「さっきの"オーロラ"ちゃんか!」
右半身の装甲から相転移性が消失しつつあるターキッシュとナンシーのケンプファーが振りかざす鉄拳の間には、回避運動が間に合うほどの距離もなかった。
「貰ったぁ!」
「ウィング展開」
「なっ……ぶふぉあ!」
だからこそ、ナンシーはケンプファーの無骨で巨大なその拳がカサブランカを容赦なく砕き、中のターキッシュを叩きのめせると確信して雄叫びを上げつつ鉄拳を叩き込もうとした。
しかし、そのナンシーの雄叫びに呼応するようにカサブランカの背中の翼が大きく展開されると、ターキッシュは勢いよく上半身を捻った。その回転は背中の翼を勢いよく振り回し、その円周にはケンプファーがいたのである。
当然、カサブランカの漆黒の右翼はケンプファーを巻き込み、その猛烈な衝撃はコックピットのナンシーを大きく揺らした。
全天周囲モニターのコックピットに浮くように設置されているシートは耐震性や安定性に優れていた。だがそれにも許容範囲があるために、ナンシーはシードごと上下左右へ乱雑に振り回された。その衝撃は勝利を焦ったナンシーへは効果てきめんであり、何も身構えてさえいなかった彼女は機体のコントロールを失い、ケンプファーの歪な機体を近くのビルの外壁へと突っ込ませたのだった。
「ターキッシュ様、右翼中央可動部から脱落」
だが、ケンプファーを吹き飛ばしたターキッシュの被害は甚大だった。その被害はケンプファーを吹き飛ばすのに使った右翼の損壊である。
ダチェリーのビーム砲による砲撃をターキッシュが防いだ際、カサブランカの右半身に飛び散ったビームの破片は接触した装甲箇所の相転移性を奪った。その被害は特に面積とサイズの大きい右翼に集中しており、漆黒だった灰色の翼は小さく格納するための可動部から先がヒビ割れだらけのコンクリートのような見た目となっていた。
そんな破損だらけかつ耐衝撃性がなくなったカサブランカの右翼は、ケンプファーを吹き飛ばした衝撃によって見事に折れて吹き飛んだ。折れた根本の装甲は破片を散らし、千切れたケーブル配線や基盤は火花を吹いていた。
その破損をターキッシュはミアの報告とともに視界に映る破損を知らせるカサブランカの全体像で理解した。
「根本近くのは動くんだろ?なら!」
「了解」
それでも、ターキッシュは右翼の格納の為の可動部より手前は全て生きていることを視界の映像から理解すると、両腿に力を込めつつしゃがんでみせた。
その動作とターキッシュの言葉にミアは空かさず反応して見せると、背中の推進器全てから猛烈な爆音と青白い炎を引くカサブランカはトンモトの街の空へ跳び上がった。片翼の折れたその跳躍はアンバランスな空気抵抗を推力の力で無理矢理押さえつけたようなぎこちなさがあった。
「ナンシーをよくも!」
「こっ、コイツ、狙いはコッチかよ!バーバラ、まだ砲身が冷えてない!」
「なら……こっちを見ろ!喰らえ!」
ぎこちなさがあってもカサブランカの跳躍は推進器の出力の膨大さから加速力はロケット並みであった。そこに漆黒の左半身と機能が消失した相転移装甲の多くの箇所に灰色のタイルのようなひび割れを見せる右半身で迫りくるカサブランカの姿は異様な圧力があった。
灰色の空へとまだら模様と不気味に光るカサブランカの赤いセンサーカメラを目立たせ跳び上がるターキッシュと、吹き飛ばされて廃ビルにもたれ掛かり動かない戦友の愛機を見たバーバラは怒りに燃えた。その怒りをターキッシュへ向けて爆発させようとした彼女だったが、コックピットの映像に映るカサブランカの姿は自分ではなく着地してビーム砲の調子を確認していたダチェリーの元へと向けて降りようとする途中だった。
