第四十二話
「では!これで第二百九十三代目騎士候補生の卒業式を終了する!」
決闘の日から時は流れ、年終りの月の一日目に俺達の卒業式が執り行われた。俺とヒューリ達は優秀な成績を修めて第一騎士団配属に決まった。
卒業式は騎士団が確保してくれた会場で行われ、卒業式という堅苦しい行事を終えると祝賀会となり、成人前の男達はそっちの方がメインだとばかりに盛り上がる。
祝賀会には美味しい食事に歌や合唱団、劇なんかもあった。どれだけの費用を注ぎ込んでいるんだと苦笑いをした。祝賀会は昼から夕方頃まで続いていく。
ヒューリもエリストもマイクもエグロも楽しそうだ。俺は四人が他の騎士候補生…いや、これからは騎士になるのか。兎に角、他の奴等は決闘以降、俺との距離が離れた。何をしたのか分からないが、全員が俺の事をアキトさんとか敬称で呼ぶようになった。
だから、俺が皆の所に居たら楽しめないと思い、一人でしっぽりと楽しんでいる。
「よっ!アキト!ヒューリ達はどうした!」
「教官。ヒューリ達は他の奴等の所ですよ」
「そうか…」
教官は威勢の良い笑顔から、少し物寂しそうな顔をして、ふいっと窓の外を見る。
「ガンツ…知ってるよな」
「!?何で教官がその名前を!?」
「……ガンツは…同期なんだよ。騎士候補生の…な。そして、俺が教官となると決めた切っ掛けでもある」
「アイツ……が?」
まさかこんな所に思わぬ縁があるとは…。教官は懐かしさを思い返す表情をし、一口喉を潤してから話し出す。
「ガンツはな。心優しい奴だった。両親に楽させてやりたいからと、自ら騎士団へと入った。ガンツは体格にも恵まれて、頭は悪かったが兎に角強かった。けれど、それに嫉妬した貴族の候補生が周りの奴等を使ってイジメ始めた。それでもめげずに頑張って…ある時に女性と付き合い出した。その時の事を幸せそうに話してたよ。けど、その女性は貴族が用意した女で、こう言われたそうだ。…貴方みたいなブサイクな男と金が無ければ付き合う訳ないじゃないって。…この話を俺にした翌日には宿舎から消えていた。けれど、事件が起きていた。ガンツを虐めていた貴族達とその女性。それにガンツの両親が殺されていた。特に酷いのは女性で顔面を拳でグチャグチャにされた形跡があった。俺は差別によってガンツみたいな悲しい奴を再び生まないと心に決めて、教官となったんだ」
「それは……」
確かに、好きだった人にそんな事を言われた自分の中の何かが壊れるだろう。俺だって飛鳥にそんな事を言われてフラれたら可怪しくなりそうだ。けれど、自身の両親さえ殺すとは…。
「そして、彼が捕まった時に君の事を聞いた。恐ろしく強いってな。驚いたよ。ガンツは俺より強かったからな。幾ら太ったとはいえ、アイツの威力は候補生時代や傭兵時代も知ってるからな。子どもに負けたと聞いて信じられなくて、アキトと戦って、なるほどと納得した。確かにガンツでも負けるな…と。まぁ、アキトと戦いたくて無理矢理一年目全員と模擬戦する事にしたのは強引過ぎたな」
「え、エリストが不甲斐なかったからではなく、俺と戦う為にわざわざあんな事を!?」
「ああ!」
教官はそう言い切り、ワッハッハ!と声を張り上げて笑う。
「なんすか、それ…」
「まぁまぁ。今となっては良い思い出だろ」
「…否定はし辛い所ですね」
「そうか」
と言う言葉を区切り、神妙な顔をして俺へと視線を向ける。
「仲間は、ダチは大切にしろよ。アキト」
「勿論ですよ。教官」
教官に笑ってそう言い返した。教官はフッと笑い、俺の肩を掴む。
「頑張れよ。お前はきっと世界に轟く大英雄になるさ」
「ありがとうございます」
御礼を言うと教官は肩から手を離し、「それじゃあな」と踵を返して手をヒラヒラと揺らし、別れを告げた。俺はその後ろ姿に今までありがとうございますと意味を込めて頭を下げた。
次の日には全員が宿舎から出て行き、其々の故郷へと帰る。俺は孤児院に帰るには距離が遠い為、一足早く騎士団の寝所へと荷物を運ぶ。俺以外はまだ居ない為、部屋はガラガラだ。荷物を置いたので第一騎士団本部の中を見回っているが…。どうにも視線を浴びる。故郷に帰らず寝所へと一足早く入る奴も少くない筈だが…。
「やぁ。久し振りだねアキト君!」
「サエ…じゃなかった。団長!」
「君に団長と呼ばれると何ともこそばゆい。君は前通りにサエタルさんと呼んでくれたまえ」
「いや、そういう訳には…」
「駄目ですよ団長。新入りを困らせては」
団長からの言葉に困惑していると後ろから団長より一回り小さい茶髪のアイビーカットの細身の男性が出て来る。
「グーフィ。別に名前を呼ぶくらいだ。別に良いだろ?」
「駄目です。幾ら団長のお気に入りとはいえ、贔屓や特別扱いはいけません」
「ん〜。そうか。分かった。すまなかったねアキト君」
「いえ、お気になさらず」
「それじゃあ僕はこれで。また会おう!」
サエタルさんはそう言ってこの場から立ち去った。
「…アキト君はここに来たばかりだよね。良かったら私が案内しますよ」
「良いんですか?」
「ええ。ですが一つお願いがあるのですが…」
「私に出来る事なら」
「ええ。寧ろ、貴方にしか出来ない事ですよ」
………。
俺はグーフィさんと決闘をした。決闘をして、負けた。強かった。勝てる気がしなかった。今はまだ…!絶対に…グーフィさんと団長を超えてやる!そして誰にも負けない騎士として飛鳥の隣で戦うんだ!
俺はこの騎士団で決意新たにした。




