第十六話
「遅い。何処で道草を食ってるんだ…」
シスター達が出掛けて二時間。既にチビ達は起きて、朝支度も終わって食事も出来ている。チビ達にもシスターが居ない理由を教えているから騒ぎはしてないが、そろそろ我慢の限界を超える。
俺は指を机にトントンと規則的に叩く。買い物をしているだけならとっくに帰ってきてる筈だが…。もしかして何かあったのか?俺は心配になって立ち上がる。
「ちょっとシスターを迎えに行ってくる。ミリィは皆を見ていてくれ」
「分かった」
俺は急いで玄関へと向かい、扉を開けると何故か憔悴しているシスターと砂や砂利に汚れているアサラさんが居た。
「一体何があった!?いや、先ずは先に中に入って下さい!アサラさんは裏庭の井戸で身体を洗って下さい!」
弱った様子のシスターとアサラさんを中に居れ、アサラさんからバスケットを受け取り、アサラさんはそのまま裏庭へ、シスターはこのまま子ども達の前には行かせられず、シスターの部屋へと移動させる。
「シスター、先ずはベッドにお掛け下さい」
「すいません」
シスターは何処か自分を責めるかのように重い息を吐く。俺はバスケットを置いて、シスターの右手を両手で包み込む。
「何があったのか……教えて下さいますか?」
「…ごめんなさい。アキト。ごめんなさい」
シスターは大粒の涙をポロポロと落としながら謝り始める。
「本当に何が…」
「実は…ーー」
俺はシスターから事情を聞き、怒りが込み上がり、シスターの部屋を飛び出して、裏庭へと出て、目的の人物を見付ける。
「アキト…。ありがとう。井戸を使わせて…って何を怒って…」
アサラが全て言い終わる前に顔面をぶん殴った。思わぬ一撃に倒れて、アサラは俺に殴られた事に驚いたのか、目を白黒とさせる。
「あんたが付いて居ながら何でそんな事になるんだ!!アサラ!!!」
俺は怒りのあまり敬称が抜ける。だが、今はそんな事はどうでもいい。シスターを守ると云う事が出来ないボンクラ兵士に敬称は必要ない!!
アサラは俺が何の件で怒ってるのか察したのか、落ち込んだ顔をした後に頭を下げた。
「すまない。俺が付いていながらシスターを守れず、こんな騒動に…」
「…っ!!俺が怒ってるのはそっちじゃねぇ!!」
「えっ…!!」
分かってなかったのかよ!あーーっクソッ!イライラしてる場合じゃねぇ!
「あんたがしでかした事!後でキッチリと教えてやるからさっさと洗え!!」
俺は怒りそのまま孤児院の中へと戻る。こんな調子でチビ達の前へと出れねぇ。俺は怒りを抜くように深呼吸をする。
「アキト…」
俺はその声に驚き振り向くと不安そうに怯えているミリィが居た。
「怒ってるの………聞いてたか?」
ミリィはゆっくりとコクン…と頷く。
「何があったの?アキトが怒るなんて相当な事だよね」
俺は誤魔化しても仕方ないと考えて、ミリィへと近付き、ミリィの頭をポンと叩くと彼女は少しビクッと震えた。怒ってるから殴られると思ったか…。
「後で話す。ご飯を食べてからな。すまないがミリィ、食事をシスターの部屋へと運んでくれ」
「…分かった。絶対だよ」
ミリィはそう言うとタタタッと小走りで廊下を走り、食堂へと向かった。俺はさて、と頬を叩いてシスターの部屋へと戻る。
「再びすいません。失礼します」
「はい。どうぞ」
俺は中へと入り、シスターの様子を見る。時間が経過したからか、全て話したからか分からないが、先程よりも落ち着いている。
「それで…さっきアキトは飛び出したけれど…。何がアキトの中にあったんですか?」
シスターは何時もの優しい声音で聞いてくる。けれど、シスターの前で人を殴ったなんて言えん。でも、嘘も言えない。だから俺がすべきなのは…ーー。
「ミリィがお食事を持ってきますので、ここで待っていて下さい。俺はちょっとバスケットを食料庫に入れてくるんで」
「あ、ちょっと…アキト…!」
俺はバスケットを持って問い詰められる前に部屋を出る。
「ふ〜…。危なかった…。…それにしても自分の事より他人を気にするなんて、弱っててもシスターはシスターだな」
もう少し自分を大切にして欲しいと思いつつ、いつも通りのシスターに安心した。しかし、キチンと対処方法を考えないといけないくらい追い詰められてる。
「どうしたものか…」
〜~~
三人称
時間は少し遡り、裁判所から出て行ったグラウスはくつくつと堪えるように笑い、裁判所から十分に距離が出来ると大声で笑い始めた。
「ここまで簡単に事が運ぶと笑いが止まらないな!」
「流石ですねグラウス様」
脇道からグラウスを称賛しながら猫背の男が出てくる。
「ナナメか。傍から見た奴の実力は」
「問題ないですね。俺でも余裕で倒せる。ガンツなら一方的にボコれます」
「最後、ガンツを跳ね飛ばしたが…」
グラウスは不思議そうに呟くが、猫背の男…ナナメがフッと飄々とした態度で笑う。
「偶々でしょう。それに元々奴に自信を持たせる為、尻餅を着く演技をする予定でした。…俺の見積もりはあってるか?ガンツ」
ナナメに問われ、ガンツはフンッと鼻を鳴らし、バンッと胸を叩く。
「ああ。間違いねぇ。払い除けられたのは演技をしようとした段階で油断をしていたからに過ぎねぇ。油断さえしなければ永遠に抑えこんだ」
「で、あるそうです」
ナナメがガンツの胸を裏拳で軽く殴り、ニタリとした笑みでグラウスに心配する要素はないと伝える。グラウスは鷹揚に頷く。
「そうか。だが、万が一負けた場合でも、裁判に勝つ方法があるからな。気を負わずにな。なんなら殺しても良い」
その言葉にガンツは一層気合が入り、犬歯を剥き出しにする。
「もう少しの辛抱だ…。もう少しであの女は俺の物になる」
確信したグラウスは想像の中でシスターの服を剥ぎ取り、露わになる裸体を空に描いた。




