第五十一話
飛鳥視点
襲撃があった次の日には玲子やサエタルさんから被害者数と対策が述べられた。被害者数は第三と第六と第七が半数弱、第九は四割、第八に至っては団長と副団長以外全滅していた。対策の方だが、勇者は其々の村へと分散させて、強い魔物に備える事となった。
それで私と明人は二人だけで第一に残る事となり、玲子達六人は近くの第七の村に、葵ちゃん達のチームは第六、青山君とか津川さんとかのチームが第八に、第九には木下君のチームが向かう事となる。第八は第九と一部の第一の騎士が亡くなった団員の代わりに村へ、近場の第三には女性部隊と此方も一部の第一の騎士が派遣される。
しかし、一月、二月経っても追撃が無かった。騎士の補充の為に更に二月と待つ事となるけど、その間も襲撃は無く、この四ヶ月間はいつまた攻撃されるのかと全員が身構えていた為、全員のフラストレーションが溜まり、全体の空気がかなりピリピリとしている。良いことがあるとしたら、四ヶ月の間にかなりの村が解放されてる事が斥候役のお蔭で判明した。人材や十二分の食料品と道具が大陸に渡っていて、わざわざ私達が滞在する必要はなくなり、私達は次々に村を転々と移動し、魔王城が遠くではあるが良く見える位置にある村へと辿り着いた。
「あれが魔王城…。いよいよ明日、魔王と戦うんだ」
私は小高い丘で禍々しい黒い城。魔王城の上には常に雷雲が覆い被さっており、時々城へと雷が落ちるけど無傷。相当堅固な物で造られてる。破壊しての侵入は難しそう。
「でも、その前に……魔物の大群と戦わないといけない」
眼下に広がるのは倒壊した村々と瘴気に侵食されて紫色に染まっている地面と木々、その場所を圧倒的な数の様々な魔物達が埋め尽くす。あの魔物達は騎士達が調査した所、あの瘴気に侵された大地から離れない代わりに従来の魔物より大体三倍程の威力の魔法と物理攻撃を放つ。魔物一体一体が若手騎士一人分だと云う。
「最終決戦…になるんだな」
明日の戦いを終えれば元の世界へと戻れるんだ。でも、相手も自分達の陣地まで引き込むのだから、かなりの用意をしている筈。戦っていないのに心臓が既にバクバクと心音が早く鼓動する。負けられないと云う意識で緊張感がかなり高まっている。
「…死にたくない」
私は思わずキュッと両手で心臓を抑えるように左胸を押し付ける。
「…何で私がこんな危険な目に?何で私達が戦わなければいけないの…?………明人と平和に暮らしいだけなのに…。戦いたくない。死にたくない。逃げたい」
……………。
「はぁ…これ位で良いか…」
弱音を吐けないって辛いな。明人達に心配掛けたくないし、騎士達の前でこんな事を言える訳ないし。こういう一人の時ぐらいなら良いでしょ。…うん、良いよね。溜め込むより。
「…戻ろう」
クルッと踵を返すと目の前に恵那が居た。
「うわっ!え、恵那…?いつの間に…。居たんなら声掛けてくれても良かったのに…」
さっきの聞こえてないよね…?と希望を持つには距離が近い。私は違う緊張で心臓がざわつく。
「…飛鳥…」
そう呼ばれて心臓が跳ねるが平静を何とか保とうと意識する。
「な、何かな?」
「戦う…の………辛、い…?」
「っ!?」
や、やっぱり聞かれてた…!どうしよう!どう誤魔化せば…!
「…私…で、良ければ……甘え…て、良いよ」
「え…。えっ!」
恵那がこういう事を言うなんて!私、そんなに追い詰められてるように見えた!?
「あっ、大丈夫!ちょっと吐き出したかっただけだから!」
「そう…」
何でちょっとしょんぼりしてるの…!?〜~~!!もうっ!!
「ふぅ…分かった。少し甘えさせて」
「うん♪」
恵那は嬉しいそうに頷くと私の頭を胸元へと運んでギュッて抱き締める。
「っ!!!?」
え、恵那!幾ら同性同士とはいえ大胆過ぎない!と、恵那の思わぬ行動に驚いていると、恵那は更に私の髪を撫で始める。
「…飛鳥は…頑張ってる。…明人の……為に。だから……ね。私…とか……玲子……に、話して……。し……親友……だから…」
恵那は親友の部分を照れながらも言ってくれた。恵那は何度も私の心を落ち着かせるように髪を撫でる。恵那から太陽を浴びたタオルとかお母さんみたいな柔らかな匂いに私は恵那へと身体を委ねていた。
「もう良いよ。ありがとう、恵那」
時間も程々に私はそう言って恵那から離れる。
「良かった。…じゃあ…一緒に、戻ろう?」
「いや、まだ残るよ。冷静になると恥ずかしくて……。ちょっと今は恵那の顔を見れそうにない…」
「そ、そう…」
「でも……恵那のお蔭で落ち着いた。本当にありがとう。恵那も辛くなった抱き締めて上げるね」
恵那はボフッと顔を真っ赤にして「大…丈夫…」と言いながら両手を振って全力で拒否した。
「じゃあ…私、先に……戻る、ね」
「うん」
恵那はタタタッと小走りで駐屯地へと戻って行った。
「…ふふっ。…やっぱり戦うのは辛いけど、この世界に来て良かったな。最高の親友が二人も出来た」
大切な親友との出会いをくれたこの世界の為にも頑張ろう。私は親友から貰った元気と幸せに身を浸し、今日を終えた。
そして…決戦の日を告げる太陽が登った。




