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防衛の始まり

 由美は、事務机が乗った重い台車を押しながら通路を進んだ。彼女の脇を空の台車が反対方向へと通り過ぎて行った。上からの命令では、外のハッチに通じる通路全てにバリケードを作るというものだった。

 情報では、軍はいよいよ宇宙花による移動を開始したという。太陽系の果てから、ここまでどれくらいかかるのだろうか?一日二日で着くことはないだろうが、ひと月先ということはないだろう。しかし、よりここに近いノードにある宇宙軍基地から一足先に来る部隊もあるかもしれない。この戦いで生き残れるだろうか?彼女はふと不安が胸をよぎるのを振り切るように頭を左右に振った。動いていないと、そんな不安に押しつぶされそうな思いのまま床を見ながら力を込めて通路を進んだ。


「そこでストップして!」突然前で大きな声がした.彼女が目をあげるとそこには、見かけない髭面の大男が小さい目を彼女に向けていた。


「おやおや、こんなむさくるしい処にに麗しい女性がまだ残っていたとは」男は、由美に近づくと台車の上の机の両脇を大きな掌で掴むとよいしょと持ち上げて床に下した。「ご苦労さま」


「あなたは?ひょっとして、クーパーさんのところの人?」由美は、見た目にも荒っぽそうな風体の男だが、物腰が優しそうなので思わず気を許しそうな気分になった。


「ところっていうか、こっちで勝手に付いてきたですわい、初めまして、カルベって言います。」カルベは大きな手を差し出した。由美の小さい手はそれに軽くふれる程度ですぐにひっこんだ。握手をされると小さな自分の手が潰されそうに思えたからだった。


「私は、河瀬っていいます。」彼の名を自分の名字として答えると、どこか不思議なときめきを感じた。


「旦那と一緒にこっちに残ることにしたのかい?」カルベは、床に置いた机の上によりかかった。「もう生きてここから出られないかもしれないぜ」


「ええ、でも行くところもないし、二人でここを出るお金もないし、だったら可能な限り一緒に居ようって決めたんですよ」由美は照れ笑いを作ってみせた。


「そうだな、それも選択の一つだな。しかし、生き残るように頑張れよ。最後は生き残ったやつが勝つんだ。生き残ったやつだけが未来を見られるからな」


「カルベさんは何でここに来たのですか」由美は訊いた


「クーパーが行くっていうから付いてきたまでのことよ、あいつと行動を共にしていると面白いことにぶつかるからな」カルベはにやりと笑ってみせた。「それで命を落としたとしても、それまで楽しくやるまでさ、奴と違って俺には政治とか全然わかんねぇからな、ただ、何であろうと頭ごなしに束縛されるようなことを言われるとムカっ腹が立つってのもあるかな。クーパーにだって、俺に指図はさせねぇからな」


「カルベさんって面白い方ですね」由美は笑みをみせた


「俺は、そんな面白いやつじゃあねぇけどなぁ…おっと後ろがつかえてきたぜ」

由美が振り向くと後ろには台車が2台並んでいた。彼女は、おじぎをすると空になった台車を押して来た方向に戻っていった。



河瀬は、VCE(Virtual-Circuit Emulator)上で動作するロボットのプロセッサの動作をみて安堵の溜息をついた。プロセッサと言ってもAI部分ではなく、音声や視覚など外部からの情報の収集や駆動系ユニットの制御を行う極めて単純なプロセッサの試験を行っていた。


 エミュレータの脇には、一体のロボットが寝た状態で置かれ、AIプロセッサ以外のプロセッサは外され、代わりにVCE装置から伸びた長いコードの先についたエミュレータ用のプロセッサが取り付けられていた。


 VCE上でパラメタを変更してGOコマンドを実行すると、ホログラムの中に浮かぶロボっトの像がパラメタに従って動作する。


 プロセッサ分の台数用意されたディスプレイには、各プロセッサのレジスタの値や、デバッグの為にあらかじめ設定してある変数の値がめまぐるしく表示を変えて行く。彼はそれを即座に読み取っていた。


 AIプロセッサの動作は、リアルタイムでトレースすることはできない、AIは自身の中にある広大なメモリに蓄えられたものと、更に広いネットの情報からなるニューラルネットにより、外部からの情報に対して適切な行動を取るが、その情報の流れは、レジスタの値の変化ではなく、多次元化のベクトル化された情報や回路を流れる電子の経路に依存するため、デバッグによる介入ができないのだ。


