第八話
痛ましい事件から五年。俺は11歳となり、孤児院の中では最年長となった。
俺は脱衣所にある衣類が入った深めの籠を持ち、孤児院の庭へと運ぶ。そこには既に女の子が一人洗濯物を洗っていた。その女の子は俺へと気付き、ニコッと笑う。
「アキト。洗濯物運んでくれてありがとう」
「ああ」
孤児院の庭で大きい洗濯桶に足を突っ込んで衣類を踏んで泡立てている女の子が俺と同い年の女の子、ミリィだ。俺達が孤児院に預けられた一年後に来た子だ。暫くはビクビクと怯えていたが、徐々に心開いていき、今では立派な皆のお姉さんだ。
「それで全部なの?」
「一様な」
「じゃあ脱水を手伝ってよ。あ、予定があるなら良いけど」
「掃除はチビ達とシスターがやってるから大丈夫」
「あの子達がやると散らかりそうだけど…シスターが居るなら大丈夫ね。じゃあ足を洗ってから脱水してね」
「分かった」
俺はズボンの裾を上げて靴を脱いで、普通の桶を持って井戸から水を汲んで、運んで足を水で洗ってから洗濯済みの衣類を空になっている大きい洗濯桶に入れて、踏んで脱水させる。手で絞っても良いが皺になってしまう為、踏む事で皺になり難い。それでも足で踏む為、皺になってしまう事も多いが…。体重が載る分、水が良く抜ける。水が抜けた衣類は湿気てない洗濯籠に入れる。
「やっぱりアキトがやると早いわ。あの子達だと直ぐに巫山戯るし、ビショビショになっちゃうから」
ミリィはアハハと苦笑いする。俺も笑顔になりながら返事をする。
「まぁ、遊び盛りだし仕方ないでしょ」
俺がそう言うとミリィは突如足を動かすのを止めて、真剣な顔で俺を見る。
「どうしたミリィ?足が疲れたか?」
「違うよ。毎日やってるから大丈夫。そうじゃなくて…。アキトはどうなの?」
「どう…って何が?」
「私は小さい頃からアキトを知ってる。だからこそ思うの。アキトは…自由に遊びたいと思わないの?」
「結構自由に遊んでるぞ。シェフィとケイト、それに小さい頃のミリィとおままごとしたり、マリオ達と鬼ごっことか隠れんぼとかしたり…」
「そうじゃなくて!!」
ミリィは俺の言葉に食い気味に否定し、俺はミリィの勢いに驚いて押し黙ってしまう。ミリィは少し間を開けて再び喋りだす。
「そうじゃなくて……。私達に構わず、自由に好きな事をしたくないのかな?…って。アキトは何時だって私達を優先してくれる。それにはいつも感謝してる。だけど、アキトだけが不自由なんて……私達に縛られるなんて不公平だよ。そんなの家族じゃないよ!だから私を頼って欲しいの!まだ他の子達にはまだ遊んでいて欲しいし!お兄ちゃんにも自由に!」
「久々にお兄ちゃんって言ってくれたな」
ミリィは俺にそう言われて顔を真っ赤にして口を抑える。1〜2年前までは普通にお兄ちゃんと呼んでくれてたから、きっと彼女の中で心境の変化があったのだろう。今は恥ずかしがって言ってくれなかったが、感情が高ぶるとお兄ちゃんと言ってくれた。それはつまり俺を兄としてまだ認めてくれてるからだろう。
「俺はそれだけで嬉しいんだよ」
「…アキト…お兄ちゃん…」
ミリィは恥ずかしそうに、困ったように、それで本当に良いのかと思っているような不安が入り混じった顔をする。
「俺はこれが幸せなんだ。それに俺だって近々ここを旅立つ。度々来るだろうが…会えなくなるだろう。それを今、噛み締めて、全力で楽しむ。いつかの別れに未練が無いように」
「そっ…か…」
ミリィは寂しそうに笑い、パンッと自分の頬を叩いて、いつもの快活な笑顔へと戻る。
「それじゃあ盛大にコキ使わせて貰うね!未練がないように、ね」
「ああ。それで良いよ」
脱水を終えると俺は庭から追い出されるように孤児院の中へと入れられた。ミリィも女の子だからか、同世代の男の子に下着等を見られるのが嫌になったらしい。もうそんな時期かと思い、飛鳥はどうだったかと頭の中で時を巡らし、思い出す。
「そうだ、そうだ。五年生位から一緒に風呂に入らなくなったんだ」
どっちかが嫌と言う訳ではなく、自然にお互いを意識して入らなくなったな。五年生と云うなら10〜11歳だ。ミリィが嫌がるようになっても仕方ない。
「しかし、掃除はチビ達とシスターがやってくれてるし、洗濯も終わった。…シスターに言って俺が昼飯を作るか」
俺は孤児院の中でシスターを探すと礼拝堂辺りから元気な声が聞こえる。扉を開けて様子を見るとマリオと、マリオより二つ年上のキットが騎士ごっこだろうか、箒を剣に見立ててチャンバラごっこをしている。それをシェフィは顔を真っ赤にして睨みつけている。シスターは女神像を拭きながらその様子を慈愛に満ちた瞳で見ており、その傍でシスターと一緒に女神像を拭く幼女のケイト。そんなケイトを見ながら椅子を拭いているキットが居た。
「コラ!マリオ!エルト!遊んでないでキチンと掃除して!」
「だっておそうじしてるとムズムズするんだもん!」
「そうだ!そうだ!」
「だもんじゃない!そんな所見たらアキトお兄ちゃんに嫌われるよ!」
「いまいないからいいも〜ん」
マリオのその態度にカチンときたのか遠目でも分かるほどシェフィの額に血管が浮かび上がる。
「良い加減にしないとお尻ペンペンだからね!!」
「えっ!それはやだ!」
マリオは顔を真っ青に染めて首をブンブンと振る。どんだけ嫌なんだシェフィのお尻ペンペン。ニ月前位に突如シェフィが「お兄ちゃん達は甘過ぎる!」って言ってから男三人に厳しくなった。そういえばお尻ペンペンの被害者はマリオが最初だったな。マリオが真っ青になる程に痛いとかどんだけだよ。
「ならやる!」
「はい!」
シェフィにそう言われたマリオは敬礼!と、勢いよく返事をしたのを確認すると今度はバッとエルトを見る。
「エルトも!ミリィお姉ちゃんにバラすから!」
「そ、それだけは止めて!」
エルトは縋るかのように嫌がる。エルトはミリィの事が大好きで、俺とミリィが一緒に居るのが嫌らしい。所謂嫉妬心だ。恋心かお姉ちゃんを取られたくないから分からないけれど。
「ならちゃんとやれ!」
「はい!」
シェフィにビシッと指差しされるとマリオと同じく敬礼!といった勢いで返事をする。
「…」
中に入れない。どうしたものかと思っているとシスターと目が合い、ニコリと笑って「分かってます。お願いします」と口パクで伝えられ、俺はOKマークを見せるとシスターは頭を下げる。
扉をゆっくりと閉めた俺はキッチンへと向かいながら在庫は何があり、どんな昼食にしようかと考えてながら廊下を歩いた。




