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訪問者達2

 ステーションから伸びた長いアーム状の係留ロッドに燃料を積んだ貨物船がゆっくりと近づくと、貨物船からも係留アームが伸ばされ、互いのアームの先端にあるAI同士が通信を開始した。二本のアームは互いの位置を速度を確かめ合いながら、ゆっくりと近づくと静かにドッキングを行い、速やかにロックされた。

 乗り組み員達は、その接続されたアームの中にある空洞を通って、簡易宇宙服を着た状態で移動を行いステーションに向かった。


 クーパー達の戦闘機は、ステーションからだされる誘導信号に従いながら、ステーション内部の小型船用ポートに押し込められる様に入り、内壁から伸びる何本ものワイヤーが意識を持っているかのように蠢きながら、戦闘機についたフックを探し出して、先端にあるハンドがしっかりそれを握りしめると、更に狭いポートの奥に引きずり込まれていった。


 クーパー達は宇宙服を着て小さい手荷物を持ちつつ各自の戦闘機から出ると。ポート内部の壁面についた通路の手すりに向かって、ゆっくりと漂いながらそこを目指した。そして手すりを握ると浮いた体を通路によせ。手すりと壁に間にある編み目状の足場に沿って泳ぐ用に通路の端にあるハッチを目指した。


進む度に、徐々に体が編み目状になった足場に引きつけられるのをクーパーは感じた。


「重力が出てきたぞ。落ちるんじゃないぞ」先頭を行くクーパーは、無線で注意を促した。弱い重力であるが、バカなまねをして足場を踏み間違えれば、実際に落ちることを経験する事になる。


「オーケーおっさん」あちこちで応答が返ってきた。


やがて全員が、ハッチの周りに集まった。


ハッチには金属の板で「気密室定員10名」と書かれたプレートが、溶接されていた。


「10名づつ入る、後は周囲で待機。カルベがしんがりをつとめろ」クーパーは指示するとハッチ脇にある赤く大きなスイッチを握り拳でたたいた。ハッチ周囲のライトが赤く変わり、ハッチがゆっくりと開いた。

 完全に開くとクーパーが先頭を切ってハッチの中に入った。そこは、細長い部屋になっていて一列で収まるようになっていた。最後に入った人間が中のスイッチをたたくとハッチが閉まり、やがてシューという音と共に部屋に空気が満たされた。クーパーの前のドアに青いランプが点くと彼はまたスイッチを叩いた。ドアの向こう側には、キツネの様な顔をした男が出迎えていた。


「第10ステーションのクーパーだ。応援に来た」クーパーは、ヘルメットのバイザーを開いて挨拶をしたが、その男が彼を見る目は細められた。


「ようこそ、私は前原です。クーパーさん。管制官長がお待ちです。」抑揚の無い言葉が男の口から漏れた


「さっそくそうしたいが、俺の連れが疲れているので、できれば宿の手配を先にしてもらえないかな?ちゃんとバーのある奴がいいが」


「船員会館ホテルを手配済みです。アルドリーノ副管制官からそう指示されていますので」


「そこなら願ったりかなったりだ。」


「では、いきましょうか?」前原は彼に背中を向けようとした


「いや、まだ全員こっちに入ってきていないからちょっと待ってくれ」


「そうですか、分かりました。では皆さんがおそろいになったところで案内いたしましょう」


「待たせてすまんな。」


「かまいませんよ」と前原が言ったとき、次のグループが出てきた。各自ヘルメットのバイザーを開いてため息を付いていた。


「では」と前原が言うと


「いや、もうひとグループいるのでな。」とクーパーは、壁に寄りかかった。あたりには、男たちの汗臭い体臭が一気に漂い出した。男たちは酒だの、シャワーだの、女だのと声だかに勝手に雑談を始めた。しばらく後に、ドアが開いてカルベをしんがりにしてあふれ出てきた。


「これで全員ですか?」前原は、疲れたような口調で言った。


「こっちは、これで全部だ。さぁ行こうか」クーパーは壁から背中を離すと笑みを浮かべて答えた


「ではこちらへ…」前原が先頭をきって歩き出した。


「よーし皆、この御仁がホテルに案内をしてくれるからな、騒がずに紳士な態度で付いてゆくんだぞ」


「やったぁ!!」と30人分の大声が廊下にあふれ、男たちは相変わらずがやがやと雑談をしながら付いて行った。


 船員会館ホテルはその名の通り、宇宙船で勤務をする労働者たちの組合で運営されているホテルであり、当然そういう人々の利便性を考えて船が係留される場所に近いところに造られているものであった。

