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ふたつの静かな時間


 ビルもまた、身動きひとつせず。管制室の巨大なディスプレイに映る宇宙花を見ていた。やがてあの巨大な円環状の構造物から我々を押しつぶしに巨大な力が姿を現わすだろう。既に互いに譲歩する道はなく。降伏するか、徹底的に抗戦するしかない。


 しかし抗戦したところで勝ちはないのは見えている。そしてこのノードステーションに残る人々の意思は抗戦一色で染まりきってしまった。人々は、抗う意思だけで今を生きている。何か他に道はなかったのか、今更ながら過去を振り返り、どこかに平和への分岐点を見落としてしまったのではないかと、彼は思わずには居られなかった。

 いや、たとえ今それに気がついても、もうすがることはできない分岐点に過ぎない。


 今できることはボウイが集めている反乱軍がまとまった数になるまで、ひたすら時を稼ぐ以外にない。この辺境のノードで退屈な暮らしを楽しみながら隠居をすることをひたすら願っていたのに、最後の最後でそれがかなわなくなってしまった。


 いや、それが本心だろうか?自分に問うとあちこちガタついたBMI義手義足が是と答え、元気な生体部分が否と答えた。


 そうさ、体は宇宙に出ることを望んでいる。クーパーのように自由に宇宙を駆け回り、見知らぬ風景に出会えることを望んでいた。しかし、結果はあちこちで命を削るような怪我をして、ここに納まってしまった。やりたいのはここでじっとしていることではない、アルドリーノをなんとか抑えこもうとしていたのは、奴の若さがうらやましかったからだ。


 ふん、と彼は自分をあざけるように鼻をならした。そしてグラスになみなみとウィスキーを注いだ。さぁ今後は、いつこんな風に飲めるかわからないぞ。



「勝ちたいな」アルドリーノは、カウンターに肩肘をついてグラスの中の氷を見つめながらつぶやいた。ややうつろになった眼差しはかなり飲んでいる証だった。


「勝ちましょうよ」バーマンのシリウスが答えた。「もっとも私は勝っても負けてもここから離れられないですけどね。長年かけてこれだけ揃えた酒を置いてはどこにもいけませんよ」


「全部飲んでやろうか」アルドリーノはにやりと笑った。


「是非ともそうしてください。酒は飲むためにあるのです。」


「この戦いが終わるころには、全て空にしてやるさ」


「そういやアルドリーノさんは、ここに来てからしばらくは飲みぱなしでしたね。あの頃は本当にここの酒がなくなったらどうしようかと焦っていました」


「ああ、ここに赴任が決まったときは、相当荒れていたからね。よりによってこんな吹き溜まりみたいな辺境に行かされてさ、飲んで死んでやろうかと思っていたほどさ」アルドリーノは自虐的な笑みを見せた。


「その割にはとんとん拍子に出世なされて」


「ビルが、勝手にそうしたんだ。俺はもう若くないから、早く後任が欲しいって言っていた。前原だっているのにさ。なんで俺なのかなと思ったよ。そしたらなんて奴が言ったと思う?」


「さぁなんでしょうね」シリウスは、グラスを一つつまみ上げ、それををライトにかざすと、汚れが見えたのか綺麗な布巾で拭いた。


「アルドリーノ、お前、中央が嫌いだろうだってさ、当然大嫌いだと答えたさ、そしたら、ビルのやつ、俺も嫌いなんだ。とぬかしやがった。中央は腐っている、そしてここはさいはての地ゆえに失望の吹き溜まりだ。

 しかし、腐った風はここに吹き込んでこない、だからここで生きている人々はたとえ希望の光は見えなくても、明日を信じて生きている。もしここに腐った風が吹けばきっとみんなは、今以上に惰性だけで生きていく。死んだ魚のような目をしてただ時間を潰すことになるだろうな。そんな住人をここで見たく無いんだ。俺はここの自治を守っていきたい。それには、お前みたいな反骨精神あふれるおまえみたいなやつが欲しくてな・・だとよ」


「ビル管制官長らしいですね」シリウスは、磨き終わったグラスを棚に戻し、別なグラスを手にした。


「そんな人が今は妥協案を探している有様だ。あの人が戦えといえば、どれほどの人が奮い立つだろうに、その役をなんで俺に回すんだ?」


「思うに」とシリウスは手にしたグラスにウィスキーを注いだ。「ここで、勢力が二分していると思わせるつもりではないでしょうか、中央に内部の調整がつかないと言いつのり時間を稼いでいるのではないかと」


「そうかもな、しかし中央に刃向うのはこのアルドリーノ様だ。あの人じゃあない。あの人は、どうしたいのかな、俺に反乱の責を押しつけて、逃げるつもりかとか不安になるよ」

」 

「責任を取るも取らないも、戦争になればこのノードステションで生き残っている奴なんかいませんよ。」シリウスはのくすりと笑った。


「そうだな」とアルドリーノはグラスの中のものをあおった。「もう一杯」


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