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ここは理想、魔法は想像

「魔法を鍛えたいなら、カイルス国が一番適してるってことだな」

「イーリス国が属する国ですよね」


 俺の属性が判明し、他に行く予定の所も無かったので、せっかくなら魔法を鍛えてみようかという事にした。

 そういう訳で五泊の予定だった宿を引き払い、予定より早くなってしまったことを受け付けの従業員に謝罪をしておいた。


「朝から騒がしくてすみません」

「いえ! お怪我などはありませんか」

「大丈夫ですよ。 傷つけてしまった宿の壁は直しておきましたので」

「俺がだよな、ソーちゃん」


 リアムの目的地の途中にそのカイルス国というのがあるらしく、ついて来ることになった。

 まぁ、そうでなくても連れて行こうと思っていたが。

 それでも宿を出る前に、リアムに性別転換する機会を与えた。

 

「リアム、とりあえず壁の修理をしないことには、どこにも逃がしません」

「ソーちゃん! お願いだから剣から手を離して!」

「先にドアノブから手を離すのが先ではないですか。 余程、お姉さんになりたいようですね」

「目が! 怖い!」


 機会は失われてしまったが、おかげで宿の壁は元通り綺麗になった。


「あんまり人がいないところまでは、歩きだけど我慢してくれよな」

「大丈夫ですよ。 それ以外の移動手段を知りませんし」

「まぁ、馬車か馬か。 後は行商人に頼むかだな」

「なるほど、覚えておきます」


 昨日と同じように活気のある町だ。

 おそらくここにいる人たちよりは断然、アシリアは良い生活をしているだろう。


「リアムー、今日も帰り寄ってくれよ」

「あらー、隊長さんも格好いいけど、今日のお連れ様もなかなか素敵じゃない」

「リアム兄ちゃん、今日は姫様いないのー?」


 それでもそこに所属するリアムに打ち解けて話しかけ、遠慮することもなくアシリアやユリイエのことを聞いてくる。

 それがアシリアが如何に、自国を大切にしているかという事がわかる。


「素敵な街ですね」

「俺の自慢の国だ」


 そんな場所を、俺も目指していたはずだった。もう、その当時の気持ちは忘れてしまったけど。


「羨ましいです」

「何だそれ。 ソーちゃんももうこの国の人間だろ」

「それは、ありがとございます」


 街の人たちの良くしてもらっているうちに、中心からは少し離れた自然あふれる場所についた。

 ほとんど話しかけられていたため、あまり魔法について聞くことは出来なかったが。


「さてと、人通りの少ないところまで来たことには、二つ理由がある。 一つはソーちゃんの属性、透の魔法がイーリス国でも希少な属性だから」

「そうなのですか」

「イーリス国というよりも、透の魔法はヘリオシアンにそんなにいないんだ。 まぁ、この属性がたくさんいたら大変だけどな」

「特殊な魔法、ということですか」

「特殊ってよりは、扱いづらいがものにすれば、ほぼ自由になれるってことかな」


 理解できないその説明に、聞くよりも見る方が早いだろと言って、リアムは自分の手を俺の方に向けた。


『我、リアムが命じる その形を万に変え力を与えよ! 応用透魔法!』

「は!?」


 リアムが詠唱を唱え終わると同時に、リアムと俺の身体は宙に浮いた。


「透の応用魔法は、空気を操ることが出来る。 上手くイメージすれば、飛ぶことだって出来る」

「それでものにすれば、自由になれるというわけですか」

「だが、透の魔法はその属性を持つ人も少ない。 その少ない人の中で応用魔法を使って飛べる人は更に少ない」

「ですが、それくらいのバランスを保っていた方がいいのでしょうね」

「自由に行き来されたら、侵略も奇襲もやりたい放題になるからな」


 応用魔法とは使う人によって種類も形も違う。一つの属性で複数の応用魔法を使うことが可能という事だ。

 だからなのかは分からないが、全ての魔法において書かれていることは、基本の詠唱文のみ。

 そこからどのように発展させていくかは、術者のイメージ次第だという事だ。


「黙って聞いていれば、そんな難しい飛行魔法を使えるあなたからの自慢に聞こえてきました」

「……事実だから仕方ないだろ」

「悔しいので俺も透の魔法を鍛えることにします。 あなたを飛ばして何処かへやります」

「出来るものならなー」


 リアムは俺のことはさっさと地面におろし、自分は俺の頭上をビュンビュン飛び回っていた。

 すごい得意げな顔をしている。ものすごく上空にいる気がするが、絶対にしている。


『我、ヤシロ・ソラが命じる その形を万に変え力を与えよ 応用透魔法』

「えっ!? ぎゃあぁ!」

「早く二つ目を教えてください」

「待って。 いきなり応用魔法使えるなんてありかよ」

「重要なのがイメージならば簡単ですよ」


 俺がしたイメージは、リアムが飛んでいる延長線上の空気を壁のように固める事。

 空気だから見えないかと思ったが、ぎりぎりで止まりやがった。


「二つ目な。 人通りが少なくなれば、俺専用の移動手段が使える」

「魔法の詠唱文、召喚魔法の関係しますか」

「さすがソーちゃん、察しがいいね。 召喚術はその名の通り、自分が契約した主から与えられる力・召喚獣を呼び出す魔法な」

「なるほど。 それはまた随分と限定された条件ですね」

「俺は代々受け継がれてきただけだ。 俺の知る限り、今の時代に主と直接契約しているのは二人だけ。 一人はこれから会えるかもな」

「それは嬉しいですが。 あなたの口ぶりからすると、今目の前であなたの召喚獣に会えるのでは」

「これから乗って行くからな。 ちなみにもう一人はもう会ってるぞ」

「……イーリス国長ですか」

「惜しい! ユリ隊長だよ。 隊長は魔力を全く持っていないにもかかわらず、召喚術が使える凄い人なんだ」


 自分が慕う人の自慢が出来たかとが嬉しいのか、リアムは笑顔で話していた。

 しかし、その瞳は集中力を高めていく真剣なものになっていた。

 その集中が極限まで高まったとき、リアムの前に向けられていた両手の先の空間に、黄金の円が浮かび上がった。


『我、エレクトラの契約者 リアムが命じる 血のもとに、我が力と共鳴しその姿を見せよ! ペガサス!!』


 その詠唱と共に黄金の円は最高に輝き、そこから白い翼と黄色の鬣を持った純白な馬が現れた。


「召喚獣を呼び出せる人は少ないし、その術自体が希少なものだからっていうのも、人目の多いところで出来ない理由の一つだが。 本当の理由はその召喚獣にある」


 神格化というのが相応しいのだろうか、何かオーラを纏っているとしか思えないほど、その周りがきらきらと輝いていた。


「美しいな」

「……それだけ?」

「心から思っていることだが」

「いや、普通はさ。 初めて召喚獣を見た人はそれに圧倒されて跪くか、未知のものに恐怖するかのどちらかなんだけど」


 本当に美しい。見る人が見れば、跪いたり恐怖に駆られてしまうというのも分からなくはない。

 絶対にそんなことはない。この世界も常識も、初めて聞くものばかりだ。

 そのはずなのに。


「初めて会った気がしないから。大丈夫」


 心からそう思っている自分がいた。

読んでいただきありがとうございます。

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