 どのポートでも一階部分に大きなバーを持っているのが常であり、周りには娼館があるのも少なくなかった。しかし、今のこのポートでは、泊まるものは無く、彼らを迎えたのもひっそりとしたフロントだった。


「ようこそ、クーパーさん」たった一人のフロントマンがカウンター越しに手を伸ばした。「有名な方に泊まっていただいて光栄です」

クーパーは、宇宙服の分厚いグローブのままてその手を受けた。


「悪いうわさばかりだろ」クーパーはにやりと笑った。


「いえいえ、そんなことは,でも管制官長を自ら辞任したのはきっと七不思議のひとつになるでしょうね」


「そんなことを不思議にされてたまるか、つまらんからやめたのさ」クーパーは後ろでわいわいと雑談をしている方に顔を向けた


「静かにしてろ!!田舎もんみたいな事しているんじゃない」


「おら、田舎から出てきてこんなとこはずめてだぁ」誰かがおどけた声を出した


「まったく・・・こいつらをさっさとチェックインさせたいのだが…」


「はい、かしこまりました」とフロントマンは、後ろを向くと、キーボックスからひとつずつキーを抜き取り、カウンターに置いていった。


「お好きなところにどうぞ」


「おい、皆並んでチェックインしろ」クーパーは、後ろを向いて大声を発した


「やっと休めるぞ」と男たちがざわつきながら整然と列を作った。


「宿帳はあるかい?」クーパーは再度、フロントマンに向き直った


「ありますけど、ご自由にどうぞ。私もここを退去する予定なんです」


「ここを守らないのかい?」クーパーは不満を露にした


「そうしたいのですが、本社からの命令でして」男は、申し訳なさそうに答えた。


「おいおい、食事はあるのだろうな?」クーパーの後ろの男がそれを聞いて心配そうに言った


「それは、大丈夫です。ここの料理長はここで雇った者ですので、それにあなた方に美味しいものを食べて頂きたいと張り切っていますよ」


「美味しいものだとよ」後ろの男が、その後ろの男に嬉しそうに言った。「きっとモノホンの肉だぜ」


「悪いな・・・なんか占拠してしまったみたいで」クーパーは、後ろで男たちがざわめくのを聞きながら言った


「いえ、それよりがんばってくださいね、今日、明日はまだいますから、何かありましたらおしゃってください」


「おい。てめえら、さっさとキーを取って部屋にいって休め」クーパーは大きな声を張り上げた。すると男達は、適当にキーを掴んでフロアーから出て行った。クーパーは最後に残ったキーを掴むと、部屋の隅でじっと立っていた前原を見た。


「宇宙服を脱いですぐに戻るから、待っていてくれ」


前原は、はいとだけ短く返事をした。


 豪勢とはいえない部屋であった。しかしベッドがあるだけ快適と言えた。クーパーは宇宙服を脱ぐと丁寧に洋服掛けに吊るした。汗で中が湿っているので、乾かしたかったからだった。そして今まで着ていたシャツを脱ぐときに、思わぬほどの汗臭さに顔をしかめた。

 彼はそれを床にほうりなげ、その上にズボンと下着を続けてほうり投げた。シャワーは、爽快だった。長い間の垢を落とし、髭を剃り、歯を磨いた。そして清潔になった体に小さいバッグから取り出した下着と服とてきぱきと身に着けた。鏡を見れば、ちょっとシャレたおやじさんってところだ。彼は、汚れた服を持って部屋を出た。


 階下のフロアーでは、宇宙服を脱いですぐに降りてきたカルベがメイヤーと既に一杯始めていた。


「メイヤー、もう着いたのか?」彼は一瞬、前原に目配せをした。


「今、来たとこでさ、ショウはもう上に上がったけど、俺は体がもう待てねぇっていうんで」メイヤーがグラスを掲げて答えた


「ほどほどにしろよ、爺さん」クーパーは、そういってからフロントに向かった。


「これをクリーニングしたいのだが」彼は、右腕に持った服を差し出した


「それでしたら、地下にセルフクリーナーがありますので、それを使ってください」


「ありがとうさん」と彼は、エレベータに向かい、それから「もうちょっと、待ってくれ」と前原に言った


 階下には、いろいろな自販機が並んでいた。セルフクリーナーは一番奥にあり、彼は機械が設置されている後ろの壁に貼られている説明を読みながら服を入れ、パネルに自分の名前を入力した。クルーニングが終了すると、名前つきの袋にすべて詰め込まれてに出てくるとのことだった。再度上にあがり、前原にさあ行こうか、と言うと。前原はほっとした表情を露わにしてホテルを出た。クーパーもそれに続いた。


