闇を漂うもの
それは、不安を抱えたまま闇に閉ざされた世界を右往左往していた。生まれ育った巣をより強い同族に追い出され、新たな自分の巣を見つけるために動き回っていた。しかしどの巣にも先客が住み、そこにそっと這い込もうとした瞬間に暴力と威嚇を浴びて追い返された。
外の世界は彼にとって死の世界だった。動き回る間にも希薄な体は徐々に擦り切れ、このまま巣が見つからないと彼は少しずつ蒸発するしかなかった。
思考が諦めに満たされそうになったまま、うろついていると、彼はなにかが動いている気配を感じた。同族ではない、何か堅い殻をもった何かだ。ひょっとしたら巣になる素材になるかも知れないという期待で、彼は体を希薄にして大きく広げ、動いている何かに触れるまで広げつづけた。
やがて彼の体は、移動しているものたちを包むようにして触れた。彼の感覚では移動するものはひとつではなく、群れを組んでいた。
彼は移動する物体の傍で体を収縮させ密度を上げると、体の一部を触手のように伸ばしてはひとつひとつそこに入り口がないか調べた。
しかし、どの物体もまだ生きているようで、彼の侵入を拒んでいるようだった。彼が入り込む空隙はどこにも見当たらなかった。その上、それが噴出する光は彼の体にダメージを与え、触れている部分が削り取られてしまった。
イタイイタイ、彼はもう移動するものに関わるのを止めようかと思い、移動するものから離れようとしたとき、移動する物体の外壁に小さな穴が開いた。
おや、ここから入れれば巣にできるかもしれないと、再び動く物体に興味を示すと、その小さな穴から奇妙な物体が出てきた。
その奇妙なものは、彼の体に触れると、好奇心で濃度が高くなっていた彼の体の一部を切り取ってしまった。
何をする!彼は、痛みと怒りに体を震わせると、より体を収縮させて濃厚な物質を作りその物体をはじき飛ばしてしまった。
相手に痛い思いをさせたので、穴が閉じてしまうかなと彼は思ったが、意外にも、物体が出て来た小さい穴はまだそこに開いたままだった。
ここに入っても大丈夫かな?と考えつつも徐々に生存できる時間が残り少ないと考えた彼は、そっと自分に危害を加えたものが出て来た穴に入り込んだ。先住者は居なかったが、違和感のある意識が沢山そこに蠢いているのが分かった。
しかし彼はそこを自分の巣にすることに決めた。多くの意識達は、彼に危害を加える恐れが無かったからだった。
しかし、彼の先祖が最も嫌った意識にそれは似ていた。遠い遠い遠い昔、彼の先祖達、この宇宙に閉じ込めた意識に酷似していた。破壊への欲望だ。
ひとつひとつの意識は小さい、しかし余りにも沢山あるその欲望の意識が、その巣の中に入り込んだ彼の意識を汚染し、彼の意識とその小さな意識達が同調し混ざり合い始めた。
□
「艦長。ワイマヌが軌道をそれています。このままでは、ゲートに入れません」星殲弐のリン艦長にナビゲータのシャオが叫んだ。星殲弐と行動を共にしているイングサ、スターホーク内でも同じくワイマヌの異常な行動が認識された。
「何をしているんだヌンガは」リンは、以前発生したチェン号の悲劇を思いだしていた。この空間内では、何故か電波も光も散乱してしまい、まともな通信手段が未だに確率して居なかったため、ワイマヌの状況を訊くことが出ないもどかしさを彼女は感じた。
「いったいこの空間で何が起きているんだ。ナビゲータの気が狂ったのか」リンはドンと足を踏み鳴らした。「何隻ここで船を失えばいいんだ。」
「飛龍をどこかのノードで待ちますか?」
「いや、作戦通りに103に向かおう。そこで落ち合うことにする。飛龍への連絡は、ノードの管制官に依頼をする」リンはワイマヌやチェン号で起きた謎の事故がわが身に降りかからないことを切に願うしかなかった。まだ幾つものノードを越える必要があるのに、もうすでに一隻を失ってしまった。果たして目的地にすべての戦艦が無事につくのか疑問に思えた。
星殲弐、イングサ、スターホークが、ノード3を出たところで、ノード3の管制官からリンに連絡が入った。ワイヌマの存在についてだった。
「一機足りないようだが、後になるのか?」
「閉塞空間で事故があったようだ、突然進路を変更してノードに出られなくなった。」
「事故発生時に関する情報はないか?」
「ない、こちらも知りたいくらいだ。なんでこうも原因不明の事故がおきるんだ」
「それは、スペースフラワー発見時からの問題だ。知りたいのはこちらも同じだ。それより次のノードはどこだ?他にこちらに向かっている貨物船がある。貨物が来るのを待つのか、それとも今行くのか」
「直ぐにノード5へ向う…」リンは顔をしかめつつ返事をした。
「了解」管制官は、機械的に言った。
「それと、あとからくる飛龍に一隻失ったことを伝えてもらいたい」リンは、目的地で角谷にどう言い訳をすべきかを考えつつ要請した。なんで、あんな若造に頭を下げなくてはならないんだ。
「分かった、伝えておこう。時間がない、突入の準備をしてくれ。いまから10分後にゲートを開く」管制官は、早口で要請を受けた。
「了解した。」リンは返事をすると。残る二隻に方向転換を指示した。
3艇の軍船は、各々距離をあけながら前進し、そこで順番に方向転換をすると一列に並んでスペースフラワーの巨大な空隙に舳を向けた。やがてそのぽっかり空いた中がきらきらと輝きに満ち始めた。




