第四十三話
明人…!倒れた明人にそう言葉を発したかったが、口が動かない。息が音へと変換されない。明人を助けに動かそうと思っても身体が一切動かない。
自分にはどうしようも出来ない事象に悔しさが滲み出る。何で…。何で動かないの!?
無力感が襲う中、網膜が焼かれるのではという程の光量が目に直撃して、視界を奪われる。そんな中、声が聞こえる。
「絶対…待ってろ…!!絶対…絶対!!飛鳥!お前を守ってやるから!!待っ…!!」
途切れた言葉、明人の言葉に私は自然と涙を溢した。
光が止むと周囲には白い法衣を着込んだ人達が私達を囲んで居る。私達を縛っていた不可視の拘束が取れて、口も身体も動かせる。白い法衣を着ている中で最も長い帽子を被り、錫杖を持つ人が私達の前に出る。
「良くぞ来て下さいました!我等が神の使徒!勇者様!!私は教皇アメノ・アーテラスと申します。以後、お見知り置きを」
神に、勇者…?さっきまで脳内の語り掛けてきた自称神様の言っていた通りだ。急な展開なのに私を含めた皆は何故か落ち着いており、非現実的な事が起きて、逆に冷静になってるのかも。
「これから勇者様達には騎士団長の元で訓練して頂き、魔王軍を討伐して頂きたい。勿論、報奨もございますし、元の世界への帰還も魔王討伐後に可能でございます」
討伐後に可能って、それは最早命令じゃない。戦わなければ帰れないって事でしょ!なんて酷い話なの!一言文句言ってやろうと一歩踏み出すが、私より早くクラスメイトの中から飛び出した男子が説明していた男性へと詰め寄る。やっぱり私以外にも文句を言いたい人が居たのね。そう思っていると…。
「報奨って何でも良いのか!?」
う…ぬっ?思わぬ発言にビックリしてカクンと右膝が落ちそうになる。えっ?何でそんなすんなり受け入れられるの?
「ええ。私達がお渡し出来る物なら何でも。金も地位も人材も食料も」
お渡し出来るもの…って、随分とそちら側が有利な条件ね。そっちが渡すのは厳しいと言えば此方はそれを受け入れるしかない。こんな条件で受けるなんて……。…あれ?何で私も乗り気になっているの?
「このまま立ち話もなんです。ゆっくり出来る場所に御案内致しましょう」
私達は教皇の後ろへと続き、後を付いて行く。教皇は途中で一つの部屋へと止まる。
「男性の方々は此方に、女性の方々はもう少し先ですのでご容赦下さい」
男子達は言われたまま部屋へと入る。扉の隙間から鎧を着た男性と見目麗しいメイドの女性が見えた。…うわっ。あからさまの色仕掛。
女子生徒達は教皇へと案内された部屋へと入ると急に色めき立つ。そこには鎧を着た綺麗なポニーテールの金髪の女性と顔がアイドル並のイケメン執事達が並んでいる。やっぱり此方もか…。
「それでは勇者様方、御着席下さいませ」
其々に一人ずつ執事の人が椅子を引く。余りの執事が居ない。どのような人数が来ると分かっていたかのようだ。…いや、多分だけどあの場に居た人達が予め、部屋に余らないように配属した。そして、余ったメイドと執事が何処かに居る…と。
「では、これより勇者様達に必要な情報を教えさせて頂きます。拝聴して頂ければ幸いです」
ようやくまともな話が聞けそうだ。私は女性騎士?の人の言葉を傾聴する。
女性の話を纏めると…。
魔王軍は何十、何百と云う年月を掛けて人間の大陸を侵攻しているという。今、私達が居る大陸が侵攻を受け始めたのはここ六、七十年の話だと云う。それまでは違う大陸が魔王軍と戦っていたが、敗北して魔王軍の物となっている。
私達勇者の召喚は魔王軍に追い詰められた結果だという。勇者の召喚方法は神からの神託により承ったと言うのだ。勇者の身分は国と教会が保証してくれる。そして、私達は魔王軍と戦えるように男女別で騎士団長に教えを請う。そして、その説明をしてるのが女性限定部隊の団長のエリーファ・リリアントさん。
説明を終えたエリーファさんは頭を下げるとさっさと部屋から出て行ってしまった。
私はエリーファさんの話を聞いて、唸りながら悩む。
私達が戦うのは数百年と力と数を備えて来た大群。それをたかだか十数人の人間が、例え神様の加護を受けてるとはいえ、敵わないと思う。う〜ん…。でも、神様の加護がどれほどか分からな、い…し?待って!待って!待って!なんでまた乗り気なの!可怪しい!幾ら何でも能天気過ぎる!私は一体どうした!?…神様の加護の影響?うん、違いなんてそれしかない。神様への疑心を募らせ始めた時、大声が耳元に響く。
「飛鳥!」
「わっ!何!?葵ちゃん!」
「これってさ!これってさ!もし私達が魔王を倒したらスッゴい美っ…男と付き合えるって事だよね!?金持ちで良い男と結婚出来るって事だよね!」
「そ〜…なるのかな?」
「も〜。ノリ悪いぞ飛鳥!」
「葵ちゃんは軽過ぎだと思うけどな」
「そうかな?」
「そうだよ。自分の命も掛かってるし、命あるものを殺す。これは大変な事だよ」
「大丈夫だよ。クモとゴキブリだって殺虫剤でプシューとするし、神様の加護があれば魔物もプシューして終わるって」
この能天気さは神様のせいか、元からかなのか、これ以上言っても意味がないと判断して、瞑目する。
明人…。今、貴方は何処に居るの?………居るよね、明人。