そんな戦場の最中で立ち止まり作業をしなければならないという事態のダチェリーも、自分の元へと降りつつあるカサブランカの姿は確認していた。その亀裂恐怖症を刺激しそうな右半身をして高速で降りてくる機体の光景は、彼女に少し前にターキッシュの突撃で吹き飛ばされたことを思い出させた。
そのために、ダチェリーは無理を承知でビーム砲の砲口をターキッシュに向けた。しかし、コックピットのレティクルが漆黒の機体を捉えても、操縦システムは砲身の冷却不足をモニターに映し出してひたすらに警告し、最終的には安全装置さえも起動させて砲撃を止めたのだった。
迫る危機と頼りにならない愛機がターキッシュの接近とビーム砲の冷却不足をスピーカーの爆音という形で知らせる中、ダチェリーは表情を強張らせると機体を走り出させ、上空で降下を始めたバーバラへと露骨に焦った声で助けを求めた。
そのダチェリーの声に応じたバーバラは、ターキッシュの降下コースをシステムに予測させるとその進路へ向けて滑腔砲の照準を定める。彼女の狙いは確実であり、少し前までの空中射撃で得た反動による誤差の修正データを加えた照準に、バーバラはまるで必殺技を出すかのように叫んだ。
「当たって、堪るかぁ!」
「外れた?嘘!」
「そこぉ!」
バーバラの援護射撃はミアによって予測され、ターキッシュの視界には警告の映像とアラームが響いた。
その警告によってダチェリーへ向かって降下していたターキッシュは、大きく手足を振って足を地面へ向けると突っ張るように伸ばした。その足の推進器から猛烈な逆推進を掛けると、苛烈な反動に耐えながら雄叫びを上げる彼は再び上昇を始めた。
その空中での再跳躍によってバーバラの放った砲弾がトンモトの街の奥へと消えてゆくと、彼女は自分に向けて加速するカサブランカと、機体がライフルソードを自分に向けて構える姿を見た。
自分の射撃が外れたことによるターキッシュのカウンターに、バーバラは糸目を見開いてその光景を疑った。カサブランカの空中跳躍は、片翼が折れた不安定状態では絶対にできるものではないのである。それを実現させられ攻撃を回避されたことにバーバラが驚くのも束の間、引き金を引き絞ったターキッシュはケートスへ向けてビームの光を放った。
「いゃあぁあぁあ!……」
「バーバラ!」
ライフルソードの刀身部が作る銃身が放つビームは、真っ直ぐにバーバラのケートスへと迫った。その眩い黄色の光に見開いていた灰色の瞳を現実から逃れるために瞑り、ソバカスある頬を死の恐怖に赤く染めると、バーバラは操縦桿から両手を離して意味がないと解っていながら顔やその身を守るように腕で庇おうとした。
ターキッシュの放ったビームはケートスを直撃した。凄まじい熱量はケートスの頭部周辺を飲み込むと、金属や樹脂のべつ幕なしに焼き溶かした。更にその熱量は機体の首元を守る襟周辺までも焼き溶かし、バーバラのいるコックピットにまで伝導してきたのである。全天周囲モニターの上部が熱で変形して折れ曲がり、雪原や曇天を移していた映像は赤や青の色を一瞬移した瞬間に黒焦げとなり、モニターの隙間からは溶け出したプラスチック樹脂や金属の蒸気がイオン臭を撒き散らしてコックピットに充満したのである。
熱が伝導するたびに死んでゆくモニターと機器、コックピットフレームの異音やビームの衝撃はバーバラを死に対する恐怖から錯乱させると、彼女は絶叫と共に熱で基部を歪ませ始めた操縦桿を滅茶苦茶に動かした。
そのバーバラの断末魔の叫びのような声が無線に響くと、ダチェリーは空中で大きく姿勢を崩し手足をばたつかせるケートスへと叫んだ。
「バーバラをやったのか!お前ぇえ!」
「来るのか!」
空中で錐揉みになりながら手足を振って落ちてゆくケートスの姿は、パイロットのバーバラの普段の冷静さからは想像のつかない荒ぶりようだった。
