第七話
俺達は村の中央に向かっている最中、森から火の手が上がるのを見て、世界の終わりかのような景色に母の手綱を握る力が強くなる。
村の中央に着くと荷運び用の馬車が既に一つ走らせており、指示をしていた男性が此方に気付く。
「ナキア!それにアキトとシェフィにマリオ!全員無事だったか!」
「ええ。アカシさんもご無事で」
「ああ。…と、悪いな今馬車が出払ったばっかだ。次の馬車に子ども達を乗せてくれ。埋まったら直ぐに出るから」
そう言った瞬間、馬車に繋がれていた馬の一体が一本の矢に倒れる。アカシさんは絶句しながらも、矢が飛んで来た方向を見て顔を青白く染める。
「ま、魔物だ!何でこんな所に!クソッ!今乗せてる分移動させろ!!ナキアも早く街へ迎え!!」
「アカシさんは!」
「何とか粘るしかねぇ!さっさと行け!子ども達を死なせたいか!!」
「っ!!分かったわ。武運を祈るわ!」
「そっちこそな!」
母は直ぐに街の方へと馬を走らせた。あれ…。ちょっと待て…。そうなると父は…置いて行く事になるのでは…。そう疑問に思い母を見ると涙を流しながらも前を向いていた。俺達を活かす為に。その母の覚悟に俺は慰めの言葉さえ言えなかった。
馬を走らせて街道へと着くがそこには魔物達が血走った目で群れとなっていた。母は進行を変えて、魔物達から身を隠すようにまだ燃えていない森の中へと入っていく。
暫く森の中を走っていると景色が暗くなり始めて数分、雨が葉を打つ音が聞こえて地面と俺達を濡らす。俺はマリオが冷えないよう、庇うように抱え込む。森の中に居るからか、雨量に対して、雨に当たる量は少ない。
「う、うう…」
マリオが声を上げながら、目を開いた。視線を周りに向けて母が居ない事に気付いたのか大声で泣き始めた。シェフィも母に縋りながらも堪えてるのにこのタイミングかよ!
俺は咄嗟にマリオの口を塞いだが対応は遅く、マリオの泣き声に気付いたゴブリン達が走る俺達を見付けて呼び声を上げる。馬鹿か俺は!母親が居ないと分かれば赤ちゃんが泣く事は分かる事だろ!
「ギギギィ!」
「ギギィ!!」
「バレた…。全力で走らせるわ!舌噛まないようにして、しっかりと捕まってなさい!」
母は鞭で勢いよく馬の尻を叩き、馬も自身に危機が訪れる事を予見しているからか今まで以上に速度を上げる。母は上手く馬を操作し、ゴブリンから放たれる矢を避けたり、木を盾にしながら攻撃を躱す。
「はぁ…はぁ…。まだ保ってよベッシュ」
母は息を荒らげながら馬の名前を呼ぶ。馬と母が頑張ってくれた御蔭で森を抜けて、遠くに街壁が見える。
「あと、もうちょっと!!」
母はそう言うと前のめりになり馬も呼応するように速度を上げる。ゴブリン達も俺達を追い掛けて来ているが距離がある。これは追い付けないと確信して、街の方へと視線を向ける。
「グッ…」
母が妙な声を出した。俺は気になり母の方へと向くと、母と視線が合いニコリと笑い、シェフィとマリオ、俺を纏めて抱き締める。
「大丈夫よ」
母のその一言に安心し、再び街に視線を戻す。街はドンドン近付き、門番として立っていた兵士達が駆け寄って来る。
「おい!大丈夫か!」
「やった…。やったよ!ママ!」
俺がそう振り返ると母は役目を終えたかのように馬から力なく落ちる。
「マ、ママ…」
落ちた母を見ると背中に幾数本もの矢が突き刺さっていた。兵士は母に駆け寄り、手袋を外した手で首筋に触れ、首を横に振った。そこで俺は分かった。母が妙な声を上げたのは矢に刺されたからだ。それからも何本も何本も刺されながらも声を押し殺してたんだ。俺に心配かけさせないように。そして、抱き締めたのは……自分が死ぬと分かったから最後に………。それを理解した瞬間に涙が溢れ出す。その涙の熱さは雨に冷やされ、地面へと落ちる。
それから俺とマリオとシェフィは兵士達に保護され、母の遺体も回収され、馬は力尽きたのか俺達が街の中に入った瞬間に倒れて、そのまま亡くなった。
保護された俺達は教会が経営している孤児院に預けられる事となった。その後の村での出来事は俺達を保護してくれた若い兵士であるアサラさんが俺に教えてくれた。
結果だけで言うと村は壊滅。村には生き残りが居らず、俺が教えた馬車で逃げた人達に関しては行方が分からなかったらしい。
「そうですか…」
「すまないね。大した事を教える事が出来なくて」
「いえ、教えくれるだけでありがたいです」
「そうか…」
アサラさんは立ち上がると懐から巾着袋を取り出す。
「これは皆に上げてくれ。蜂蜜で作った飴…という菓子らしい。それじゃあ俺はこれで」
「ありがとうございました」
俺は立ち上がり、去って行くアサラさんに頭を下げる。すると入れ違いにシスターマリアが食堂であるこの部屋へと入ってきた。
「アキト。どうでした」
「良い話ではありませんでした」
「そう…ですか…」
「そうだ!飴を貰いましたよ!皆で食べましょう」
俺はアサラさんから貰った巾着袋を見せるとシスターマリアは涙を浮かべて俺を抱きしめる。
「貴方は大変聡明で子どもとは思えぬ程に気遣える優しい子です。ですが、私の前ではそんなに大人びなくても良いのです。大丈夫です。貴方も私の子。御立派な御両親に代わり、絶対守り抜き、貴方を素敵な大人にしますから」
シスターマリアから母に似た匂いを感じ、心の底から安心して身を委ねる。シスターマリアに抱き締められながら思う。飛鳥を守る為だけではなく、俺みたいな被害者を出さない為に戦うと……亡くなった両親に誓って。