 AIプロセッサの入力に関わるプロセッサと出力として多くのパラメタをAIプロセッサから受け取るプロセッサのみが、デバッグ可能であった。


 彼が行っている調査は、昨日までは、このロボットに兵器としての可能性を見いだす事にあった。しかしそもそも内蔵されている駆動系ユニットが弱すぎ、重い装甲を付けたり、ロボットを相手とした武器を持たせると、ホログラムの中のロボットは腕も脚も動かなくなってしまう。


 そこで、エネルギー供給を多くするために、パワー供給ユニットを大きいものに変更すると、駆動系が焼き切れてしまいホログラム上にアラートメッセージが表示されるという有様だった。駆動系を大きいものにすれば、今度はロボットに収まらないため、それは最初から案として除外されていた。


 上層部にとっは、彼の調査結果はありがたいものでは無かっただろうが、彼はこれらのロボットが兵器として利用されないことにどこか安堵を感じていた。


 しかし、それとともにこのステーションを軍から守る術が無い事にも、憤りを感じていた。ここで死ぬことになるかもしれないと。


 そして今朝になっていきなり、軍の機密情報がリークしてきた。自動対人対AI兵器羅刹が同機種間で相互通信を行っている信号の周波数とそのプロトコルが届いたのだった。


 羅刹はもっとも厄介な兵器だ。人よりわずかに大きいだけなので、人が移動に使う通路はすべて通ることができる。羅刹が装備する兵器はミッションによってその都度交換が可能になっているので、何を装着してくるかは、出会ってみなければわからない。だが確実にかつ無慈悲に人間の命を奪い敵対するAIを破壊する事に特化したAI兵器である。


 羅刹に対抗するには、長時間にわたり一点にビームを照射する、徹甲弾を打ち込む、榴弾により装甲を溶かすかのいずれかだ。だが狭いステーションの通路の中での戦闘では、破壊後におきるであろう羅刹の爆破による施設のダメージが致命的な被害をもたらす事も考えられる。その上兵士でもない一般人や通常のロボットが対処する事自体問題がありすぎる。


 一般的に、AI兵器にはAI兵器が対処するのが正攻法だ。しかし、こっちにはそのAI兵器がない。そのため、通常ロボットを兵器として流用する方法が上層部から打診され、彼は、一般のロボットを兵器に流用する改造から、リークされた情報を基に一般ロボットを羅刹の仲間と認識させる改造にあたる任務を今朝から負わされていた。


 ロボット同士が出くわした場合、相手がロボットのなのか、ただの人形なのか、あるいは敵なのか味方なのかについての判断は、ロボットは相手との相互通信以外にその判断をつけることができない。多くの教育ーディープラーニングーを受けたとしても、ロボットは常に進化し続けるため、敵とみなす外的な静的あるいは動的なパターンを見いだす事ができないのだ。


 そのため、ささやかな電波によるやりとりによる誰何通信がロボット間で行われる。まずは、標準のインタフェースで相手がどのような機能をもつ相手なのかを尋ねる。それをIUnknownと呼び、これは全てのロボットに標準搭載されているインタフェースだ。

 それにより互いに会話ができるインタフェースのバージョンを決定してから、ロボット同士は会話を始める。誰何インタフェースは、双方向通信で行われ、互いに合い言葉が送信される。


 見知らぬ合い言葉だと、互いに戦闘モードに移行する。当然、敵と認識してから攻撃の初動が早い方が有利だ。羅刹は、その反応では現状他のどの兵器よりも早いと言われていた。


 今回リークされてきた情報は、その羅刹の誰何インタフェースだ。


 この情報がもし真実なら、羅刹からの攻撃を防ぐことができる可能性があった。

「勝てるかも」彼は、ごくりとつばをのんだ。生きてこのままここで暮らせるかもしれない。


 彼は、デバッグ対象のロボットのインタフェースを呼び出すと。新しい誰何インタフェースについてプラグインを追加しVCE上で動作確認を始めていた。


 VCE上では、その合言葉をきちんとロボットは返していた。接近した状態なら、貧弱な武器でも羅刹を倒すことができるかも知れないと彼は思った。


 もっともこの情報が偽でなければだが、あとは武器の数だ。そもそも、その数が少なすぎる。クーパーとその仲間達が持ってきたものでさえ、全市民と全ロボットに行きわたる数ではなかった。まして相手は、宇宙花を使って、不連続ではあるが長い兵站でさえものにできているのだ。敵の兵力はまさに無限といっても良い具合だ。羅刹を無効化できた場合、あるいは人間同士の戦いになるかもしれない、そう思うと、彼は重いため息を付くしかなかった。


 由美と伴に生き残れるだろうか?



