第四十話
「クソォ!クソォ!何で当たらない!」
俺はその言葉を無視して避ける。そして、頬の汗を拭うフリをする。
「デルタ!お前が押してるぞ!防戦一方で何も出来てないだけだ!ガンガンいけ!!」
外野から飛んで来た言葉にデルタは焦った表情からガラリと簡単に変わり、一転してニヤニヤとした笑顔に変わる。
「…なるほどな。だから避けてばっかなのか…。なら!さっさと諦めて降参するんだな!!」
これは…俺の都合の良い展開になってきた。俺のフェイクにも引っ掛かり、デルタは増々俺へと意識が集中される。このまま気付かないでいてくれると助かるが…。
「待て!デルタ!」
デルタが考えもせずにまた突っ込んで来ようとした時にシリアスの声が動くを止める。
「何ですか!シリアス様!アイツを倒すチャンスなんですよ!」
「ソイツの目的は時間稼ぎだ!ヒューリ達が来るのを待ってるんだ!」
おっ。気付かれたか。まぁ、あからさまだしな。余程のバカでもない限り分かるだろう。
「何を言っているんですか?彼奴等は私達が」
「黙れ!」
デルタが口を滑らす前にシリアスがピシャリと黙らせる。
「…分かりましたよ。なら、コイツをさっさと倒しましょう!」
デルタはスプリットステップを始める。
「お前達程度にエグフェスト流の基本であり奥義の『高貴の歩法』と聖心術を見せるなんてな」
第一試合でさっさと同じ同門であろう奴が負けたのにやらないのはバカそのものだぞ。何故なら相手との力量を一度見ても理解出来ないという意味なのだから。というか名前ダサ過ぎないか!!そりゃ、ヒューリもスプリットステップが良いと言うわな。
「さっきまで避けるだけのお前に受けられるかな!《風靡く小麦畑》!」
先程までよりも上がった速度で迫る突き。更に聖心力も纏っている。だが、まだ遅い。俺は悠々と躱し、デルタはそのまま隣を抜けて行く。俺は反転した後に一歩下がる。
「まだまだ!《空へ立つ雛》!」
デルタは体勢を低くしながら振り向き、跳躍と同時に逆袈裟斬りをしてくるが、また後ろへと跳んで躱す。
「まだ躱すか!だが、これで終わりだ!《白水舞う滝》!」
ただの振り下ろしだ。聖心力が纏っているだけマシか。右足を後ろに動かし、相手に対して左側面を見せる。それだけでデルタの持つ木剣が俺の身体ギリギリを通過し、空を斬る事になる。
「当たら…ない…?」
「デルタ。武器を地面に落とせ!」
「なっ!シリアス様!私に負けろと言うのですか!?」
「お前の負けで私達が勝つのだ!構わないだろう!それに、退団しても良いと言うのか?」
ヤバい。今は悩んでいるが、奴も退団は嫌な筈。直ぐに木剣を手放すだろう。俺は密かに全身へと聖心力を循環させる。
「分かりました」
武器を手放した!俺は木剣が地面に着かないように打ち上げようとしたが、視界の隅に窓から見慣れた姿が見えて、急停止して落ちる木剣を見やる。木剣は重力に従い、そのまま土が付く。
「勝負あり!次鋒戦!アキトの勝利!!」
俺は勝利を教官から受け取り、ラインから出る。その時に嘲笑を含んだ大声が聞こえ、視線だけそちらに向ける。
「これで私達の勝ちだ!残念だったな!お前達がどれほど頑張ろうと負ける運命なんだよ!アハハハハ!!!」
俺はシリアスを見て、余裕の笑みで返す。
「それはどうかな」
「は?」
俺は木剣を前に投げると、そして木剣を建物の影に隠れている人物が受け取る。受け取った人の姿を見て俺とエリスト以外全員が驚き、シリアスは腰を抜かしていた。
「ヒュ、ヒュ、ヒュ!」
その人物は木剣を担いで影から出て来る。
「ヒューリ!!」
「よう。世話になったなシリアス」
ヒューリは嘲る顔でシリアスを見下す。俺はヒューリの隣へと歩いて耳元で囁く。
「(容体は?)」
「(絶好調…と言いたいけれど、まだ節々が痛い。誤魔化しながらやるしかない)」
「(頑張れよ)」
ヒューリはフッとキザに笑ってラインの中へと入る。
「当たり前だ!」
ラインの中へと入ったヒューリはシリアスに向けて、指で挑発的な動作をする。
「ほら、さっさと立って戦おうぜ。無様に負かしてやるよ」
シリアスは屈辱に顔を歪めて、立ち上がる、
「…クソッ!どうやってあの怪我を治したか知らないが、どうせ無理してるだけだろ!もう一度大怪我させてやるよ!!」
そう言ってシリアスは木剣を、敵意を全面にヒューリへと向ける。
「双方、準備は良いようだな。では、中堅戦…始め!!」
教官の合図によってサリアを賭けた戦いの火蓋が切られた。ここでヒューリが勝てば俺達の勝ち。シリアスが勝てばほぼ此方の負けだ。ヒューリが受けた喧嘩の決着、お前が勝って終わらせろ!




