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7.真実

「皆よくやってくれたね。お疲れさま」


オフィスに戻ると、班員たちは皆ため息をついてデスクに座り込んだ。


(そりゃあそうだろうな)


どう足掻いても敵わないもの相手に戦うというのは相当精神を削る。身体的な疲労感よりもそちらの方が重篤そうだった。


東海はと言えば、途中でほかの隊員に連れられてどこかへ行ってしまった。


「東海なら、班長集会に行ったんじゃないかな」


思考を読んだように黄瀬が言う。

机の上の冷めたコーヒーを飲みながら、黄瀬は目の前のスクリーンを睨んでいた。


「班長集会……ということは、やはり何か重大なことでもあったんでしょうか」


日向がそう言うと視線を上げる。


「多分そうだろう。じきに東海から伝達があるよ」


黄瀬の落ち着き払った口調とは対照的に、瑠依はデスクの前に立ち、小さく震えていた。

手の傷からは血が滲んでいる。気がついた菱川が救急箱からガーゼと薬を取り出した。


しかしその震えの所以は傷だけではないだろう。


勤務初日からあれほどの事態に巻き込まれたのだ。しかも瑠依は爆発を見ている。怪我が浅いとはいえ、無理もない。


髪と同じ色の瞳が恐怖に細められていた。


「大丈夫?もし辛かったら、常駐してるカウンセラーに……」

「い、いえ!その……問題ありません。お気遣いありがとうございます」


菱川の声にビクリと反応すると、慌てたように傷の処置をして、デスクに荷物を整理し始めた。


(フライトの時には落ち着いているように見えたけど)


瑠依を不審に思いつつ、真も自分のデスクを片付けようと荷物を開けた。


訓練所から持ってきたもののうち、自室で使うものは既に寮に届いていることだろう。ここにあるのは主に資料の類いだ。


基本的な操縦マニュアルから、これまでの戦争の歴史、さらには本部基地の内部構造や組織の仕組みまで、訓練生時代に目を通したものも合わせて一通りが揃っている。


そうして各々が時間を潰していると、三十分ほどで東海がオフィスに現れた。


「皆、聞いてくれ」


格納庫で話した時とは打って変わって深刻な表情を浮かべた東海に、誰かがゴクリと唾を飲んだ。


黄瀬が静かに立ち上がる。

どうやら彼には東海の話に予想がついているらしかった。


「さっきの敵機についてだが……第三班の広瀬一尉から、識別徽章が確認できなかったと報告があった」


徽章のない戦闘機。それが指し示す事実は一つしか思い当たらない。


「班長集会では、これを十年前の奴らと同一だと認識するということで一致した」


奴ら―つまり、第三次世界大戦の原因となった者たちだ。


背筋にゾクリと悪寒が走る。

そんな敵と戦っていたなんて、それなら下手をしたら、命さえ危なかったかもしれない。


この場にいる誰もが、その恐怖に苛まれていた。


「そこで、だ。例年なら入隊後一年経過時に知らされる“奴らの正体”を、今年は特例で新入隊員たちに伝えることにした」

「……何だって?」


声を発したのは黄瀬だった。

予想外といった表情で東海に詰め寄る。


「彼らはこのNovasに夢を見ている。いや、まだ夢を見ていていい時間だろう。あれを言うのは、早すぎるんじゃないのか」


(どういうことだ……)


上官たちの言う奴らというのも、その真実とやらも、新入隊員である真たちには困惑の材料でしかない。


思わず強く拳を握る。

嫌な汗で湿った手のひらが少し不快だった。


「これは班長集会で決められたことだ。いくらお前の意見でも、決定は変えられない」


そう淡々という東海は少しも動じる気配を見せなかった。


「それに……真実を知らないまま戦わせる方が酷だろ。これまで通りには行かないんだ」


東海は黄瀬から視線を外して真たちの方へ向き直った。


「いいか。お前らには信じられない……いや、信じたくないかもしれないが、これが現実だ」


そして真っ直ぐにこちらを見据えながら言い放つ。


「地球は—宇宙人に支配されている」

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