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適性無しの転生者  作者: 福王聖二
第一章
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第十五話

三人称視点


「え…」


シスターは思わぬ一言に言葉を失う。そして次の瞬間、血の気が引いた独特な寒さと気持ち悪さに襲われる。


「ち、違…」


咄嗟に否定しようとするがグラウスを突き飛ばしたのは事実。しかし、倒すつもりは無かったが、言い訳にしかならないと頭の中で理解して、何も言えなくなる。


「何が突き飛ばされただ!そもそもお前がやってたのは婦女暴行!罪に問われるのはお前だ!それに俺にしてる事は暴行罪だ!」


巨漢の男に抑えつけられてるアサラはキッとグラウスを睨み、怒号を上げる。グラウスは立ち上がり、ズボンに付いた汚れを払い、アサラを見下して言葉を発する。


「何を言う。彼女の蛮行は彼等が見てたろう」


まるでグラウスのその言葉を待っていたかのように突如として、野次を飛ばすようにシスターを罵倒し始めた。


「そうだ!あんたがグラウスさんを突き飛ばしたんだろう!」

「その上、アサラ!あんたがグラウスを足蹴にしようとしたからガンツさんが止めに入ったんだ!」

「とんだ聖職者ね!人を突き飛ばすなんて!」

「それを庇う兵士も兵士ね!」


各々がシスターやアサラを罵倒し、シスターの中でドンドンと否定したい気持ちと罪悪感が溢れてくる。アサラも何も出来ず、動く事も出来ない悔しさに身体中の血管が浮き出す。


(クソッ!!折角アキトにシスターを託されたのに何だこのざまは!!やられっぱなしで良いのかよ!!)


アサラは全身に力を入れて、思いっ切り踏ん張る。


「うおおおおーーーー!!!!」

「無駄だ。お前では俺を押し返せん」


そんな言葉はアサラの耳には入ってこない。シスターを助けようとし、血管や筋肉が引き千切れても良いと云う覚悟、その想いに応えたかのように彼の全身から金色のオーラが溢れ出て、巨漢の男…ガンツの身体を押し返し始める。


「な、何!」


そして遂には立ち上がり、ガンツの大きな巨体を弾き飛ばした。


「グッ…」

「オラァ!どんなもんだ!」


アサラのその姿に罵倒していた者達は一瞬罵倒するのを止めたが、直ぐに正気へと戻り再び罵倒しようとするが、グラウスが手で制する。


「今回の事、裁判にしましょう。裁判方法は確か身分が低い者が決める。特別に、シスター…貴方に選んで頂きます。決闘裁判か見聞裁判か」


裁判にはグラウスが言った二つの裁判がある。

先ずは決闘裁判。決闘裁判はその名の通り、決闘で勝負をつけて勝った方が正しいと云う事になるが、あまりこの決闘裁判は行われない。

最も行われるのが次の裁判、見聞裁判。見聞裁判は第三者の証言や、書類等の記録、実際の事件を再現したのを見る実況見分を行ってから開廷される公平率が高い裁判。しかし、貴族や商人である場合、第三者や裁判官を買収する等の問題がある。現在では裁判官を買収出来ないよう、裁判官は違う地域、かつ清廉潔白の者達が採用される。


グラウスはニタニタと嫌な笑みを浮かべながら懐の中から二つの羊皮紙を取り出す。一つは決闘裁判の申込書、もう一枚は見聞裁判の申込書。


「さて、どちらが良いですか?」


シスターはグラウスにそう問われて、頭の中に色んな考えが巡る。


(裁判なら見聞裁判?いえ、けれど、彼等が証言すれば負けてしまう。でも、決闘裁判なんて頼める人も居ない。私も力が弱いし、子ども達にこんな危険な事をさせられない。でも、裁判をして勝たないと皆の居場所が、皆の幸せが…。何より皆の成長が見られなくなる。そんなの嫌!嫌…だけど…どうすれば…)

「俺が決闘をする!!」


追い詰められ、目尻に涙を浮かべた時、アサラがシスターの隣に立ち、グラウスへとそう宣言した。


「ほう…。代理人ですか…」

「そうだ!俺がシスターの代わりに決闘をする!」

「なるほど。では、決闘裁判でよろしいかな?」


シスターはグラウスに問われ、チラリと隣のアサラを見て、その真剣で迫真に迫る顔を見て、覚悟を決めた。


「はい。決闘裁判でお願いします」

「そうですか。では、早速裁判所で手続きをしましょう」


グラウスが踵を返し、裁判所の方へと歩き始め、アサラとシスターが続き、ガンツはそのまま見張るように二人の後を歩き、それ以外の者達はその場で解散となった。


裁判所に着くとグラウスはその足で裁判申込み受付の前に立つ。


「裁判の手続きですね。用紙をお見せ下さい」


グラウスは受付の女性に言われたまま決闘裁判に関する羊皮紙を渡す。


「決闘裁判ですね。既にご記入されている御名前は貴方様のもので間違いないでしょうか?」

「ああ。間違いない」

「それでもう一人の方は…」


受付の女性にそう言われて、シスターはグラウスの隣に立つ。


「私です」

「シスター…」


受付の女性は驚いて硬直したが、ハッと仕事モードへと切り替え、「すいません」と謝ると羽根ペンをシスターへと差し出す。


「こちらのペンで御名前を記入して下さい。もし、文字を書けないのであれば代筆しますがよろしいでしょうか?」

「大丈夫です。履修しておりますので」


シスターは羽根ペンを持ち、グラウスの隣にある名前記入欄に自身の名前を書いた。


「それでは確認します。原告はグラウス・マウンテン様、被告はマリア様でよろしいですね?」

「ああ」「はい」

「それでは次に、決闘は代理人を立てますか?」

「そうだ」「はい」

「分かりました。代理人については裁判開廷当日に説明がありますので、裁判開廷時には代理人も御一緒で出廷していただきます。決して時間には遅れないようご注意して下さい」

「分かった」「分かりました」

「それでは…」


受付の女性は羊皮紙を二人に見やすいように置き、一本ずつ二人に針を渡す。


「血判を御自身の名前の前に」


グラウスは自分の欲望の為に、シスターは子ども達との幸せを得る為に自らの血を羊皮紙へと染み付けた。


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