第三十六話
第三者視点
時は数時間前へと遡る。
ヒューリとエリストは緊張をしながらヒューリの兄との待ち合わせ場所へと目指す。しかし、緊張の種類の違いはあり、ヒューリは家族に将来の妻を紹介するというもの、エリストは憧れの本物の騎士に会えるという憧憬が混じった緊張だった。
ヒューリは兄から送られた手紙を頼りに、兄が泊まっている宿を探す。
「なぁ、エリスト。『柏木の館』はこっちで会ってるのか?」
「ああ。王都では商人みたいな小金持ちが泊まる事で有名だし。先ず間違いない」
エリストの案内通りに人波を避けながら進み、目的の宿屋へと辿り着く。宿屋の中へと入り、受付の前へと歩む。
「いっらしゃいませ。ご宿泊ですか?それともご予約ですか?」
「いえ、リート・カリスアイクにヒューリが来たとお伝え下さい」
「リート様のお客様ですね。お話はお聞きしております。ご案内致しますので、少しお待ち下さい」
受付の女性が裏の方へと入り、他の人と共に出て、受付の女性がカウンターを出て、共に出て来た別の人が代わりに受付へと入る。
「お待たせして申し訳ございません。リート・カリスアイク様のお部屋に案内させて頂きます」
受付の女性の後を二人は付いて行き、一つの扉の前で止まって、扉の横にある紐を何度も繰り返し引くと、扉越しからチリンチリンと囁かに鳴る。
「は〜い」
寝起きのような声で扉を開けてヒューリと似た髪色で髪の毛がボサボサのバスローブを着た男性が出てくる。
「リート様、ヒューリ・カリスアイク様のご案内させて頂きました」
「ああ。ご苦労。もう戻って良いよ」
リートは懐からチップを取り出して受付の女性へと渡す。
「お心遣いありがとうございます。それでは失礼致します」
受付の女性が立ち去るのを確認したリートはヒューリに笑い掛ける。
「さ、ここではなんだ。食堂へと行こうか。ちょっと着替えてくるから少し待ってくれ」
ニ〜三分と扉の前で待つと、青を基調としたトレンチコートを羽織り、まるで軍服のような重厚感がある騎士団の制服で、左の襟には第四を示す四本の赤のラインがストライプに伸びる。だが、髪の毛はボサボサのままだ。
「カッコイイ…」
「ふふん♪そうだろう?」
「調子に乗らないでよリート兄様!髪もボサボサで!父様とルート兄様に見られたら怒られるよ!」
「ま、居ないから良いだろ」
「そんな良い加減だから怒られるんだよ…」
兄のいつもの調子に呆れながらも、変わっていない兄の様子をヒューリは嬉しく思った。
「で、君は誰だい?」
リートはビシッと両指でエリストを指し、エリストはビクッと反応して、肘を真っ直ぐにし、右手で心臓を叩くようなポーズをする。騎士が正式な挨拶をする時の動作を無意識にしてしまう。
「エ、エリストです」
ガチガチになりながら挨拶する姿にニッと笑う。
「そうか!君が同室の子なんだな!?これからもヒューリを頼むぞ!!」
「は、はい!勿論です!」
ヒューリは互いのやり取りを見て兄に対して「少しは変わって欲しかったな」と感想を抱いた。
食堂ではヒューリとエリストにリートが騎士養成施設での話を強請り、食事をしながら話を聞いた。
「へぇ〜。そんな訓練をしているのか。しかし、ヒューリは俺と違って優秀だよな。王都の騎士養成施設に入れるなんて」
「兄様達が俺を鍛えてくれたからだよ。それにそもそも兄様達は家の都合で領地にある養成施設に入っただけだし、王都の狙えば合格は出来たよ」
「そう言ってくれると救われる。あっ!そうだ!アキト君!彼にも会わしてくれるかな!」
急に前のめりになってアキトの事を聞いてきた兄に対して疑問に思い、首を傾ける。
「勿論、アキトや皆と会わせたいけど…、一月も王都に居れるの?」
「…無理だな。延ばせて二週間だな」
「そもそも何でアキトに会いたいんだ?」
「それは…あっ、これは捜査情報と秘匿に触れるから言えねぇわ」
「なんだよ、それ…」
顔をテーブルに突っ伏してため息を吐く。ヒューリの様子に笑顔で頭をポンポンと優しく叩く。
「まぁまぁ。それより今日の目的であるヒューリの婚約者、紹介してくれるんだろ?」
「むっ!…うん、まぁ…」
「じゃあ飯も食ったし、早速行こう!」
「ちょっ!兄様!!」
ガタッと立ち上がり、足早に去るリートをヒューリとエリストは慌てて追い掛けた。
ヒューリとエリストの案内の元、エリストのパン屋へと進んでいたが途中、人集りが出来ており、女性の嫌がる声が聞こえる。
「離して!離して下さい!」
「サリア!」
ヒューリは足に聖心力を込めて一気に人集りを超えて、騒動の中心へと着地する。
「ヒューリ!」
サリアはピンチの時に現れた恋人にトキメキいて悲観していた顔が笑顔へと変わり、ヒューリはサリアを襲っている奴の顔を見た。
「シリアス…。お前か…」
「ヒューリ…」




