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もしもの世界

作者: ときのん

前書きです。

今回はifのお話です。はい。それだけですね。

目を擦りぼんやりと辺りを見渡す。ここは……そうだ実家だ。高校が夏休みに入って帰省してきたのだ。

今日から(しばら)くの間うるさい小言を聞くことになるのかと思うと早く寮に戻りたいが、それはそれで親族共がうるさいので仕方ない。


火華(かか)は身体を起こして、いつものように垂れる髪に違和感を感じる。いつもある筈の羽根が絡まるような痛みも無ければ、目に入る髪が白から黒へと変わっている。実家で髪の色を黒に染めるのは外に出歩く時だけだ。寝る時には落としているはず。


火華は洗面所に行って自分の姿を見る。いつも通りの服にいつも通りの顔。

……しかし羽根がない。あの見た目だけは綺麗な羽根が今は普通の髪に置き変わったかのように跡形もなく消え去っている。


夢でも見ているのかと目を擦ってみるが、鏡の中の自分の姿が変わることは無かった。


-------------------❁ ☾ ❁--------------------


「……絶対おかしい」


母親に羽根がないと問い詰めた時のことを思い返して頭を抱える。羽根なんて人に生えてるわけないだろと一蹴されてしまったのだ。

スマホで調べても羽人はおろか、そもそも呼羽高校の名前すら出てこない。


「羽根が生えてたあの世界が夢?そんなわけないよね?あーもー訳が分からない!」


火華は最低限の荷物で電車に乗り込み、呼羽高校に向かう。


しかし、向かった先に呼羽高校は存在しなかった。高校のあるはずの場所にはアパートが建ち、一帯が住宅街のように様変わりしている。

記憶の中にある同じ場所とは似ても似つかない。


途方に暮れている火華の背後から可愛らしいのんびりとした声が聞こえてくる。


「もしもしそこの人。どうしました?」

「……誰?」


黄色の大きめなジャージに身を包み、ツギハギの人形を持った少女が後ろに立っている。何故だろうか、初めて会うはずなのに初めての気がしない。

ニコニコと人のいい笑顔を浮かべたその少女が口を開き、こちらの質問に答えるように声を上げた。


「あ〜これは失礼、ボクは音夢(ねむ)。音に夢と書いて音夢とだよ。何か困ってるのかな?」

「いや別に……急に何?」

「仮にもここボクの家だからさ……人の家の前に知らない人がいたら気になるでしょ?」


まぁ……確かにそうかもしれない。


「そうだ!ちょっと上がっていきなよお姉さん。態々こんな何にもないとこに来るくらいなんだから暇でしょ?」

「まぁ……そうだね」


火華は音夢に連れられ、アパートの一室に足を踏み入れた。少し散らかり気味か室内を音夢が走りながら片付けて、そこらのよく分からない機械のスイッチを入れていく。


数分後には綺麗に片付いた部屋にお茶と椅子が並べられていた。どうやら私の席らしい。


「それにしても……良く走り回るね…?」

「お、分かる〜?走れるのもこんな夢の中だけだしね!やりたいことやらなきゃ損だから!」

「……ちょっと待って今夢の中って言った?」

「うん、火華ちゃんの夢の中でボクの夢の中でもあるよ!」


断言できるね!と音夢は自信満々に言う。普通に考えてすんなり受け入れるのはどうかと思うが、違和感しかないこの現実を夢の中だと断言されるのは正直有り難い。

……もう少しすれば目覚めて元の生活に戻れるのかな?


「ん〜?元の世界?戻りたいの?戻る必要ある?だってここは理想の世界だよ?」

「理想というか…夢なんだから偽りの世界でしょ?」


何言ってるのさ、と音夢が笑いながら小馬鹿にしたように言う。


「理想の世界だよ。だって私は走れるし健康だし人並みに幸せだし、私のお姉ちゃんは自分の家族も全員生きてるし、何処ぞの殺人鬼は人を殺さなくても、人に殺されなくても人を愛せるし、火華ちゃんは不幸な未来が決まってる打ち切り小説みたいな世界から何不自由ない世界になったんだよ?」


これが理想の世界じゃなかったらなんだって言うんだい?と問いかけるように笑いながら音夢が呟く。確かに言葉を並べた感じは何一つ不満のない世界かもしれないが……


「ここには友達がいないし、楽しい高校もないし、行きつけのBARもないよ。理想の世界でもなんでもない。ただの夢」

「……まぁそれもそうかもね。私は友達なんか居ないからそんなこと考えたことも無かった」


音夢はこちらに走り、用意された椅子に座るとおもむろに口を開いて言った。

「ここから帰るのは簡単だよ」


「……もう少しゆっくりしていけば良かったのに」

「悪いけど早く帰りたいからね」

「そんなに元の世界がいいの?ここでも友達は作れるよ?何より、元の世界はここより辛い未来ばっかりだよ、あと少しくらいいてもいいじゃん」

「ここより辛くたって大丈夫。それに……未来は自分で決めるもんでしょ?」

「漫画のセリフだね」

「バレたか。まぁ本心でもあるからね」


それじゃあ。と音夢に別れを言い、帰路に着いた火華は少し迷ってからその足で山に向かった。確かこの辺に……と適当な方向感覚で進んだ火華は暫くして切り立った崖に着いた。まぁ崖というか地滑りでごっそり削られた元、山の斜面だが。


音夢が言った戻る方法は2つ。1つ目は夢から覚めるのを待つ。つまり寿命で死ぬまでここで過ごすという事。

2つ目は今すぐ死ぬ。まぁ1つ目みたいに待てないなら死ねば戻れると思うよという話だった。

確証は無いらしい。まぁ仕方ない世の中、絶対は無いのだ。


ひとつ大きく息を吸って、意思がブレる前に走って飛ぶ。あ、割と浮遊時間が長い。こわいなこれ。


思考をして数秒後、身体中に響く轟音と共に火華の意識は暗闇に沈んで行った。


-------------------❁ ☾ ❁--------------------


「はーはー…」

布団から飛び起きた火華は、過呼吸気味な呼吸を落ち着かせながら夢を思い出そうとする。

が、夢はいつものように漠然と怖い夢だったという意識だけ残して思い起こせない。


「火華ちゃ〜ん!寝坊?珍しいね?」

「ラズくん……?」

「どうしたの〜?あ、もしかしてまだ寝ぼけてる?ラズだよ!今日は遊びに行くんでしょ!ほら支度して」


ラズに急かされてラズを部屋から追い出して急いで着替える。そうだ今日は花見だった。今週末には雨が降るから散る前に行こうと決めてたんだった。


ササッと着替えた火華はラズと一緒に勢いよく寮から飛び出して行った。

さて、後書きです。

今回は夢オチでしたが、皆さん並行世界という言葉を知っていますでしょうか?


基本的にはそっくりだけど何処か違うような世界が、今、私たちのいる世界と同じように存在していることを言います。


例えば死んだはずの人が生きていたり、例えば科学が異常に進歩していたり、例えば超能力が一般的だったり……様々な世界が存在してるかも?


そう考えると、羽根の無かった火華ちゃんは果たしてほんとに夢のお話だったのでしょうか…?

もしかしたら……?


まぁ深掘りはやめておきましょう。

お花見の話はまたいつか。

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