第四十一話
ヒューリ視点
悔しい。医務室のベッドの中でそう思う。友達に心配させて、他の友達も巻き込んで。注意されていたのに油断した。負ける事はないと。そして、信頼していた!シリアス達を!卑怯な真似はしないと少なくとも信頼していた!
俺はもう油断もしない。シリアス達に信頼もしない。サリアを守る為に……俺は絶対に、負けない!
「では、中堅戦…始め!!」
教官からの試合開始の言葉を聞く。シリアスも聞いてる筈だが動かない。意外だ、シリアスならさっさと掛かって来ると予想していたんだが…。
「ヒューリ。最後の忠告だ。この試合下りろ。そうすれば痛い目見なくて済むぞ」
シリアスは勝ちを確信した余裕の表情で言う。なるほどな。ここで俺が試合を下りれば必ず勝てると、そう思ってるみたいだな。でも、それは自分は俺に勝てるのか不安だと教えてるみたいなものだ。
「心配ない。痛い目に遭うのはお前だからな」
「そうか。なら、さっさとくたばれ!」
シリアスが大振りの一撃を当てようとする。避け…チッ!こんな時に痛みが!俺は仕方なく木剣で受ける。
「くっ!」
衝撃で痛みに響く!
「ハハハ!やはり痩せ我慢してるだけではないか!ほら!ドンドン行くぞ!!」
ガンガンガンッ!と何度も木剣を打ち込まれる。クソッ!いつもならシリアス程度の攻撃なんて躱せるのに!しかも聖心力が回復の為にある程度消費している。使うタイミングも考えてないと…!
俺は来る痛みに備えて歯を食い縛り、シリアスの一撃を打ち払い、ステップで右サイドに移動する。
「チッ。まだこれ程の力があるとはな。けど、これで終わらしてやるよ!」
シリアスは腕を引き、木剣に聖心力を纏わせる。今、見ると思う。何で俺達は今までそんな効率の悪い動きをしていたのだろう…と。まるで隙を突いてくれと言ってるようなもの。
「喰らえ!《火花散るよ…!」
シリアスの言葉は続かない。何故なら俺が言葉ごとシリアスの頭を思いっ切りぶっ叩いたからだ。
被っていた兜は吹き飛び、地面に転がり、シリアスは盛大にぶっ倒れる。シリアスは苦悶の表情を浮かべながら上半身を起こし、俺を見やって目を剥いた。
「な、な、何で!何でお前が……お前自身が聖心力を纏ってるんだぁ!!」
俺の周囲には黄金の靄が纏わりついている。これが聖心力を自力で操作出来るようになった俺が友から授かった力だ。
「ま、こんなに聖心力を消費したら直ぐに尽きるが、一人倒す程度なら問題はないな」
「倒す…?あ、ああ…!き、貴様ぁぁぁ!!!」
「勝負あり!中堅戦!ヒューリの勝利!!そして、この時点でヒューリ側の得点が三点!!この決闘、勝利はチームヒューリ!!」
俺は振り返り師匠でもあり、恩人でもあり、親友のアキトに、兄になる人でもあり、俺と戦ってくれると言ってくれた親友のエリスト。そして、此処には居ない最愛の恋人サリア。この三人に勝利を捧げる勝利のポーズ、拳を天へと突き刺した。すると宿舎側から喜びの雄叫びが轟く。宿舎で待機命令されていたのに皆が見ていたのだろう。窓越しだと言うのに良く聞こえる。
「「ヒューリ!」」
二人は喜びの勢いのまま俺へと抱き着く。嬉しい。嬉しいがぁ…。先ずは…。
「痛いっての!離せ!離せぇぇーー!」
「おっと、ごめん」
「つい盛り上がってしまった。スマンスマン!でも、これで妹を守る事が出来たんだ!テンションは上がるだろ!」
「それもそうだな!」
俺達はパンッとハイタッチすると、アキトとエリストは俺とハイタッチした所の手を抑える。
「「いったぁ!」」
「あっ。まだ聖心力を切ってなかった」
俺が聖心力を切ろうとした時にシリアスの声が背後から飛んで来る。
「まだだ!全員出て来い!」
するとゾロゾロと建物の影から出て来る。シリアスの後輩の取り巻き達だ。それ以外にも見慣れたシリアス家に仕えている兵士が二人と居る。他にも社交界で見掛けた兵士が七人。計兵士が九人。全員が抜き身の真剣を持っている。不味いぞ。こんな人数を相手にするなんて。教官も兄様も武器を持っていない。
「全員で掛るぞ!教官も!リートの野郎も!ヒューリの野郎達も!ぶっ殺すぞ!!」
後輩の取り巻き達はシリアス達五人に真剣を渡す。構えようとするが、聖心力が切れかけてるのか身体がガクンと落ちる。クソッ!折角勝ったというのに…。このままじゃ…。
「ヒューリ。木剣を貰うよ」
「え?」
アキトは俺が答える前に木剣を俺から奪い取る。まさかアキト!「無茶だ!止めろアキト!」そう言おうとした時、雰囲気が明らかに変わり、アキトの周囲が冷たく静かな空気が広がるのを感じて、背筋がゾクッと冷たい何かが伝う。
「逢魔流…一の太刀・改《舞葉薄明》」
アキトが言い終えた次の瞬間、アキトの姿がブレ、分身をした!アキトの分身はシリアス、取り巻きに兵士含めて、武器を持つ手を一文字斬り姿を確認し、全てのアキトが彼等の背後に居るアキトへと集約される。
シリアス達は手の痛みに悶て武器を落とし、直ぐに教官と兄様が兵士達から先に武器を奪い、次々に捕らえる。
甘かった。聖心力の自力操作を覚えて、やっとアキトと同じステージに立てたと。まだアキトの方がレベルは高いとは分かっていた。けれど、直ぐに追い付けると。何だったら追い抜こうと考えていた。しかし、今実感した。俺とアキトでは信じられない程の差がある。けど!それでこそ!目指しがいがあるというものだ!!
待ってろ!その高みに俺も辿り着いてやる!!