ビルにケンプファーを倒れ込ませ少し気を失っていたナンシーは、胸上部から煙を上げて落ちてゆくケートスのその動きをモニターに見ると、コックピットのバーバラによるものではなく生き残ったコンピューターのプログラムがバグを起こしてそうさせているのだと感じた。そのために、彼女はバーバラの戦死を頭に過ぎらせ、怒りとともに雄叫びを上げてケンプファーの巨体を跳び上がらせた。
降下姿勢に移りつつあるターキッシュの視界に背後から迫るケンプファーの姿が映ると、彼は驚きに呟き咄嗟の判断に迷った。背中の片翼が翼としての機能を失っている以上、彼の下手な動きはカサブランカの空中でのバランス消失と墜落に直結する。
しかし、反撃をしなければケンプファーの背後からの攻撃によって右半身の防御力が異様に低下したカサブランカは損傷を受ける可能性がある。それは背中のサブコックピットにいるミアの身に危険が迫っていることも意味していた。
ミアの危険とカサブランカのバランス消失を天秤にかけたターキッシュは、これまでの行動に彼女との調整をしていないにも関わらず機体がスムーズに動いていることを思い出した。そのことに、ターキッシュはミアがかつて言っていたように"自分の動きや思考を先読みして機体の動きやプログラムを調節している"ということを考えさせた。
その思考はケンプファーの接触までに時間のないターキッシュに即決を迫り、彼は機体を無理矢理後ろに振り向かせた。
「落ちろぉ!」
降下姿勢のカサブランカはナンシーの目の前で振り返った。その動きは背中の片翼が折れているとは思えない素早さてあった。
だが、ナンシーからすればその動きは既に遅く、自分が振り下ろさせるケンプファーの鉄拳は確実にカサブランカの胸部目掛けて突っ込んでゆくと確実させた。
己の確信を確実にさせるために、ナンシーはコックピットで雄叫びを上げ、親指で操縦桿のスイッチを押すと肘付近についた加速用のブースターを最大出力で点火させた。
しかし、その拳は一瞬降下速度が早くなったカサブランカの頭部右側にあった耳のような装飾を吹き飛ばすだけだった。
「なっ!腰のアクチュエーターが!」
「死なないだけでも良しと思えぇぇえ!」
激しく揺れる目の前の視界を前にしても、ターキッシュは必死に右腕のライフルソードを刺すようにナンシーのケンプファーへと振った。その斬撃はケンプファーとの若干の高度さによって胴体やコックピットを逃した。
しかし、ターキッシュの一撃はケンプファーの腰にあった3本のアクチュエーターの1つを切り飛ばした。その衝撃はコックピットのナンシーを激しく揺らし、パイロットスーツで固定されていながら彼女はシードから放り出されそうになるほどの揺れにコントロールを失った。
ナンシーが咄嗟にケンプファーの姿勢を制御できなかったことで、機体の残りのアクチュエーターは異音を上げて歪んだ。
火花を上げるアクチュエーターとバランスを崩すケンプファーの姿に、ターキッシュはやりすぎと理解しながらも自分の行動がミアの身さえ危険にさせることを思い出して己を叫んで鼓舞すると、最後に回し蹴りをしてナンシーを地表に蹴落としたのだった。
「ナンシー!おいおい、もうアタシだけかよ!マチルダ、援護しろ!クロエはどこに……うぉ!」
ようやくウロボロスの砲身冷却が完了したダチェリーだったが、ケートスはビル群に落着して轟音と共に建物を崩し、ケンプファーはまさに落下を始めている光景を見た。
少し前まで自分達の連携によってターキッシュを圧していたダチェリーだったが、自分達と同様に形勢を一瞬で逆転させたターキッシュに悪態をつくと、辺りを見回していつまでも戦闘に参加しなければ通信さえもしないクロエを探そうと辺りを見回した。
