第十一話
俺達が近付いて行くと気配に気付いたのか、マリオ達の前に立っている男性三人が駆け寄る俺達を見る。真ん中に立っている男性は小太りで装飾品を付けており、一瞬貴族かと思ったがその割に服のクオリティと見合わない。けれど庶民の物と比べれば上等…商人だろう。なれば両脇に居るのは従業員か護衛だろう。左側に居るのが細マッチョの猫背の男性で、反対側に居るのが目測だが二メートル超えの太っているマッチョな男。多分だが、相撲取りみたいな筋肉が敷き詰められた肉体。その図体からは相当な威圧感を放っており、マリオが怯えてるのが分かる。
俺はマリオを背に隠しながらシェフィにバスケットを渡し、彼等を見据える。
「いきなり失礼します。私達は孤児院の関係者で、現在の詳しい事情を教えて下さいますか」
俺は他人行儀の笑顔を浮かべて話し掛ける。すると真ん中の男は真顔から笑顔に変わり、手を差し伸べる。
「どうも。私は最近服飾エリアに店舗を置きました新参者の商人、グラウス・マウンテンと言いマウンテン商会の会長をさせて頂いております」
彼は笑顔のまま此方を睨めつけるような目をしながら挨拶をする。俺はその手を掴んで握手する。
「ご丁寧にありがとうございます。私はアキトと申します。それで、その会長様がこの孤児院に何の御用で」
俺がそう言うと後ろに隠していたマリオが出て来て、枝をグラウスへと突きつける。
「こいつらがシスターをむりやりつれていこうとしたんだ!」
グラウスは俺から手を離し、ポケットから包みを取り出して、その包みの中から一個の飴を掴み、膝を曲げてマリオと同じ視点まで下げる。
「なにか勘違いをしているようだ。私はただ子ども達の為に私の商会で働かないかと聞いただけなんだよ」
飴玉を上げようとマリオの手を掴もうとするがそれをシェフィが止めるみたいにグラウスの手首を掴む。
「すいません。うちでは喧嘩をしないように単体での寄付は禁止しているのでお止め下さい」
シェフィもマリオと同じくグラウスを警戒して感じを隠さない。グラウスは傍目で見れば良い人だが、子どもは直感が鋭いという。彼の胡散臭さをなんとなくだが気付いてる。
「そうか。それは知らなかったよ。今度は皆が食べられる量を持ってこよう」
グラウスは立ち上がりポケットの中へ飴を包みに入れず、そのまま中に入れる。…なるほど。良い人ではなさそうだ。良い人なら包み直すだろうが、直接飴をポケットに入れるのは相当イライラしているに違いない。この人をこれ以上孤児院の前に置いておきたくないから口を開く。
「取り敢えず今日はお引取り下さい」
俺はニコッとしながら暗に「とっとと出て行け」と伝える。
「そうですね。また来させて頂きましょう。それでは、また」
グラウスは表面上ニコニコしながらこの場から去って行ってくれた。俺は思わずふーっと緊張から解かれた事により長く息を吐いた。
「なんなんだアイツは。嫌な雰囲気プンプンだったな」
それにしても服飾エリアで新しい店舗が出来るなんて噂でも聞いてない。服飾は確かに滅多に行かないが噂レベルなら耳に入るのだが…。妙な感覚だ。人に対してこんな事を思ったのは始めてだ。あっ、そうだ!褒めてやらないといけないのが二人居た!
俺は振り向いて腰を落とし、ヤンキー座りとなってマリオとシェフィ、二人の頭を撫でる。
「二人共!偉いぞ!マリオは怯えもせずに立ち向かって!シェフィは弟を守って!本当に偉いぞ!」
よしよしと頭を撫でると二人は嬉しそうに照れている。俺は立ち上がり、シスターへと視線を向ける。
「詳しい事、教えて下さいますよね」
「はい。ですが、先ず中に入りましょう。話はそれからです」
シスターに促され、俺達は礼拝堂から入って孤児院へと戻る。これから厄介な目に合わなければ良いが…。明日になったら彼等が営む商店へと行ってみるか。
〜〜〜
三人称視点
孤児院から去った三人は少しイライラしている様子で石畳を踏む。
「あの小僧…絶対に許さないぞ」
グラウスは先程まで態度良く接していた者とは思えないほどの険しい顔を浮かべ、忌々しげに呟いた。巨漢の方の男が大きく頷き、右手の拳で開いた左手の掌を殴るように叩く。
「あのチビ!グラウス様に枝なんていう汚い物で指しやがって…。許せねぇ!」
「いや、そっちじゃない。まぁ、許せないのは同じだが…」
グラウスはガリッと爪を噛む。
(クソっ。あの小僧。笑顔の奥で此方を品定めしやがって…!何より態度にも言葉にも出してなかったが俺には分かる!言葉の奥にある私への侮辱!それにアイツが帰って来なければ良い感じに此方が有利に進められただろうに…!)
グラウスが爪を噛んでいると猫背の男がスパンッと巨漢の男を叩く。
「バカかテメェ!!グラウス様が仰られてるのは途中で割り込んだデカいガキだ!!」
猫背の男に言われて男は得心がいったと合点ポーズでポンと手を打った。
「確かにありゃ良い顔でムカついたなぁ…。グチャグチャにしてやりてぇなぁ」
「おいおいやり過ぎるなよ。前にイケメンだからといってムチャクチャにボコした件、グラウス様が揉み消すの大変だったんだぞ」
「分かってるよ。俺もそこまでバカじゃねぇ。正当性がない時とか隠蔽しやすい時にしか殴らねぇよ」
グラウスはフンッと鼻を鳴らす。
「分かってれば良い。やるならバレずに、徹底的に、証拠を残さずやれ。……それにしても…」
グラウスはそう言葉を途切らせると表情を下卑た笑みへと変える。
「シスターだけではなく、あんな綺麗にしているガキが居るとはな。小さい頃から上下関係を教えてやれば良い女になりそうだ」
「相当良い顔のお父さんお母さんから生まれたんだろうなぁ。ああ!無理矢理抑えつけられて身体をグチャグチャに弄って、泣き顔と絶望で顔をメチャクチャにしてやりてぇなぁ…」
「本当物好きだよ。お前も、グラウス様も」
猫背の男は突如思い出したのか「そう言えば…」と小声で発して、グラウスを見る。
「今、店舗になってる元店主の娘はどうしたんで?」
グラウスはそう問われて口角を限界まで吊り上げて、被虐的でイヤらしい笑みを浮かべる。
「アイツは顔付きは地味だが、中々可愛くてな、暇を潰すには丁度良い美味な女だぁ…。アレはぁ…」
しかし、そう言った直後のグラウスの顔は物寂しそうな表情をし、空を見上げる。
「だが、あのシスターの方が……美味だろうなぁ」
そう……呟いた。




