主と契約者という大きな存在
「そんなに乗りこなされちゃうと、俺の立場がないよソーちゃん」
「あなたと一緒に乗るくらいなら、走って追いかけます」
「えー。 せっかくあたしが、手取り足取り教えてあげようと思ったのにー」
「リアコはお呼びではありません」
進めば進むほど生い茂っていく草木。
森の奥深くまで進んでいっている。
「君のおかげですね」
俺がまたがっている白馬・ペガサスは、そんな草木もものともせずに突き進んでいく。
「それを召喚した俺のおかげじゃないの?」
「無事に現地に着いたら、あなたにもお礼を申し上げますよ」
ものすごいスピードで進むペガサスに遅れることなく、むしろ透の魔法で飛びながら前を走って、ペガサスを先導しているリアムもさすがとしか言いようがない。
「ちなみにここはどこの国なのでしょうか」
「んー、地図的に言えばカイルス国だな」
「いつの間にか入っていたのですか」
「中心からすごい離れているここは、カイルス国と言ってもそれに属する非魔法国の地域だからな」
「ここがそうなのですね」
もともとの俺に近い状態の人たちが暮らす場所。
「もう暗いし、その辺の地域で一泊するか」
「そうですね」
日はすでに落ち、森の中だからかより一層あたりは暗く感じる。
ペガサスから降り乗せてもらった感謝を述べると、顔をお腹のあたりにこすりつけてきた。鬣だけでなく、覆われている体毛の全てが柔らかくて驚いた。
「初めてでこんなに懐かれるなんて、ソーちゃんずるいなー」
「そう思われていたのなら安心です」
リアムがペガサスの顔を撫でありがとうと呟くと、ペガサスはそのまま空間を割いたような場所に帰って行った。
「とりあえず宿を探すか」
「意外と発展している場所ですね。 魔力が無い人たちの集まりとは思えません」
ボレミアとの会談やリアムからの話で、迫害をされるという理由から次魔法国から逃げ出すという事実がある世界でだと知った。
そんな世界で、更に魔法を使えないというハンデを背負う人たちが、どんな悲惨な生活をしているのかと想像していた。
「カイルス国以外の国は、悲惨な地域もある。 けど、カイルス国の非魔法国への気の使い方は、契約者様の時代から徹底されているものだな。 自国が危うくても絶対に見捨てたりしない、その成果がこの町の様子だ」
「素晴らしいですね、その方は」
イーリス国で見た景色と、似た活気と人の笑い声がそこには溢れていた。
「一泊で一人部屋を二つ用意してほしいのですが」
「なんでよー!」
「リアコさんと宿泊したくないからですよ」
「お嬢さん、二人部屋を一つお願いしまーす」
「断固拒否です」
リアコに何されるか分かったものじゃない。
「どんまいよ、ソーちゃん」
「俺は今日、野宿します」
「しょうがないでしょー、二人部屋しか相手無かったんだからっ」
「とりあえずリアムに戻っていただいても良いですか」
「俺のこの姿、結構人気なはずなんだけどなー」
「誰からの教えですか、一体」
仕方ないものだと諦めて、アシリアからもらった本を取り出す。
昨日はリアムに押しかけられたせいで、全然読み進められなかったからな。
「偉大な先生が目の前にいるんだから、直接聞けばいいのに」
「本当に偉大な御人は、自分のことを偉大だなんて言いません」
だがリアムが言ったことも事実。
初めて会った時からそうだが、こいつは無駄なところが多くて本質が見えづらい。
扱うことが難しい応用透魔法を実演して見せたり、召喚獣を呼んでみたり。
恐らく凄いことをやっているはずなのに、リアコのせいで忘れかけそうになる。
計算の内だろうが、……多分。
「確かにあなたの言うことも一理ありますね。 では、いろいろと質問してもよろしいですか」
「おう」
「まずこの世界における主と呼ばれる存在を示すものが、あなたが言うものと違ったように思えたのですが、私の気のせいでしょうか」
「……すみません」
「はい」
「ソラ殿は一体、どのへんでそう思ったのでしょうか」
何度かそうかなと思ったが、属性が見える人の条件の話を聞いた時、俺はそれに該当する人を主と同等以上の契約者の血筋という選択肢を出した。
しかし、リアムは主と同等以上の存在に関して何も言わず、自分の能力は主と直接契約をした者の子孫だからだといった。
リアムの上の名前を聞いた事が無い。イーリス国でもリアムのことを、それ以外の呼び方をする者はいない。そして、変に敬う者もいなかった。
という事は、リアムには何らかの理由で上の名前がない。つまり、どこかの国を治める王族ではない。アシリアの上の名前には国名が入っていたから。
ここで、世間の主の認識を考えてみる。主とは、ヘリオシアンを作ったときに契約者と契約した存在。現在、主と契約したのは契約者の血筋であるどこかの国を治めている王族。つまり特例のアシリアを入れた六人分しか主がいないという事になる。
しかしそうなると、リアムの先祖が契約した主とは何のことなのか、ということになる。
「そんな感じです」
「俺、あの時に一体どれほど暴露してるんだろな」
そんな感じのことを、勢いで話した。
普段は信頼しても良いと決めた相手に、勢いで論破することは無い。自分が間違ってても、負う傷は小さいからだ。
でも、なんかリアムには論破したくなる。
目の前で項垂れているリアムのことを、面白いと感じながら見ていた。
「ソラ殿」
「ソラで構いません」
「ソーちゃんの言う通り、気のせいではありません!」
「そこまでは許してないのですが」
まぁ、この際呼び方なんて何でも構わないが。
「主っていうのは、何も国を作った契約者だけのことを指すわけじゃない。 なんていうのかなー、主側にも家族がいる感じだな」
「……はぁ」
「次魔法国は、契約者の近親者が主の補佐と契約して誕生した訳じゃない。 補佐というよりも魔法国の主に近い関係にある、新たな主と契約することで誕生したんだ」
「親子関係とかでしょうか」
「夫婦関係ってのもあるとは言われてるが、そこまでは俺にもわからない」
この真実をリアムが公にしない理由は、ある程度理解できた。
この真実を隠すことで、世界がバランスを保っているからだろう。
次魔法国が魔法国の、実質支配化となっている大きな理由の一つが主の名前があるかどうか。
それだけのことで保たれているバランスだ。もし、次魔法国にも主の名前が入っていると分かれば、最悪各地で内戦が起こりうる。
「もう少し俺たちの秘密という事にしておきましょうか」
「そうしてくれると助かるな」
「お安い御用ですよ、暴露させてしまった事への謝罪という事で」
いつの間にか、秘密を共有出来るまでになったのか。
読んでくださり、ありがとうございます。