第二十話
三人称視点
決闘の日取りが決まって次の日、アサラは職場に着くと上司の前へと立ち止まって話し掛ける。
「すいません兵長。お話があるのですが」
「何だ?ここでは話せないものか?」
アサラは既にグラウスとの事を兵長だけでなく他の兵士達にも伝えており、兵長は事情を察して立ち上がろうとするが、手で制する。それで兵長は隠し立てする必要のない事だと理解する
「いえ、二週間後の休みの日程をズラして頂きたい」
「何故だ?」
「決闘裁判の日取りが決まりまして、休みの日を変えて頂きたいんです」
「…なるほど。あい、分かった。ではその日、お前の代わりに孤児院を見守る人員を変えよう。言っておくが休みにはしない。これも兵士としての勤めだ。休みはキチンとやろう」
兵長の言葉を受けるとアサラの瞳は揺らぎ、申し訳なさそうな表情で兵長に問う。
「…良いんですか?これは俺が仕出かしたせいなのに…」
「ふっ。人々を守ろうとしたんだ。それを責めるのは兵長に非ず。だから、戦って勝ってこい!」
「……はい!」
兵長にバンッと背中を叩かれて、少し申し訳なさそうな顔をしてから、前を向いたような顔でアサラは返事をした。
「…じゃあ、孤児院に動かす人員を考えるか」
「あ、出来れば二人にして下さい」
「分かっている。決闘当日、奴等が何をするか分からんからな。三人に増やそう」
「助かります」
アサラは深々と頭を下げる。兵長は大袈裟に笑ってアサラの肩に手を置いた。
「良いんだよ。いざっという時は上司に頼れ!」
「ありがとうございます」
頭を下げたままお礼を述べられ、兵長は嬉しいそうに頷き、思考を仕事の割り振りへと切り替える。
「さて、誰にやって貰おうか…」
「はいはいはーい!!俺やりますよ!!」
そう思案した瞬間に書類仕事をしていた兵士が勢いよく手を伸ばし、動きと声で自己主張していた。
「キノン…この日、お前休みだろ?本当に良いのか?」
「構いませんよ!子ども達を守る為ですから!」
その兵士はニヤリと笑った。
それから二週間の時が経ち決闘当日を迎える。決闘裁判が行われる数は少く、裁判所に併設されている闘技場一つで事足りる。その闘技場には大勢の人が集まっている。
それはマリアの人望によるものだ。多くの者達はマリアに恩義を感じており、応援をする為に観覧席へと着いている。グラウスの応援をする人等も居るが、マリアに比べて明らかに数が少ない。
グラウスは闘技場の入場口からそれを見て内心興奮をしていた。
(フフフ…。これほどの人の前でシスターを自分の物にする瞬間を見られる。これは堪らない…。だが、この街での商売は難しいだろう。かなり早いがあの店は手放して良いだろう。売れない店を売るのも商売を続けるコツだ。それに店の維持費と言って、元店主の娘を囲い続けられる。二人同時も良いだろう。いや、複数の娘に囲われるのも良い)
黒い欲望を滾らせながら笑うグラウスは隣に居るガンツを見る。
「お前なら大丈夫だと思うが、油断するな。ま、万が一も考えてる。安心して兵士の仕事が出来ない程のトラウマを教えてやれ」
「うっす!」
ガンツは開いた左手を右手拳で殴って音を出して気合を入れる。
(出来るだけ勝ってくれよ。万が一も無いように準備をしているから問題ないが…)
チラリと奥からやって来たナナメへと話し掛ける。
「で、買収したか」
「はい。流石に裁判官は一緒に来た派遣の騎士達に囲まれて無理でしたが、口上役には金を積ませました。それに内通者も持ち場につきました。直に連れて来るでしょう」
「そうか。それは上々」
グラウスは順調に事が進んでいるのを喜んでいると、闘技場から大声が聞こえ、通路側まで響く。
「それではグラウス・マウンテンとシスターマリアとの決闘裁判が始まります!!皆、静粛にするように!!」
タイミングを測ったみたいに職員の男性が背後から現れる。
「それでは先ず、グラウス様をご案内させて頂きます。代理人の方は名乗りがありますので、そこで登場して下さい」
二人は無言で頷く。ナナメは職員が来た事で踵を返した。
「では二人とも、健闘を祈ってますよ~」
そう言って彼はその場から消えた。
「それではグラウス・マウンテン様!ご入場して下さい!」
グラウスは職員の後ろに付いて闘技場へと足を踏み入れると観覧席からの敵意の視線に晒される。
(敵意が凄い。…フフッ……グフフッ♪…こいつ等の目の前でシスターをものにするのは楽しみだ~♪)
グラウスは商人用の穏やかな笑みを浮かべながら、フィールドの上へと登る。
「では、次にシスターマリア様!ご入場して下さい!」
登場口から現れたマリアは修道服ではなく、女性的で落ち着いた服装をしていた。思ってもみない服装に全員が驚き、グラウスは顔を青白くさせる。
(まさか気付いたのか!い、いや、大丈夫だ…。落ち着け。問題無い。作戦に乗るような阿呆には絶対この結論には至らない筈だ……。問題ない。問題ない)
グラウスは余裕の笑みを崩さず、隣にやって来るシスターに小声で話し掛ける。
「(見ない服装ですな。どうされたので?)」
「(裁判をするのに神前の服装を着れなかったので、数少ない私服を引っ張り出しただけですよ)」
グラウスは一様納得をした。もし気付いていたとしても問題はない。何があっても…。
「それでは次に代理人の方、グラウス様の代理人の方、どうぞ!」
そう呼ばれてガンツが出て来て、グラウスの隣に立つ。
(そうだ。コイツが居る限り、策がある限り大丈夫だ)
自分を安心させる言葉を心の中で囁く度に不安になる。何か予想外な事が起きてるような不可解な感覚。
「それではシスターマリア様の代理人の方、どうぞ!」
呼ばれて登場口から出て来た人物にグラウスは目を剥いた。




