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適性無しの転生者  作者: 福王聖二
第一章
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第二十五話

グラウスは正しく三下の敵役みたいな悔しさを全面に出した悲鳴のように叫んだ後、ガンツ達と共に騎士達に連行されて行った。


…しかし、何で観覧席の人達を人質に取るなんて暴挙に出たんだろうか。あんなのバレたら自分の立場が危うくなるだけだったろうに。その答えは三日後に孤児院を訪ねてきたサエタルさんからもたらされた。


「観覧席の人達を人質に取って騎士達を殺して、裁判官を脅して無理矢理勝訴にするつもりで、騒ぎが起こったのがバレても予め人を配置して通行止めしていたらしい。それに庶民が何を言おうが無視されるだろうと考えたらしい。殺した騎士達は魔物の餌にするつもりだったらしく、そのまま自分が抱えている傭兵達に裁判官を護衛させ、家と家族を特定してこの事は内密にするようにと脅すつもりだったらしい」


ふむ。確かにあの場にサエタルさんが居なかったらそんな展開になっても可怪しくなかったろう。…けれど奇妙だ。何でこの人はこんな事を教えてくれるんだ。幾らあの場に居て、グラウスの裁判相手だからとは言え、一般市民にこんな事情聴取の内容を話すなんてあり得ないだろ。こんな経験が無いから絶対とは言えんが。


「……教えてくれるのは有り難いんですが……何故サエタルさんはここに?」

「今の話は単なるついでだ。本命は…これだ」


サエタルさんは懐から一枚の手紙を取り出す。日本の物と比べると質はガクンと落ちるがこの世界では大変質の良い物だ。


「騎士団入団への推薦状だ。勿論直ぐ騎士団に入れる訳ではない十二歳の年、つまりは修行の年から騎士養成施設に入って貰いたい。この推薦状があれば騎士養成施設の入団試験をせずに入れる。騎士養成施設へと入れれば間違いなく騎士団へと入れる為、騎士団入団への推薦状という名称なんだ」

「なるほど」


聞いてもない事を勝手に答えてくれた。確かに騎士団入団と言ってるのに騎士団入団しないんかいとは思ったけど。


「今は持っているだけで良い。この手紙は受付の者に手渡してくれれば君は自動合格だから」

「…何で俺にこれを?」

「君は強い。あれは恐らく自前の聖心術だろう?自ら聖心術を生み出せる才能ありし者。それにあんな大きな男を倒せるなんていう異常な強さは推薦状を出すに足るものだったよ。あれはなんていう流派なんだい?確か君の名前はアキトだったよね?なら、アキト流かい?」

「いえ、逢魔流と云うものです」


逢魔流。

逢魔流は約500年前、飛鳥の御先祖様が戦国時代真っ只中に生まれた二撃必殺を信条としている剣術。飛鳥の祖父様曰く、二撃とは自身が与えたダメージで戦闘不能にし、仲間が止めを刺す事だと。一対一でも多対一でも対応出来る最強の剣術とも語っていた。


「逢魔流…覚えおこう。…それで…」

「はい」

「あれは何をやっているんだ?」


サタエルさんは大工仕事をしているアサラさん指差している。


「ああ…。あれは…」


俺が説明をしようとすると高齢のシスターから怒号が飛んでくる。


「ほらっ!さっさと直しな!!あんたのせいで孤児院がめちゃめちゃなんだから!!」

「い、いや…別に俺だけのせいじゃ…」


アサラさんはシスターの方へと向いて情けない顔をしながら言い訳をするが、シスターはガンッと床を踏んで大きな音を鳴らす。


「口答えしない!!」

「はい!!!」


アサラさんはシスターに叱咤されて背筋を伸ばして孤児院の修復を進めていく。


「…実は兵士の中に裏切り者が居て、この孤児院で戦って……このざまです…」


俺達が居る食堂は椅子もグチャグチャ、カーテンもビリビリ、テーブルも割れている。床や壁も剣で削られた跡がチラホラと残っている。


「なるほど。…そういえばその裏切り者もアサラ君のお蔭で捕まえられて事情聴取した時、子ども達が何処にも居なかったと言っていたが、何処に隠したんだ?闘技場にも居なかったし」

「秘密の地下空洞ですよ。秘密だから騎士団長にも言えませんが」

「そういう事か。確かに闘技場に居ても危険なだけだったしね」

「はい」

「もう一つだけ、あのシスターは何処に居たんだい?あいつ等の話ではあそこの出入り口は塞いでいたから、来れない筈なんだが…」

「実は俺達より先に待合室…というか準備室に掃除の女性に化けて、予め中に入っていたんですよ。因みにこの案はシスターから申し頂きました」

「なるほど。納得した。…それでは聞きたい事も聞けたし、渡すべき物も渡せたから僕はもう帰るよ」

「玄関までお送りしますよ」

「ありがとう」


俺は玄関までお見送りし、立ち去るサエタルさんに御礼を述べながら頭を下げる。顔を上げると彼は振り返ってにこやかに笑い、手を振ってから去って行った。


孤児院の中へと戻ると大工仕事しているアサラさんに水を上げて、頬を少し朱に染めながら柔らかくはにかんで笑っているマリアさんが居る。


マリアさんとアサラさんは裁判の次の日には結婚届を出して、夫婦になっている。俺は元々互いが互いに気がある事は分かっていた。アサラさんはマリアさんの美貌と聖母のような優しさに、マリアさんはアサラさんのどこまでも親切な男気を持ち、子ども達に優しくする姿に惹かれていた…とアサラさんと決闘して勝った後に聞いた。しかも、二人の恋慕にはミリィも気付いており、二人の結婚を喜んだ。


夫婦となった二人は今後も孤児院と教会に来るみたいだが、二人の結婚生活を優先して欲しい。そう思って二人を見ているとマリアさんにケイトが駆け寄り、そのケイトをキットが追い、ミリィとシェフィがキラキラした瞳でアサラさんに話し掛け、エルトはミリィの近くに、マリオは俺へと近付いて手を繋ぐ。


俺は女子二人に話し掛けられて困惑しているアサラさんを見て、笑いながらマリオと一緒に皆へと近付く。


そうだ。俺が守りたかったのはこんな日常だ。本当に!守れて良かった!!


〜~~

第三者視点


サエタルはグラウスを捕らえた馬車とは違う、家紋の入った箱馬車に乗り、窓から動く景色をボーッと見て、突如フッと笑う。目の前の居た騎士は怪訝そうな顔をして「どうしました」と問われ、「何でもない」と答える。


(いやはや、思わず笑ってしまった。まさか本当に神の御告げ通りに面白い人材を見付ける事が出来た。いつもの教会の奇妙奇天烈だと思ったが…試しに乗ってみて正解だった)


将来有望な子ども…アキトの事を思い浮かべてまた笑う。


(実に楽しみだ)


と、考えながら不敵に笑った。


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