交渉4
「さて、こんなさいはてのステーションに来訪された理由を伺いましょうか」ビルは、テーブルを挟んで対峙している。熊谷を見つめた。艦長らしく清潔な軍服を着ているが、階級章も勲章も、ひとつも身につけていなかった。
「その前に、わが艦隊をタグボートで救っていただいきありがとうございます」熊谷は座ったまま頭を下げた
「いや、礼には及びません。その分の請求は、スペースフワラーの使用料と共にお支払いいただきますので、あくまでの仕事の範囲内のことです」
「それは承知しておりますが、うちの若造たちも、良い経験になりました。」と熊谷は一瞬言葉を切った
「ついでと言ってはなんですが、破損した宇宙船の為にドックを二つ拝借できませんかね?」
「代価さえ払っていただければ、なんとでもいたしましょう」
「こちらも資金は用意してありますので、その点は大丈夫です」
「分かりました、その手配はこちらのアルドリーノ君が行います。」
彼の脇に座っていた、アルドリーノは、笑みを一瞬浮かべてから宜しくと言った。
「で、本題ですが」と熊谷は、テープルの上に置かれた水を飲んだ
「このステーションの管理権限を地球連邦に移譲していただきたい」
「そしてその先にあるフロンティア7を攻め落とすつもりですかな?」ビルは、静かに言い熊谷の目の奥にあるものを見ようとした。
「私は、単に貴方を説得するために来た使い走りですよ。その後の事は政府の頭の中にあることでしょう、あるいは貴方の言うとおりにここを拠点にしてフロンティア7への侵入を行うかもしれない、あるいは、ここを政府の直轄にすることによって、人々の円滑な移動を進めるかもしれない」
「私は、もう歳でしてね。耳も遠いし、目も機械に置き換えたが、これもそろそろ機能が低下していますよ。でもね、情報については、よく聞こえるし良く見えるのですよ。あなた方が、多くのスペース=フラワーステーションを独占して軍事的機能を高め、人々の往来を制限していることなんか、あちこちこら伝わってきますよ」
「それは、私の知るべきところではないですな」
「そう、貴方は一介の軍人だし、実際に統治に関わるのは、やがてやってくる官僚でしょうからね」
「ただ、我々は通行が不安定になっているフロンティア7への安全を確保しなくてならないのです。」熊谷は横に黙って座っている角谷をちらりと見た。
「この交渉の結果がどうなろうと、私達はこの先に行かなければなりません」
「7の制圧ですか」
「違います、我々地球の安全の確保のためにも、ひとつひとつのフロンティアも宇宙花も安定している必要があるのです。戦闘行為などという不安定状態が続けば、何時そこが侵略の糸口になるか分からないのです」
「しかし、多くを中央に搾取されている辺境の人々にとって、独立を保つ事は大事なのです」
「それを中央は望んでいないのです。今は…」熊谷は目を落とした。
「先ほど言われた侵略とのたわごとのせいですかね?」ビルはふんと鼻をならした
「私も詳しい情報は得ていません、しかし貴方も聞き及んでいまんか?辺境から宇宙花の交通が失われていきつつあることを」
「それは老朽化のせいと聞いていますがね。それにこの施設はそもそもが我々の作ったものじゃない、異星人が何時現れてもおかしくはない、にも関わらず。発見されてこのかた1世紀余り経っているにも関わらず異星人との接触どころか、文明のかけらさえ見つかっていない…たとえ、知らないうちの異星人が使っていたとして、何故それを使用不可能にするのですかね?必要なのは、異星人も同じ筈ですよ。見たことも無い異星人がね」
「そう、見知らぬ異星人は、宇宙花を作ったがために姿を消した。ひょっとしたら、我々も姿を消すかもしれないと考えた事はおありかな?」角谷は思わず熊谷の横河をぎょっとして見た。自分ですらそんな事は考えたことが無い。
「ならば、それなりの手続きで交渉をしてくるでしょう?」ビルは、熊谷を正面からみた。熊谷の表情は変わることがない
「ええ、そうですね。今回の私はただの使い走りです。」熊谷は、周りを見回した。「物騒なものを揃えてはいますが、全権を与えられえてここに来たわけではありませんから。お返事さえいただければ、先ずは帰還するだけです。しかし、多少の調査を許していただきたい」
「ステーションの管理権限については移譲できない、周辺の調査はご自由にどうぞ、ただしステーション内への立ち入りについては、制限させていただく、」ビルはそもそも、どんな内容であれここの自治を手放す気はなかった。
「頑ななのですね」熊谷には、対面にいる男の目が彼の言葉に耳を貸すつもりもないことが見えていた。「わかりました、そう報告させていただきます」
「次にあなた方が此所に来るとき、ここは戦場になっているでしょうね」頑な男はアルドリーノを見た。それに対して若い後継者は小さく頷いた。「私は、貴方がここに戦争を持ち込みにきたとばかり思っていた。」
「先ほど言いましたが、私にはそもそも開戦の権限がありませんから」熊谷が、静かに答えた。「それにチェン号にエルゴラント、出だしから損失が多すぎる。」
「ドックでの調査には、私達も立ち入らせていただいて宜しいですか?事故の原因究明は管制としての義務でありますので」アルドリーノが横から口をだした。
「どうぞ、どうぞ」熊谷は笑みをもってうなずいた。アルドリーノは、熊谷の笑みの中に鉄壁のような心の壁を見たような気がした。船内の武器の装備を調べても既知の事実以外は分からないぞと暗に言われているようだった。




