9、美味しくないですわ〜!
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さっそく、草原に走る細い川の傍に行き、ゴブリンを捌いていく。
人型の魔物、普通の人間ならさすがに躊躇うだろう。だがボタンは普通ではない。こいつは前世でもなんでも食った。虫でも、ネズミでも、サルでも、料理として出てきたらなんでも食う人間だった。
「これが魔石ですわね。銅貨5枚から10枚、たなぼたですわ〜!」
食べられそうな(?)部位を細切れにし、鍋にいれた水にさらす。
沸騰させ、アクをとりながら火の通りをまつ。
ボタンなら、多分生でも食べられるのだろうが、そこはまあ。
「そろそろいいですわね〜。お湯を捨てて、携帯している岩塩をちょいと削りかけて……茹でゴブリン肉の完成ですわ〜!」
茹でゴブリン肉、およそこの世界で初の料理である。料理か?
ちなみにこの世界では、魔物食は禁忌とされている。理由は様々あるが、大半は毒のせいだ。
例外としてワイバーンやドラゴンの肉や臓器は経口摂取されることが多い。滋養強壮や薬として。
しかしてゴブリンの味など誰も知りはしない。
「いざ、実食ですわ〜!」
パクリ。もちゅもちゅ、ごくん。
「絶妙に不味いですわ〜!あれ、『暴食』でなんでも美味しく食べられるんじゃないんですの……?」
なんと、不味かった。
ちなみに『暴食』の効果として「なんでもある程度は美味しく食べることができるようになる」というものがある。ただ、その辺の草も、ガンマの侵された毒も、このあたりの毒草も、ゴブリンの肉よりは美味しいので、『ある程度』の基準を上回れただけだ。
つまり、ゴブリンの肉は、その基準すら上回れない、普通の人間からすれば、吐くほど不味いものとなる。世紀の大発見だ。誰も知りたいとおもわないだろうが。
「う、塩味が逆に不味さを助長することなんてあるんですのね……?う、うう……もう食べたくないですわ……!」
うなされるようにうんうん言ってると、またまた草むらからカサカサと音がなった。というより、もう目視できるところに、ウルフが一匹、こっちに向かってきている。
「ヴゥ……!」
「う、ウルフですわ〜!死にますわよ〜!!」
さすがにウルフには勝てない。
このあたりにはこのような肉食獣はほぼ出てこないときいていたが、間違いだったのか。いや、単純に運が悪いだけか。
まさにピンチ。しかし、ボタンには奥の手がある。
「文字通り食らえ!ゴブリン肉投擲ですわ〜!」
茹でゴブリン肉を投げて意識をそちらにむけさせ、残りのゴブリン肉もその場にばら撒き、自分は逃げる。
ウルフがゴブリン肉に興味を示してくれれば、ボタンは逃げ切れるだろうという作戦だ。戦う?勝てる見込みがない。
幸をそうし、ウルフはゴブリン肉に興味をしめした。襲えば勝てそうだが攻撃の意思のあるでかい二足よりは、すでに食べやすくなっている肉のほうが利益が大きいと判断したのだろう。攻撃的な性格でなくて助かった。
ちなみにウルフはゴブリンを食べる。不味いのに。ゴブリンも不味いが、どうせ同じ二足の人間も不味いだろうという判断から、ボタンを追わなかった。幸運が重なったといえるだろう。
ひたすら走り、町に戻る。
冒険者ギルドでウルフが出たことを報告し、調書を書いて、宿に戻る。
どっとつかれた。
鍋も携帯コンロも失った。結構高かったのに。
やはり、1人での冒険者活動は厳しい、というのを実感した。
パーティを組むか、自分が強くなるか。冒険者を続けるなら、実質一択だ。自分が強くならなければ、パーティを組んでも、足手まといなのだから。
「つよく、ならないと、ですわ〜……」
『暴食』の真価を知らぬまま、漠然と、強くなりたいと願った。
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