プロローグ1
新入生を迎えて暫く、桜の花が散り、青々とした葉が揺れる中、通い慣れた通学路を欠伸をしながら歩いていると背中に痛みと衝撃が走る。
「いったぁ!!」
「おはよう!明人!!」
俺は振り向きながらの背中をぶっ叩いた犯人を見た。そいつは黒髪を腰まで伸ばし、身体の形状が滑らかだが、女性らしい膨らみが充分見て取れる綺麗なスタイルで、顔は端正で可愛らしい美少女、俺の幼馴染みである長嶋飛鳥。駆け寄って来たからか、少しおでこに汗を帯びている。
「朝から背中を叩くなよ!スッゲェ痛かったんだけど!」
「ほら、眠そうな顔してたから起こして上げようと思って!」
「全く…」
俺は呆れながら、彼女の持っている竹刀袋に目を向けた。
「今日、祖父様の所に行くのか?」
「うん。今日はうちの奥義を授けるとか何とか…。そんな厨ニっぽい事を言ってたよ」
「奥義…」
奥義と云う言葉は無意識で男心をくすぐるものがあるな…。
「明人…。もしかして奥義に心惹かれてる?」
飛鳥が俺を白い目で見ながらそう問い掛ける。
「い、いや!少しだけ気になるけど!別に対して興味が有る訳じゃないから!」
「ふ〜ん…。まぁ、良いか。明人も一緒に行くのは決定事項だし」
「え…?どういう事?」
「ん〜とね、お祖父ちゃんが久々に明人に会いたいって。もし来なくても強制連行するって」
「……マジか」
飛鳥の祖父様は剣術道場の師範で、名を長嶋一雄。剣術である事に誇りを持ち、剣道だろと言うとガチギレする。「競技の剣と人斬りの剣を一緒にするな!!」と。確かに祖父様が教える剣術は純粋な剣だけでなく体術も扱う。「身体を上手く扱う事は相手の動きをより阻害させる事にも繋がる」とか良く言ってる。俺も昔は通ってたが、余りにも厳しかった為、直ぐに辞めた。それでも時々祖父様に呼ばれる。一度だけ無視した事があるんだが…。本当に酷い目に会い、それから祖父様のお呼ばれがあると必ず行くようになった。
「ほんと…これがあるから部活に入れないのよ…」
「…ごめんね。うちのお祖父ちゃんが…」
俺がしんどそうに呟くと飛鳥は申し訳無さそうに顔を伏せる。俺は少し頬を掻いて、立ち止まって飛鳥の肩を叩き、彼女も立ち止まって振り返り、俺の顔を覗くように顔を上げる。
「飛鳥が謝る事じゃない。だから気にするなよ」
「でも…」
「飛鳥が悪い訳じゃないんだし。それに俺も祖父様には強く言えんし」
俺は冗談めかしながらそう言うと飛鳥の表情が柔らかくなり、笑顔を見せる。
「そっか……。ま、明人は昔のトラウマで逆らえないだけだろうけど」
「……はい」
と、返答しながら肩を落とした俺を見た飛鳥は少し抑えながら笑い声を上げた。俺は放課後の予定に気が重くなり、朝っぱらから足取りが重くなった状態でいつも通り飛鳥と一緒に学校へと登校した。
放課後が来ない事を知らずに…。