第三十九話
第三者視点
ヒューリが目を覚ましたのは次の日の朝。身体を起こそうとするが、痛みが全身を襲い、立ち上がる事さえ叶わない。何が何だか分からない。困惑しているとベッドの隣で椅子に座って眠りこけているアキトとエリストの姿があった。
「アキト…?エリスト…?」
名前を呼ばれた事に反応した二人は起きるやいなや、血相を変えた様子でヒューリの顔を覗き込む。
「「ヒューリ!大丈夫か!!」」
「あ、ああ…。それより何があったんだ…」
「それはこっちのセリフだ!何でそんなボロボロになってるんだ!本当に酷い怪我だったんだぞ!右手複雑骨折、右腕脱臼、左腕骨折、肋骨二本骨折、右足複雑骨折と利き手利き足側が重点的に折れていたぞ!他の二人も同じ感じだ!」
「そ、そんな…。それじゃあ…決闘は…」
「その怪我では無理だろう」
ヒューリはアキトに現実を突き付けられ、ボロボロと涙を溢し始めた。
「クソ…。調子に乗ってた…。あんなにアキトが気を付けろと言ってたのに本気にしなかった。俺のせいだ…。クソォォォ!!」
「おい!そんなに叫んだら傷に響く!」
アキトの言う通り、ヒューリの全身には鋭い痛みが走る。
「…ヒューリ。決闘に出たいか?」
「アキト…何を…?」
エリストがアキトが何を言っているのか分からず、首を傾げる。それもそうだ。これ程の怪我で決闘に出るなんて不可能だからだ。
「出たい…!出たい!俺が撒いた種だ!俺が出ないで誰が出る!」
痛みを堪えながら嘆願するみたいに叫ぶ。アキトはその姿にヒューリの覚悟を見て取る。
「その怪我を治す方法はある」
「何だ!教えてくれ!」
「聖心力を怪我した部位に注ぎ、ポーションを飲む事だ。でも、今のヒューリ達では動作をして聖心力を流すのは不可能だろう」
「こんなの気合で…っ!?!?」
ヒューリは無理矢理にでも身体を動かそうとするが痛みが拒絶する。
「ほらな。けど、ここで俺が教えてる聖心力の動作無しの操作だ。コツは勿論無いけれど、これまでの訓練で聖心力の流れを感じていた。もう土台は出来てる。今度は自分の意思で聖心力を流すんだ。難しいだろうが、これが出来ないと何も出来ずに終わる。だから、俺が言えるのは一言だ。守りたい女の為にやれ。…それじゃあな。エリストも食堂へと行くぞ」
「あ、ああ。まぁ、ヒューリ。今はゆっくりしてろよ。無理はすんじゃないぞ。それじゃあ、またな」
「…すまない。ありがとう」
ヒューリは視線だけを動かしてアキトとエリストを見送って、少しの間を置いて、口を開く。
「聞いてたか、二人共」
「ああ。不甲斐ないばかりだな。不意を取られるなど…」
「お蔭で全身イテェ…」
「これをやったのは絶対にシリアス達だ」
「この借り、返してやるべきだな」
「…治してボコボコにするぞ!……イテテッ」
三人は必ず決闘に出てやると、必ずシリアス達を倒して謝らせると誓った。
〜〜~
アキト視点
それから二日後、決闘の日を迎える。俺とエリストの隣には三人の姿はない。リートさんは事情は聞いているようでシリアス達に険しい顔を向けている。
「それでは決闘を始める!先ずは先鋒!前に!」
外庭に大きめに描かれた四角の白いラインの中へとエリストと取り巻きの一人が同時に入る。
「頑張れよ」
「ああ。必ず勝つ」
エリストは俺を見ながらグットポーズをしてから正面を見据える。相手はニヤニヤとした余裕の笑みを浮かべている。
「では、先鋒戦…始め!!」
その言葉を合図に相手は駆け出して木剣を振り下ろす。エリストは攻撃を木剣で受けて右へと弾く。その隙にエリストは手首を内にし、腕を引いて聖心力を身体全体へと流し、木剣へと伝い、更に全身へと還り、循環する。相手もただでは終わらせないと同じような動作をしながら聖心力を木剣へと纏わせて回転するように薙ぐ。
「《芽吹き断たれる花》!!」
「《真天斬》」
エリストは相手の木剣を狙い撃ち、振り下ろす。互いの木剣はぶつかり合い、少しの競り合いをするが相手の手に限界が訪れ、木剣から手を離れ、エリストの木剣が相手の木剣を地面へと叩き落とした。
「な…にっ!」
「勝負あり!先鋒戦!エリストの勝利!!」
エリストはラインから出て来て、拳を俺の前へと突き出し、ニッと笑う。俺も拳を突き出して合わす。
「先ずは一勝!アキトも自分の仕事をしろよ!」
「ああ。勿論だ」
俺は余裕の笑みを浮かべて、必ず仕事を果たすと誓う。
「では次鋒!前に!」
教官に呼ばれてエリストと擦れ違いながらラインの中へと入る。
「じゃあ、行ってくる」
「頼んだ」
俺の相手と向き合うがまだ余裕な嫌らしい笑みをしている。一敗しても余裕なのは俺達にあと一人が居ないからだ。この試合は五対五の点取り試合。勝ち抜きであれば余裕で二人でも勝てるが、この点取り試合では三点を取らないといけない。つまり、三勝しなければならない。エリストの一勝に、俺の一勝、そしてもう一人が居る。エリストが勝ってくれたお蔭で負けるリスクはほんの少しだけ減った。三人共復活しなくても一人が復活して勝ってくれれば、此方の勝ち。なら、俺の仕事は?それは……。
「では、次鋒戦…始め!!」
「死ねぇ!!」
俺は叫びながら駆けて木剣の振り下ろしする相手の攻撃を避ける。
「このぉ!!」
逆袈裟斬りを避ける。
「このぉ!このぉ!このぉ!」
当てられない苛立ちによりめちゃくちゃに振るわれる木剣を避ける。避ける。避ける。
「さっさと当たれぇ!!」
全ての攻撃を見切り、躱す。
さて、この決闘での俺の仕事は………時間稼ぎだ。頼むから投げ出さないでくれよ。




