ振り下ろして終わらせると木剣に纏っていた金色のオーラはこの世界から消え失せた。
「と、まぁ…こんな感じだ」
父は額の汗を袖で拭いながらそう言った。俺は思わぬ光景に無言で拍手する他なかった。拍手を受けた父は自慢気に胸を張りながらも照れ臭そうに鼻の下を人差し指で擦る。
「ま!これぐらいお父さんならあたぼうよ!」
「今の木剣に纏ってたのは何?」
「それはな……聖心力って云う人間に備わっている特別な力だ」
「聖心力…」
「ああ。聖心力は便利でな。上手く使えば武器の威力強化、武器の耐久力強化、薬品使用時に傷の回復向上、更には魔法の無力化をする事が出来る。ただし、無限に出来るって訳ではなく、いつかは尽きる…使えなくなるんだ」
「へ〜…」
「そして、聖心力を武術と掛け合わせたのが聖心術って言うんだ」
なるほど。武器の威力攻撃に合わせて攻撃を振るう。聖心力を常に垂れ流しするより、消費量が明らかに減るだろう。それに武器の耐久力や薬の効果を高めるのは素晴らしい。プラス魔法の無効化も出来る………。あれっ?魔法ってこの世界にあるの!
「ねぇ。パパ?」
「ん?なぁんだい♪」
パパ呼びしたからかデレデレの顔になり、声音もテンションも上がった様子で俺の質問を受け入れようとしている。一瞬気持ち悪いと思ったが、その気持ちをグッと抑えて質問をする。
「魔法って何?」
「なるほど、魔法が気になったか。…魔法とは魔物が使う特殊な力。自然を操る力で聖心力とは相反する力、魔力と呼ばれる物を消費して使う強力な技の事だ」
聖心力と相反する力で、自然を操る力…か。だとしたら………。
「魔法…使えないんだぁ…」
「なんだ?魔法を使ってみたかったのか?残念だったなぁ。魔法は魔物しか使えないんだ。でも、聖心力は魔法を無効化出来る。つまり聖心力の方が強いって事だ!!何も気にする事はないぞ!!」
「うん。分かった」
聖心力の説明を終えると次は聖心術の流派の話となる。
「聖心術は主に三つの流派がある。一つは俺も修めている流派…アースラー流だ」
「アースラー流…」
「ああ。アースラー流を作ったのは武人として有名で、神様として祭られる程の凄い人なんだ!」
「そんな凄い人が居たんだ…」
「そう!その人の物語もあってな!劇とか本も両方人気なんだ!」
す、凄い熱量…。本当に父はその人の事が大好きなんだな。でも、このままだと話が逸れそう。違う流派の話を聞こう。
「アースラー流が凄いのは分かったよ。他の流派は?」
「え?も、もう良いのか?もっと沢山話せるぞ?」
「いや、大丈夫」
「そ、そっかぁ…」
父は残念そうな顔をしながら肩を落とした。
「じゃあ、次はガイングラウン流だな。この流派を作ったのはとある三兄弟でな。その流派の特徴は重い武器を扱う事を前提にしている事なんだ」
「重い武器か…」
「三兄弟は体格や力に恵まれてたらしく、普通の武器だと軽すぎて扱い切れず、その時代主流であったアースラー流とは合わなかった為、自分達で作ったらしい。扱う武器は其々違い、兄は大剣で次男が斧、末っ子が薙刀で自分達が其々創った技達をガイングラウン流という」
「じゃあ三つ目は?」
「三つ目は…」
父は何故か言うのを渋っている。もしかして嫌いな流派なのか?父が使ってる流派のライバル流派とか?そう考えていると父はため息を吐きながら、しょうがないといったテンションで口を開く。
「三つ目の流派はエグフェスト流。お貴族様が使う御上品な流派なんだよ…」
「何でそんなに嫌そうなの?」
「…この流派の技は普通の攻撃に名前を付けてる頭の痛い流派なんだよ」
「普通の攻撃に…」
「ああ。時々村に来る貴族様が自慢気に見せるんだが、本当に頭が痛くなる。それにしまいにはアースラー流の事を野蛮人が扱う貧乏臭い技だのなんだの…」
ヤバい。思い出してきたのか段々とイライラが募ってきて、顔が赤くなっていく。このままでは聖心術の話から父の愚痴へと変わってしまう!
「パ、パパ!アースラー流って凄いんでしょ!俺も早く習いたいなぁ〜」
俺がそう言うと父は赤くなった顔から朱が引いていき、嬉しそうな顔で俺の頭をポンポンとする。
「流石俺の息子!分かってるな!よし!それじゃあアースラー流を伝授させてやろう!」
父はさっきまでの苛つきが嘘みたいに、ニッと豪快に笑った。