第二十二話
三人称視点
光に照らされてたアサラの顔は自虐的な笑みを浮かべていた。
「本当は俺だって闘技場で戦って自分の仕出かした事を精算したかったが…。約束だからな」
「約束だと…?」
「ああ。俺が負けたら、兵士の裏切り者を斬るってな」
「…気付かれてたか」
「俺は悔しいが分からなかったが、全部…アイツのお蔭だな」
その言葉で直ぐに理解した。何故、アサラがここに居るか。何故、自分が裏切り者とバレたか。そして、今…誰が闘技場に居るのか…。
「あのガキかぁーー!!」
場所や時は違うがグラウスも同様にアキトを指差してそう叫ぶ。グラウスは予想外の人物が出て来た事により、そんな言葉が出て来た。初めて出した荒い口調に全員がアサラとマリア以外の者達は驚き訝しむ。そんな視線に晒されて、流石のグラウスも気になり、咳払いをする。
(にしても何であのガキが…?ムカつくガキだと覚えていたから思わず商人らしくない言葉使いになってしまった。…しかし、チャンスではないか。どんな理由で若造の代わりになったか分かんが、あんなガキにガンツが負ける訳ない。これで勝利が確定だ)
グラウスは手で隠しながらほくそ笑んだ。
アキトの登場で闘技場の内は軽くザワつく。アキトがシスターの隣へと立った時に司会役からの説明が入る。
「決闘裁判の代理人であったアサラ様は怪我をした為、代わりに彼が代理人となりました。それに伴い反則がグラウス様の代理人であるガンツ様の厳しくなりますので、御説明の際、聞き逃しのないようお願い申し上げます」
闘技場内からグラウスがやったのではとひそひそ話が遠くからで聞こえる程に多くの者へと伝播していくのを感じてグラウスは思わず顔を顰める。
(そういえばガキと大人の裁判はガキが緩めに、大人のは厳しくなる。まさか、あのガキはここまで読んで…。いや、庶民の、それに孤児の薄汚いガキが裁判の事なんて分かってる筈がない)
頭を振って妙な考えを捨て去り、次の司会役の言葉をグラウスは待つ。司会役は一歩下がり、隣に羊皮紙を持った人へと向く。
「では、口上役。決闘裁判におけるルールを述べて下さい」
口上役は一歩前に出て羊皮紙を縦に広げ、闘技場全体に伝わるように大声を上げる。
「原告と被告の代理人は傷害賠償金と名誉を掛けて戦ってもらいます!今回の決闘裁判での勝利条件!先ずは原告の代理人の勝利条件は相手の手から武器を落とす事!参ったと言わせる事!フィールドから相手を落とす事!被告の代理人の勝利条件は相手の手から武器を落とす事!参ったと言わせる事!フィールドから相手を落とす事!首に武器を突き付ける事!次に反則事項!原告の代理人は相手を殺してはならない!大怪我をさせてはならない!聖心術を使ってはならない!第三者による手助け!被告の代理人の反則事項は相手を殺してはならない!第三者による手助け!…以上です!」
口上役は後ろに一歩引くと入れ替わりに司会役が前に出る。
「それでは原告、被告は下がり観覧席の方へ」
グラウスとマリアは互いに背中を向けて反対側へと歩いてフィールドを下り、壁に沿って作られた階段を登って、代理人を応援しやすく、他の席が周囲に存在しない一番前の席へと座る。
「次に代理人二人に其々武器を!」
司会役にそう言われて互いに現れた登場口から木で作られた模造武器を持った職員が出てくる。アキト側の職員は木剣を、ガンツ側の職員は大きな木の斧が手渡すと直ぐに登場口の方へと戻る。
「では、決闘の開始を…裁判官!お願いします!」
司会役はそう言うと口上役と共にフィールドから下りる。
観覧達の注目は必然とグラウスとマリアとの丁度中間にある席、原告と被告が座るような席に座っている騎士達に守られている人物が立ち上がる。
「私、ミリアデト・グレイバフがここに誓います!真実に生き、真実に死ぬ!この裁判を決して不公平のない中立の目で判別し、この裁判を象徴たる天秤と我が生涯に誓う!これより!決闘裁判を始める!」
その合図を受けたガンツは一切の遠慮なく斧を振り上げ、アキトへと接近して振り下ろした。木で作られたとはいえ大斧。かなりの質量があり、マトモに当たれば大人でも危ない。もしもの未来を見てしまった観覧席に者達は顔を背ける。
「ぐわぁぁぁーーーー!!」
そう悲鳴が聞こえ、観覧席の一人が恐る恐る目をフィールドへと向けると予想とは反対の光景となっていた。そう、子どもが膝をついている姿ではなく、屈強な身体付きをしている大人の男性が膝をついているという現実にマリア以外が驚愕に染まっていた。
その子どもは背後から男の首筋に木剣を当てる。
「これで俺の勝ちだ」
アキトの言葉から一拍、裁判官が正気を取り戻し、勝ち名乗りを上げる。
「勝者は被告の代理人、アキト!これによりシスターマリア様の勝訴となります!」
裁判官の勝利のお墨付きを貰うと、観覧席の人達が一斉に歓声を上げて、アキトの勝利とマリアの勝訴を祝った。