「こんにちわ」とクーパーが管制室を出ると、唐突に後ろから声をかけられた。ふりむくと、アイロンがしっかりかかったスーツに身を固めたアルドリーノがいた。


「君か、何か用かね」クーパーは、どこか不機嫌そうに見えた。煮え切らない管制官長とのやりとりに疲れたのだろうとアルドリーノは思った。


「ええ、ちょっとお話があります。」アルドリーノは、きちんとした服装で廊下にまるで人形に様に立っていた。


「ビルの事か?」クーパーは、それに対して、着崩れたツィードのスーツを着て、廊下の壁に寄りかかった。


「いえ、この戦いについてです。」


「この戦で勝つ気でいるなら、諦めてさっさと逃げることだ。はっきり言って俺も仲間達を連れてきてしまったことに後悔している。凄惨な戦場になるぞ」クーパーは、じろっと若い男を睨むように見た。


「ではなぜ来たのです?」


「頭に来たからさ、悪いことをしているわけでもなく、理不尽に力で潰しにくるやつが嫌いなんだ。負けると分かっていても、抗いたいじゃないか…」クーパーは、ズボンのポケットに手をつっこみ、つま先で廊下の床を蹴った。「悪いか?」


「正義感が強いのですね」アルドリーノは、クーパーという人物が、若い頃の反抗期が終わらないまま歳を経た人物の様に思えた。


「いや、ビルほどに大人じゃあないってことだ。政治家なら、ここは一旦相手の要求を呑んだ上で、あれこれ時間をかけてだだをこねるべきだよ。いずれ自分の首は飛ぶが、死人は出ない、ここにしか安住の地が無いと言う奴にも他の居住地が見つかるかもしれない。

 税金は予算通りにきちんと入る。そしていずれ、長い時間は掛るだろうが元に戻る可能性もある。


 もっとも今となっては投降もできそうもないがね。一番たちが悪いのは、政府軍の若造の角谷が戦果を挙げたがっているみたいだってことかな。多分、今回の侵攻は最初から和解案は無い気がする。話し合いの解決よりも俺たちを潰して他のステーションに対しての見せしめにするつもりのじゃあないかな」


「勝ち目は無い…」アルドリーノは、クーパーを正面から見た「でしょうか」


「おいおい勝てると思うのか?」クーパーは鼻で笑った。「相手は職業軍人で数も多い、装備もある。俺たちにできるのは、時間稼ぎだけだ。長引けば友軍が来るかもしれないが、果たして間に合うかどうかも分からない。」


「不死身のボウイ…」アルドリーノは小声で言った。


「流石にその名は知っているか」クーパーは、にやりと笑った。


「はい、もっとも古いノードでは創設時から独立した軍を持っていると聞いてます。そこが、方々のノードから有志を募っていると噂で耳にしました。」


「俺も彼が来てくれることに賭けている。」


「では、とことん籠城しかないですね。法的に彼らはこの構造物を直接破壊することはできない。」


「いや、それだけではだめだ。こちらから出て行ってかく乱もしないとな、軍は羅刹をここに投入してくるだろう。ならば、こちらは生身の人間を軍艦に潜り込ませるまでさ」


「実は、話というのはその羅刹の事でして」アルドリーノは、ついついクーパーの話につられてしまって、言いたい事があった事を思い出した。


「なんだい?」


「実は、羅刹のインタフェース情報が何者かによってリークされてきました。ただ、それをどう利用しようかが難題でして…それを相談したくて・・・」


「なに?だったら最初にそれを言え!で、どこからだ?」クーパーは、思わず身を乗り出した。


「分かりません、ただ。どうやらその情報は本物ではないかと、うちの技術者が言ってました」アルドリーノは、クーパーの勢いに思わず一歩下がって答えた。


「わかった、じゃあ俺の仲間にひとり詳しいやつがいるからそれを付けよう。むかし戦闘用のAIの開発に携わったやつさ…どうだ?」クーパーは更に、アルドリーノに顔を近づけた


「お願いします。」アルドリーノは、また一歩下がってしまった。


「どこに行かせればいい?」クーパーは、また一歩進んだ。


「一番最下層です。そこに河瀬というエンジニアが、一般ロボットに誰何インタフェースを追加しています」


「こりゃあ、面白い事になってきたな」クーパーは、アルドリーノの肩をぽんぽんと叩いて笑った。「戦争はこうでなくてはね。じゃあ早速面白い奴を一人、河瀬ってやつの処に向わせよう」とアルドリーノから離れ、ジャケットのポケットに手を入れ、それからあちこちのポケットをまさぐった。「端末を部屋に置いてしまったな、まぁ奴の居所は知れているか」とアルドリーノに言うと、「まぁ、少し遅れるが必ず行かせるから、俺は奴を探してくる」といきなりアルドリーノに背を向けて去ってしまった。


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