第二十九話
教官にそう言われて一年目の者達は全員がどうするかと近くの友人とヒソヒソと話し合う。
「手を上げる者は居ないのか…なら…」
「はい!先ずは私からお願い出来ないでしょうか!」
俺は手を上げて教官に願い申し上げる。教官は俺の顔を確認して違う方に顔を向ける。
「アキト。お前は最後だ。お前と打ち合ったら疲れてそれ所ではなくなる」
その言葉は俺を強者と認めたものであった。教官の言葉の意図を理解した先輩達の視線が俺へと突き刺さり、一年目の者達にも気付いた者が居たらしく、俺をキッと睨んだ後に立ち上がる。
「教官!!私がこんな奴より下だと云うのですか!!」
「寧ろ何故お前が上だと思っている?ウォーミングアップ程度の運動量を熟して、汗一つ流す者とヘロヘロとなる者がどちらが上か等、獣でも分かる。もし、自分が強者であると認めさせたいなら掛かって来い」
「言われなくても!!」
「二年目、三年目は最初に行った通り一対一の模擬戦だ!!何時までも座ってないで始めろ!!!」
「「「「「はい!!!」」」」」
二年目、三年目の人達は立ち上がり其々模擬戦を行い始め、それ等の真ん中で俺達一年目の者達は教官と突っ掛かた少年と模擬戦を見る。
「教官如きが…!後悔させてやる!」
「やってみせろ」
少年は木剣を両手持ちし、テニスのスプリットステップをして何度も地面をバウンドする。
「うわっ…。やっぱりエグフェスト流使うのか…」
これがエグフェスト流か、初めて見た。ヒューリはエグフェスト流を知っていた、となれば貴族なのか…?ヒューリは。
少年は地面を蹴った反動で踏み出して一気に前へと詰めながら腕を引いて、教官の喉へと突きを放つ。
「《風靡く小麦畑》!」
「甘い」
教官はそう短く言い放ち、聖心力が合わさった突きをエリストの時と同じく、右手一本で聖心力を纏っていない木剣で容易く左へと逸して、少年は教官の隣を素通りする。
「まだだ!《芽吹き断たれる花》!」
少年は左手を木剣から離し、左回転しながら右手だけで教官の背中目掛けて攻撃しようとする。だが教官は見向きもせずに、左足を引いて向きを変え、右手から左手に移された木剣が少年の木剣へと振り下ろされて、少年の木剣は叩き落とされた。
「な…あぁ……」
「これがお前の実力だ。さっ!次!!名乗り上げないならこっちで勝手に指名するぞ!!」
教官の言葉の後、一年目の者達全員が俺を見てから我先にと手を上げ始め、教官は満足げに頷く。
「最初からその意気を見せて欲しかったものだ。じゃあ先ずはお前からだヒューリ!!」
「はい!!」
ヒューリは立ち上がりながら俺にボソッと耳打ちする。
「(俺の実力見てろよな)」
そう言ってヒューリは教官の元へと足早に移動する。
「さぁ、来い!!」
「はい!!」
ヒューリは先程の少年同様にスプリットステップをし、三度目のジャンプの後に右足で地面を蹴りながら聖心力を木剣へと伝える。
「《気連斬》!!」
それはアースラー流の技ではと思ったが、確かに何度も木剣へと攻撃を当て続ける様は確かに《気連斬》だ。しかし、普通のと違うのはステップを使って左右に揺さぶりながら木剣を叩く。その事で木剣の動きを小さくなり、隙は無くなっており、衝突回数が増えた為に相手の手の負荷が増える。けれど、身体全体の動きが大きく消費が激しい。あんなに疲れてたんだ直ぐにバテる。
予想通りヒューリは膝がガクンと一瞬だけ落ち、体勢が崩れる。体勢を戻そうとするが教官が隙を見逃す訳もなく、肩に一撃を喰らう。
「くっ!」
「動きは良いがスタミナが足りん!!!では、次!!!」
ヒューリに続いて一年目の騎士見習いが教官へと向かって行くが簡単にあしらわれて自分の欠点を指摘される。皆やられる度に最初の向かって行った勢いを削がれ、負けると肩を落として戻る。何人目か数えて無いが大体七十人目位だろうか、大体それぐらいの人達が教官と戦ったが、誰も勝てなかった。それもヒューリ以外全て30秒以内に終わった。
にしても教官の体力は凄いな。後半になれば体力が回復した奴が挑む上、後半になればかなりの疲労が溜まっている筈なのに負ける事はない。それどころか汗一つさえ流さない怪物っぷりだ。
「では最後!!アキト!!」
「はい!!」
俺は教官に呼ばれて視線が集まる中、真ん中へと移動し、教官と対面する。近くで見ると教官のゴツさが良く分かる。
「随分と注目するような事を言ってくれましたね。こんな目立ち方は個人的に好ましくないんですが…」
「そうか?だが、お前は団長のイチオシ。一度そういう奴を教育した事あるが、結構疲れた相手だったんだ。勘弁しろ」
「そうですか。なら、期待に応えられるようにヘロヘロにしますよ」
「そりゃ嬉しいね。さぁ、掛かって来い」
教官は挑発的な笑みを浮かべ、両持ちで俺への攻撃に備える。何となく分かる。この人は本気で俺を叩き潰そうとしているのが分かる。全く、サエタルさんが紹介した前の人のせいで余計なヘイトを向けられる。だったら…ここでヘイトを向けても意味ないと思わせる程の圧倒的な力を見せよう。この人を倒せるどうかは分からないが、力を見せるのは出来るからな。
「では、行きます!!」




