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開戦前2


「最後の脱出の機会だ」薄暗い部屋。河瀬は由美に、携帯端末に表示されているステーション広報アプリの画面を見せた。それは、ここに住むもの全員がインストールしているアプリだった。


 由美にそれを伝える河瀬の声は疲れ切っていた。戦闘用でないロボットの改造や、敵の羅刹に対応する機器の製造で、休む暇もないのだ。しかし河瀬には彼女の答えは分かっていた。それでも彼女には生きていて欲しい気持ちがあった。


「そんなに、私と別れたいのかい?」由美の声もまた疲れ切っていた。バリケードを築き、炊き出しに駆り出され。彼女も休んでいなかった。


「そんな事はあるはずないだろ。」河瀬は、俯いた状態で答えた。「マオリの奥さんも避難するそうだ。」マオリは、かつては同じゴミ処理施設で働き、今もロボットの改造で顔を合わせる事も多い、かつては優秀なロボットエンジニアだったマオリの人生は、どこか高瀬にも似ていた。


「あの人、子供が出来たんだよ」由美は、俯いたままの広瀬の頭をそっと抱いた。マオリの妻もまた、身重の体ながら炊きだしに参加していたのだった。


「そうか、子供の未来をこんなことで奪いとるなんてできないものな」


「うん、でも羨ましかった。自分の未来を託することができる子供がいるって」


「俺たちは、何も残せないな。あっても憎悪だけかもしれない」河瀬は由美の手をはらうと頭を起こした。「本当なら、子供達に素敵な未来を与えてあげたいけど、俺たち大人は、自分のエゴでひたすら廃墟だけを広げてゆくだけだ。この戦禍はきっと広がってゆき、未だ生まれていない子でさえ巻き込まれるだろう。辺境と中央の理解がさらに遠ざかるかもしれない」


「私もそんな気がする。私たちは多くの子供たちに憎悪という負の遺産をばらまいていくだけ、でも将来それを乗り越えてきたらきっと、私たちより優れた大人になるわ。それを祈るしかないわね」


「あるいは、全てが地獄の劫火に焼かれて皆堕ちてゆくかだ、ここは最初の導火線だ。一度生まれた強力な憎悪は、決して消えない、血縁以外に同調する者にも広がるだろう。この事件を発端に、テロも繰り返されるだろうな」


「仕方ないわ、私たちはここで生きている、そしてここ以外で生きては行けないのだもの、自分たちのエゴを貫くしかない。たとえ人を傷つけようとも、生きていたいから」


「俺もだ。でもやはりいい子ちゃんぶりたくてね」河瀬は、部屋の隅に置いていた由美似のロボットに傍に歩み寄った。


「こいつにおれたち二人の良心をつぎ込んでみたよ」


「何?」由美もそのロボットの傍に寄った。「いつみても微妙ね」


「ナイチンゲールさ…」


「看護師に作り直したの」


「ああ、赤十字社から正式なプログラムをダウンロードして、カスタマイズもしてみた。多くは無くても少しの命は救ってもらえると思う」


「素敵だわ。伝説になるかも」


「もっともこのロボット以外は全て、人を殺すように改造されたってことさ」河瀬は、ロボットの頭を叩いた、「頼むぞ。その分命を救ってくれ」


「私からもよろしく」由美もぽんとロボットの頭を叩いた。そして河瀬の手を取った


「ねえ、展望室に行かない?戦争が始まってしまえばもう行くこともできないわ」


「出来れば、俺は今、お前と愛し合いたいけど。」河瀬は、由美のがさついた手を握りかえしたが、由美は首を横に振った。


「そんなこと戻ってからでもできるわ、それにやったあとだと動くのも嫌だし」


「分かった。分かった」高瀬は、由美の手を握ったまま立ち上がった。「最期の景観を楽しもうか」



 展望室には、クーパーが居た。厳しい目で戦艦を見つめていた。


「あら、クーパーさん」由美は気軽に声をかけた


「こんばんわ」クーパーは、静かな声で返事をした「あなたたちは避難をされないのですか?」


「ええ、この人の胸の中以外に行くところがないですから」由美はおどけて河瀬にしがみついてみせた。


「これは、羨ましい、うちの連中に見せつけないでくださいよ。酒が進んで仕事にならなくなってしまう。おっと、今頃奴ら前夜祭だと言って飲んでいるに違いない、ちょっと飲みすぎないように言って聞かせないと。お二人でごゆっくり」クーパーは、速足でその場を離れて行った。


「気を遣わせてしまったみたいだ」河瀬は、ぽりぽりと頭を掻いた。そうでなくてもいくつかの残ったカップルが幾組が外を眺めていた。抱き合うもの、手を握っているもの、それぞれが切れないようにと思いをつなごうとしている。二人は手をつないだまま、ガラスに寄った。見えるのは無骨な軍艦と巨大なリング状の構造物。それが背後からの恒星の輝いている。そして多くの星々がその周りを囲んでいる。


「あのリングの向こうに行けば、過去を捨てて新しい未来があると思っていた」由美はガラスの前にある手すりによりかかり小声で言った。


「俺もさ、でも未来は見つけたよ。」河瀬は由美の肩に手を置いてそっと引き寄せた


「私も、短い未来だけど。もしこの戦いが終わってさ、生きていたらもう一度あのリングをくぐろうよ」


「ああ、そうだな。二人で新しい未来をさがそう」


「あなたは、ロボットの開発をして、私は小さい料亭の女将さんをするの。子供は二人作って、小さい家に住んで、ペットも一匹欲しいな。あんた帰りが遅いからペットに慰めてもらうの」


「帰りが遅いって決めるなよ」


「だって、あんた仕事に夢中になると後先考えないもの」


「あああ・・・それは、ちょっと」


「でしょ、でしょ」


「まあ、気を付けるように努力するさ」


「そこは努力しなくても結構、あのゲートのくぐるために作った借金を返すためにも、貴方は寝る間も惜しんで働いてもらうんだから」


「ああ、頑張って働くさ。二人であれをくぐって別世界に行くために」


「死なないでよ」


「お前もな」


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