第二十三話
「私、ミリアデト・グレイバフがここに誓います!真実に生き、真実に死ぬ!この裁判を決して不公平のない中立の目で判別し、この裁判を象徴たる天秤と我が生涯に誓う!これより!決闘裁判を始める!」
その言葉を合図に互いに見合う。身長は恐らく俺の倍以上。横幅は俺の三倍。袖から見える腕は筋肉の分厚さを感じる。ただ太ってるのではなく、お相撲さんみたいに筋肉が身体に覆われてると予想出来る。子どもの普通の聖心術では太刀打ち出来ない。
合図と同時に振り下ろされる斧を見て、全身と木剣に聖心力を巡らせる。毛穴から吹き出ているのか分からないが、全身から金色の鱗粉のような物が周囲に撒き散らす。
俺は左へとスライドするように移動する。それだけで容易く斧を躱し、振り下ろされた手首を狙う。
逢魔流二之太刀《宵闇》
割と昔、聖心力の発動で威力の倍率がどれくらい上昇するか検証した事がある。方法は地面に突き刺して、木剣がどれほど埋まって残りの刀身から計算する。その方法で算出した結果、武器単体での威力上昇率はニ倍、武器と聖心力を流した両腕では三倍だった。では、全身に隈なく聖心力を流した場合は五倍。ただ単に突き刺しただけでその威力。では、足の踏み込みに腰の捻り、更に背筋の躍動と遠心力が加算され聖心力と合わさって極限までに強化され、振り下ろされる一撃は、鍛え抜かれた大人の男性の手首を筋肉や脂肪さえ無視して、骨を簡単に砕いた。
「ぐわぁぁぁーーーー!!」
男が悲鳴を上げてる隙に致命的一撃を与える。俺はコイツが痛みに悶ている間、背後へと回って膝裏へと木剣を薙ぐ。
逢魔流五之太刀《落日》
両方の膝裏に一撃ずつダメージを与え、男の巨体は膝から崩れ落ちる。首へと当てるのに丁度良い高さとなり、木剣を首筋に当てる。
「これで俺の勝ちだ」
俺がそう言うが裁判官は何も言わない。あれっ!まだ駄目!?と思った時に裁判官が立ち上がる。
「勝者は被告の代理人、アキト!これによりシスターマリア様の勝訴となります!」
裁判官による勝ち名乗りをして貰って一先ずホッとした。これで此方の勝利が大方決まった。観覧席の人達も俺の勝利を祝い、喜びを共有するみたいに歓声を上げている。その歓声を割いて雄叫びが徐々に近付くのを感じる。
「おい!待て!!」
声の方へと向くと俺へと向かい短剣を持って走って来る口上役と、それを追う司会役が視界に捉える。俺は短剣を持つ手を弾く。口上役は「あっ!」と声を上げながら空を踊る短剣を目で追う。司会役は短剣に気取られている口上役を取り押さえる。
「何をしている!」
「俺は金を積まれてやっただけだ!誰かは言わん!」
金、そのキーワードで全員がグラウスへと視線を向ける。グラウスは特に俺達以外には何もしてないイメージだが、何かやったのか思うほどに敵意を向けられている。いや、シスターに何かやってた時点で十分やってるか。
口上役は騒ぎを聞きつけた職員が連行し、フィールド上に居たままの司会役が説明に入る。
「え〜口上役は誰かにお金を積まれ、今回のような強行に走りました。そして、憲法六十七条の決闘裁判中に起こった差金人不明による裁判妨害があった場合、身分が低い者の勝訴となります」
司会役がそう伝えた瞬間にグラウスは大笑いをし、全員の視線も気にも止めずに笑い続ける。
「差金人不明なら仕方ない!であれば、この裁判!私の勝ちだ!!」
観覧席に居る人達は意味が分からず怒号を上げる。
「何を言ってるんだ!!」
「そもそもあの子が勝ったんだから、それで裁判も勝訴で終わってるだろ!!」
「お前はさっさと帰んな!!」
グラウスは彼等の言葉を一切無視して、気持ち悪い笑顔をしながら裁判官へと向く。
「裁判官さん!この理解力のない者共に教えてやれ!」
裁判官も嫌そうな顔をしながら口を開いた。
「…先ず裁判の閉廷ついてですが、決闘裁判でも見聞裁判でも、書類での正式な手続きを完了に伴い裁判は閉廷となります。つまり…」
「まだ裁判中という事だ!」
グラウスは裁判官の言葉の続きを奪い、余裕を見せつけるみたいにアピールする。裁判官は少し鬱陶しそうに咳払いをして、次の説明の言葉を紡ぐ。
「次にグラウス様の勝訴の件についてですが、教法五条の神官等の高位の神職はどの身分にも当て嵌まらず、国王でさえ定める事が出来ない」
「簡単に言うならば!!法律における神官…つまりシスターは国王より偉いという事だ!!」
グラウスの言葉を理解したのか観覧席は騒然となる。裁判官は「静粛に!」と声を張り、全員を黙らした後に嫌悪感を滲ませた眼をグラウスへと向けてから全員へと戻す。
「法律上では神官、国王、貴族の序列順、商人、庶民と身分差が定まっています。ですので今回の裁判はグラウス様の勝…」
「ちょっと待ちな!!」
突如、裁判官の声を遮って鋭い声が俺が出て来た登場口から飛んできた。現れたのは修道服を着た高齢の女性だった。
「貴女は…」
裁判官は突然現れた女性へと正体を訪ねる。
「私は教会から来たシスターさね!私はシスターマリアに教会からの言伝を伝える!」
「っ!不味い!ガンツ!!止めろ!!」
高齢のシスターの言葉にすぐさま反応してガンツという者に命令をする。
「どうした!動け!」
グラウスが身を乗り出してガンツに命令するがピクリとも動かない。
「チッ!ナナメ!!」
ナナメ…あの猫背の男か。そいつを探すと背後に裁判官を護衛していた騎士が背後へと回り、動いた瞬間に捕らえる気配だ。…これで全て手を尽くしたのかよ、グラウス?俺の策はこっからだぞ。俺はグラウスへと嘲笑を向けると、その表情に気付いたのか、苦虫を噛み潰したような顔で俺を睨んだ。
さぁ、トドメだ。
高齢のシスターはシスターマリアの前へと立ち、腰にぶら下げていた羊皮紙を広げて、シスターマリアへと手渡す。
「シスターマリア!シスターの役職の返上により、貴方はただの信者となります!シスターの役職を返上した事により、孤児院と教会の管理権限を剥奪!マリア、今日から貴方は一人の女性です!胸を張って、いつも通り清らかに、信仰深く暮らしなさい!さすれば神は何時だって貴方の味方です!」
「はい!ありがとうございます!」
急激な展開に観覧席の人達の理解は追いついておらず、「どう言う事だ」という声が周囲から聞こえ、裁判官は理解してきたのか、「そうか!」と大声を上げる。
「神官…シスターでなければ庶民という事だ!つまり!!身分が低いのはシスター…では無かった。正真正銘!!マリア様の勝訴です!!」




