2、草食いながら散策ですわ〜!
よろしくおねがいします。
ひとまず餓死の心配はなくなったが、ここは異世界。こういう物語では大抵、魔物やら盗賊やらに襲われる事になる。
そうなればひとたまりもない。食うことしかできないボタンでは、勝ち目がほとんどないだろう。
「町などを見つけるか、真っ当そうな人に出会うか、ですわね。でもこういう物語なら、大抵は近くに人が……いましたわ〜!」
地平線のあたり、ギリギリ見えるところに、人間らしきものが2人ほど。
そこそこの早足で近づくと、武装した女性1人が、1人の女性の服を脱がせながらなにかを喚いている。慌てているらしく、こちらに気づく気配はない。
……意を決して、声をかけてみる。
「あのー!いかがなさいましたか〜!」
「なっ!誰!……なんだ、人間か?おい、なあ、解毒剤もってないか!?こいつが、毒が……!」
1度剣を向けられかけたが、そんなことより、倒れてる1人は毒に侵されているらしい。当然、解毒剤などもっているわけがない。……だが。
「あら、あらあら……美味しそうな匂いですわね?ちょっと……見せてもらっても宜しいでしょうか?」
「あ、ああ、くそ、解毒剤がなければ……街まではもたない。いったいどうすれば……」
ちゅう、ごく、ごく。
「ぷはぁ!やっぱり美味しいですわ〜!」
「な、おい!なにを!吸血鬼か!?離れろ!」
「……あちゃあですわ」
「ん、んん……ッ」
またまた剣を向けられ、やってしまった……と、そっと仰け反る。
倒れていた女性が身動ぎをした。
「……動いている!?おい、大丈夫か!意識はあるか!ガンマ!起きろ!」
「……ある、ふぁ……んん、生きてるぞ……」
「も、もう意識がなかったから!ダメかと……生きてる!毒は……毒はどうだ!」
「たぶん大丈夫……なんだかスッキリした……」
ひとまずよかったですわ〜、と、ボタンはホッと息を着く。
毒の匂いにつられ、ついつい傷口から全てを吸い上げて飲み込んでしまった。
甘美な舌触り、滑らかな喉越し、少しの刺激に、込み上げる幸福感。
「なんだかわかりませんが、毒、美味しいですわね」
ユニークスキル『暴食』、これは、とても良いものだと、確信したのだった。
「すまない、混乱していたので何度も剣を向けてしまった。……ガンマを救ってくれてありがとう。礼を言う。私はアルファ。我らはこの国の……騎士、のようなものだ」
「ボタンですわ。こちらこそ、紛らわしい行動をいたしましたので。申し訳ありませんわ」
「ガンマはいま、大人しく寝ている。……もう大丈夫だろう、あの毒は中和か摘出さえ間に合えば後遺症もない、そういうものだ。……間に合わなければ、どうしようもないのだが」
「なにかあったのでしょうか?」
「魔物からの奇襲だよ。こういうのに備えて、解毒剤は各位もっているのだが。すでにつかったあとでね。……蛇の群れは、さすがに2人では厳しかった」
「蛇も美味しいのでしょうねえ」
「そういえば、貴殿は、毒は大丈夫なのか?飲んでいたような、気がしたが……」
「わたくしは、経口摂取では毒はききませんのよ」
「たしかにピンピンしているし、そうか……大丈夫なら問題ない。さて、この件に関する報酬だが、そういえば身分証はあるか?冒険者ならギルドに振り込むし、市民なら住所に届けよう」
身分証。ちゃんとした制度、そりゃあるよなと思うボタンだった。
身分証など、あるわけないのだ、異世界人に。
「身分証はございませんわ〜!」
「……村出身か?その身なりで?……なら、まあ、まずは町にいこうか。冒険者の身分証をつくってもらおう、それでそこに入金する。それでいこう」
「お手数おかけいたしますわ」
「相棒の命の恩人だ、問題ない」
ぽんぽんと、問題がいくつか解決した。
やはりお嬢様でもなんでも、異世界でもなんでも、人助けはするもんだなと思うボタンだった。
そういえば、傷口に口をつけたのに、血の味は全くしなかったな、と、ふと思い出した。
これもどうせスキルの力だろう、不思議だなぁと思うボタンであった。
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