 ホテルの前には、ボブスレーに似た車が停止していた。


「ちょっと遠いのでこれで近くまで行きます。」


「それは有難い、流石に疲れているんでな」とクーパーは前後一席ずつの車両の後ろに座った。前には前原が乗り込み、行き先をモニターからセットした。車は、決して早いとはいえない速度で動いた。脇を時折キックスクーターに似た乗り物に乗った人が通りすぎる以外、周囲は徒歩が主流だった。

しかし、人影は決して多くはない。


「住人はあらかたもうここを脱出したのかい?」


「ええ、ある程度資産がある人はもう出て行きました」前原は前をみたまま答えた。「最初から中央に従っていればよかったんです」


「ああ、そうする術もあった。しかし、君たちのボスは戦いも自治を失うのも嫌がっていた。たとえどんなに巨大になっても中継ステーションは中継ステーションだ、何事があってもその存在は中立でなければならないとね」


「ジムさんの考えは古臭いのですよ。」


「そうかな?」


「ええ、ここまで版図を広げてしまった以上、人類はもっと強力な体制を敷くべきなのです。きっといつかは異なる生命と出会うことになるでしょうから」


「ビルがな、中立を好むのもそこなのさ」


「?」


「そもそも、宇宙花自体、人類のものじゃあない、きっといつかほかの生命と出会う確立は高いに違いない、そのとき自分のステーションは、人と異星人が行き交う場所であってほしいってね」


「絵空事です」


「そうだな、どうやら今回はビルも夢をあきらめる時がきたようだ」



「ねぇ、ちょっと気味悪いわ」由美は、河瀬の横に座って声をかけた。当の河瀬は、由美似のロボットにマシンを接続して、時折にやついたり、真剣な眼差しを見せたりしていた。

「え?何が?」河瀬は横を向いた。


「だって、さっきから笑ったり、難しい顔をしたりで、ね、忙しくて休めていないのじゃない?」


「んー」と河瀬は、かるく唸ってから「まぁ、忙しいしやりたくない作業をしているのは確かかな」といいながらマシンに映された緑色の人型を指した。「もし由美が戦争になったらどんな風に行動するのかなって思ってさ、プログラムを作り直しているんだ。」


「私が?じゃあ逃げるわ」由美のその言葉を待っていたかの様に河瀬は真顔になった


「お前だけなら逃げるための船賃はある」


「あんた、なんで?冗談よ・・・」


「俺は本気で言っている、今ならまだ出てゆく船はある。それに生きていればきっとまた会える」


「私は嫌だからね、あんたがここに居るなら私も居る」


「死ぬぞ…」彼は辛そうにその言葉を搾り出した


「また、一人で生きて行くのも、一人で愛しい人を思い続けるのも嫌なの」由美は、彼に抱きついた。「私には死ぬより辛いの」


「馬鹿やろう」


「ロボットオタクのあんたに惚れるくらい馬鹿だよ」


「ありがとう」河瀬は、しばらくしてから由美の耳元に言った


「なにを」


「ふっきれたよ。今までいやいやながらロボットの改造をしていた。でも今は違う、誰のためでもないお前を守るために頑張るさ。ここで二人で生きて、生き残って、いつか子供を育てる為にも、守って守り抜く」


「このロボットも戦うの?」


「いいや、これは俺にとってお前でもあるんだ。こいつだけはそうはさせない…戦場の中でお前ならどうするだろうか?その思いをこいつに注ぎ込んで見たいのさ」


「やだ…銃を持って戦うかもよ?」


「それでもいいさ」


「ねぇ、もし私の考えをこめるというなら、私にも手伝わせて、多分、戦いになったら私は何もしてあげられない気がする、でももしちょっとの勇気があれば出来るかもしれないことをこれにやらせて、本当の私ではなくて、なりたい私にしてあげたいの」


「ロボット造りなんかみんなそうさ」河瀬はそういうと由美の唇を吸ってから、彼女の黒い瞳を見つめた。


「強い自分、優しい自分、愛されたい自分、そういった自分に無いものを注ぎ込んでいるのさ」


「だから、あんな助平そうな目をしてロボットを見ているんだ」


「そんな変な目をしていたかい?」


「本当よ、あの時の目そっくり」由美はけらけら笑って河瀬から離れた。河瀬は立ち上がって由美の後を追った。


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