第四十九話
飛鳥視点
「それじゃあ、俺は報告しに行くから先に自分の部屋で休んでいてくれ」
「分かった。ありがとう」
私は明人と別れるが屋敷には向かわず、少し影っている森の浅い場所へと移動した。
「…もう…限界…」
私はしゃがんでから思いっ切り朝食と胃液を木の根っ子にぶち撒けた。
「…口の中から食道全部が気持ち悪い」
流石に好きな人の前で二回目って訳にはいかないし。…それにしても頭がグラグラする。それも相まってより気持ち悪い。口の中不味い。うがいしたい…。
「水を貰ってくれば良かった…」
「どーぞ。飛鳥」
上から聞き慣れた女性の声が聞こえ、フッと顔を向ける。そこにはコップを持った葵ちゃんが居た。
「ほら、飛鳥。お水…」
「ありがとう。葵ちゃん」
私は葵ちゃんからお水を受け取り、口に含んで口内全てを洗うようにして、吐き出す。コップの中の全ての水を使ってうがいをすると、葵ちゃんが空のコップを受け取って、もう一つと渡してくる。
「吐いた後って喉乾くでしょ?もう一杯どうぞ」
「うん。ありがとう」
葵ちゃんの手からコップを受け取ってゴクゴクと飲み干した。
「プハーッ…」
「スッキリした?」
「うん。お蔭様で…」
私は立ち上がり、土を蹴って胃の内容物を隠す。
「…それで、葵ちゃんは何で此処に?」
「ん?だってあんなに青ざめてる飛鳥は放っておけないでしょ?それに…」
「それに?」
「飛鳥は見てきたんでしょ。人が……死んでるのを…」
「……うん」
「……ちょっと森の中を歩かない?勿論奥には行かないけど」
「良いよ」
私達は森の中を散歩し始める。今日は天気が良い。気持ちの良い風が吹くし、温かい。いつもならあまりの気持ち良さに眠くなるけど、今はそんな気分にはなれない。
「飛鳥。ごめんね」
「えっ?…え〜と、何が?」
私は葵ちゃんに謝られるような事されたっけ?
「うんとね。私、いや…私達か。ずっとテンションが可怪しかった。何でか分からないけど、テンションが高くて。なんとかなると甘い考えをしてた。そのせいで一番の親友を遠ざけてしまった」
「葵ちゃん…」
自虐気味に笑う葵ちゃん。私はどう反応して上げれば良いか分からない。気にしてないと言っても葵ちゃんは気にする。何が…正解なんだろう。玲子ならズバッと言っちゃうのかな。
「…飛鳥が悩まなくて良いよ。私が能天気でバカなだけだから」
「………」
「そんな暗くならないでよ。スマイル、だよ……って人が死んでるのを見て笑えないよね。……そうだよね。この世界は簡単に人が傷付き、死んじゃうんだよね。何で理解してなかったんだろ。……海での戦いとか、四天王。そして、今日の事で完全に目が覚めたよ。私達は命を奪い、奪われる。戦争をしてるんだよね。……この村に駆け込んで来た騎士の人は右手首を失い、背中が斬り刻まれ、足の腱が斬られた状態で、皆の為に命からがら村へと目指し、辿り着いた。凄いよね」
そこで葵ちゃんは顔を伏せる。
「…実はさっき、その騎士の人が起きんだ。起き抜けにその人……何て言ったと思う。…「俺の仲間を助けて下さい」って。自分の事より先に仲間の事を気にするなんて……凄いよね…。私なんて自分の命が失うなんて考えて無かったし、ましてや他人の命なんて気にして無かった」
葵ちゃんが顔を伏せたり、俯いたりするのを見るのは初めてだ。きっとこの事を深く考え、落ち込み、気にしている。
「私、これからちゃんと考える。自分の剣には他人の命が関わる事を。だから……飛鳥、私が親友でいても……良いよね」
声が震えて、くぐもっている……涙声。風に吹かれて涙が流れ落ちる。不安そうに私を見る葵ちゃんは幼い女の子に見えた。そう思ったら私は自然と彼女を抱き締めていた。
「勿論。葵ちゃんは私の大事な親友だよ」
葵ちゃんは私を受け入れて、そのまま暫く抱き締めたままとなり、彼女が「もう良いよ」と言ってから離れる。
「…何か…思い出したよ。私と飛鳥が出会った日の事」
「確かに。でも、抱き締められる側は私だった筈だよ」
「ううん、変わってないよ。飛鳥は最初も、今も……私を受け入れてくれたんだよ」
「…?」
私は葵ちゃんが何を言ってるのかさっぱり分からず首を傾げた。
「じゃ、戻ろう♪」
葵ちゃんは私に手を差出し、私はその手を取って屋敷へと戻った。




