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交渉6

 チェン号の船長室には、内面の至る所に血のしみができており、書棚の本や酒瓶が宙を漂っていた。部屋の外かからは、修理の音や、大声でやりとりをする声がひっきりなしに入ってきた。しかし、ドアを閉めるととても静かな空間が出来上がった。3人はまるで海底の海草のようにゆらゆらとしながら、立っていた。


「さて、ここなら誰にも話を聞かれることはない」熊谷は、床に固定された机の角を掴みながら言った。


「フロンティア7からの脱出者の生存者の殆どが、同じ症状で保護されています。」ラオは、ゆらゆらと歩きながら答えた。「酷い幻覚症状から、相互に殺戮行為を行い、生き残っていたのは怪我で身動きが取れないものばかりでした。」


「何故、そんなことが?」熊谷は歩きながら話してるラオを目で追っていた。


「原因不明です。分かっているのは、我々が宇宙花と呼んでいるあの装置の中で起きている可能性が高いということです」ラオは足を止めて熊谷をみた


「しかし、私には何事も起きていないぞ」 熊谷は片手で自分の胸をポンとたたいた。「我々もチェン号と同じくあれで移動をしていた」


「フロンティア7からの脱出者の全ても、またそうなっている訳ではありません」ビルはドア脇で固定されている洋服架けに掴まっていた。「ラオ医師を通してギャラクティカ トランスファー社に事例が無いか聞いてもらっているが、そういう事故は過去には無いとのことだった。」


「あの会社が何かを掴んでいるとしても話すとは思えないがね」熊谷は吐き出す様に言った。「そもそも、人類が作ったものでもないものを、構造も理論も調べずにこうして利用していることが問題だ」


「しかし、恩恵の方が大きいですからね」ビルはゆっくりと息を吐いた。「もし調べて宇宙花になにか不具合があったとしても、今となっては使うのをやめることもできない」


「良ければ、フロンディア7の患者ともども、我が艦隊に預けてもらえれば、調査も出来ると思うがどうだね」熊谷は二人の顔を交互にみた。


「いいでしょう…」ビルはあっさりと答えた。「もしここでなにか起きるなら、余計な人々は可能な限り逃がしたい。ただし正常な兵士については、彼らの判断で決めさせていただきます」


「そうしていただければありがたい。まぁトラッパーの兵士を捕虜として我が船に入れようとは思わんが、我が軍の兵士だけは連れ戻したい。彼らにも家族が居るからね。」熊谷は、それからにやりと笑った。「しかしビル管制官長が、簡単に承諾すると思えば、やっかい払いを早めにしたいということか」


「まぁ、そういうところです。戦争になればマーズ条約の通り、我々のステーションは木っ端微塵に破壊されることはないでしょうが、厳しい白兵戦になることは間違いありませんからね。そうなれば患者達を守ってやれることは出来ない。むしろ内部に爆弾を持っているような事になりかねない」


「フロンティア7の情報も漏洩するかもしれないぞ」熊谷は、じろりとビルを見た。


「私は、ここを守りたいだけだ。他所のことは他所のことだ。関係ない」ビルはラオに機械の目を向けた「手続きを頼む」


「分かりました。」ラオは、心の底で病人を移動させる事に反対だったが、口答えをする事無く言葉を返した



「なんで、患者達を渡すのですか」ラオは帰りのエアロックの中でビルに食って掛かった


「言った通りのことだ」ビルはヘルメットを脇に抱えて答えた


「しかし、あの中には解放軍の戦士も居るのですよ。それをみすみす敵に渡すなんて、酷い目に会わせる事になるでしょうね」


「分かっている、しかし開戦までに患者達全てを治癒させることは出来るかね?できなければ、もし戦争になれば彼らはただのお荷物だ」


「治癒させる自信はありません。でも、多くのステーション内の反政府組織はそれを見過ごしてはくれませんよ。あなたが中央政府依りの行動を取ったと見なされるでしょうね」

「暗殺されるかな?」


「それも起きるかもしれません」


「そうしたら、アルドリーノ君が代行してくれる」


「しかし、彼は…」


「そうだよ、反政府組織のリーダーだ。しかし、いざ戦争になったら私よりは適任かもしれないね」



「病人を受け入れるですって?」角谷は驚いた。飛龍の船長室に、角谷を呼び寄せた熊谷は、経緯を話し終えたところだった。


「そうだ、君にはその手続きと部屋の用意を頼む」熊谷は、椅子に座り机の向こうで顔を赤くしている角谷に、指示をした。


「そんな戦力外の奴らを大量に受け入れるなんてできません」角谷は、机に迫り両手で体を支えて、顔を突き出した。


「この飛竜には、十分なスペースがあると思うが?」そんな角谷の動作を、無視するかのように、のんびりと熊谷は聞いた。


「そういう意味ではなくて、反政府勢力の病人を多く入れれば、奴らを監視するのに、人員を割かなければならない、ノード103を叩く戦力をこれ以上弱めるというのですか?」



「私は、戦いに来たわけでない。と言ったと思うがね」熊谷は机の上で手を組んだ。


「しかし、叩くなら今は好機です。」角谷は、更に顔を突き出した。


「なら、角谷君、君が指揮をとりなさい」熊谷は、静かに言った。


「わ、私は未だ…」角谷は、顔を真っ赤にしながらも、突き出した顔を引いた。


「この任務が終われば、今度は君が艦長だ。その時に君がやりなさい。私は、歳だからこの任務が終われば引退だが、今は私がこの艦隊を指揮しているのだよ。」



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