だが、地表へ降下していたカサブランカの動きが起動を急激に変えて自分の方向に落ちてゆくのを視界の端で見た瞬間、ダチェリーは慌ててビーム砲の砲口を黒い影に合わせようとした。
その砲口はターキッシュから見ても確実に直撃を捉えていた。それでもウロボロスの蒸気を上げるビーム砲は、冷却直後でビームの元になる金属粒子の薬室内圧縮が終わっていなかった。
そのために、ダチェリーが引き金を引いてもビームはカサブランカを焼き払うことなく、ターキッシュはウロボロスから射撃されることに焦り距離的に届かないながらも右腕のライフルソードを縦に振り下ろした。
「シクったか!」
「みっ……右腕だけだ!それで帰れるだろ!」
ライフルソードの刀身が届く範囲にウロボロスは届かない。
しかし、ミアによって刀身を展開されるライフル用の形に変化したその銃口からビームが一閃すると、ウロボロスの右腕は付け根付近を抉り取られるように弾き飛ばされた。
必殺の一撃を逃し武器を失い姿勢を崩すウロボロスの中でダチェリーは、システムが上げる警報音とモニターの破損を主張する点滅に己の判断ミスを指摘されているように感じ、鬱陶しそうに呟いた。
一方で、ターキッシュは連続して行った己の危険な賭けを前に文句1つも付けずに対応して成功させるミアの存在に驚きつつ、背中から倒れようとするウロボロスの赤い機体を後ろ目に吐き捨てながら戦闘の結果離れてしまった目的地との距離を埋めようと再び先へと進もうとスラスターを吹かしてホバー移動しようとした。
「クソっ、まだまだぁ!」
トンモトのビル街を再び大通りへ戻ろうとターキッシュは先を急ぐため一気に加速した。その後ろ姿に ダチェリーはコックピットの推進器のスロットルを全開にすると、倒れつつあるウロボロスのスラスターの轟音にも負けぬ雄叫びを上げ機体の姿勢も気にせず前進させた。
ウロボロスのつま先や脛が乱雑な加速によって地面に擦らせ、その振動がダチェリーの身体やツインテールを激しく揺らすも、彼女はスロットルから手を離すことなく機体をとにかくにカサブランカの灰黒い背中へと向かわせた。
そのカサブランカの黒い背中がようやくダチェリーの決死の突撃に気付いたとき、彼女はウロボロスの左腕を伸ばさせてしがみつかせた。
「しつこい!」
「マチルダ、アタシごと撃て!コイツを落とせぇ!」
ウロボロスはターキッシュの攻撃で左腕しかなかった。それでもカサブランカの腰に付いていたスカートパーツに指を掛け腕や機体の胸を密着させ摩擦さえ使って堪えるウロボロスの姿はターキッシュに恐怖を与えた。
ウロボロスが腰にしがみついたおかげ、カサブランカの移動速度は大幅に低下した。下手をすれば機体各所のスラスターが破損しているカサブランカはウロボロスの重量も合わさるとホバーするだけの出力さえ足りずにその場に動けなくなりそうになっていた。
戦場に棒立ちという状態はターキッシュにとって最も避けなければならない状態だった。それは、未だに姿を見せないマチルダからの狙撃という視覚外からの攻撃を彼が恐れていたからである。
だからこそ、ターキッシュはしがみついたウロボロスを必死に引き剥がそうとホバーバランスが崩れるのを承知で足で蹴り上げ肘を撃ち込み、ライフルソードで斬りつけようとした。
至近距離での動力破損による爆発を恐れたターキッシュは雄叫びを上げて蹴りつけても、撃破を目的とするわけではない攻撃には威力が足りなかった。最後の手段としてライフルソードを使っても、腰にしがみつくウロボロスを斬りつけるには持ち方や体勢が悪く、良くて機体の右足や腰付近を斬りつけるのがやっとだった。
それでもウロボロスは少しずつ破損箇所が増えてゆき、コックピットにはあらゆる警報音が鳴り響いた。その耳障りな爆音で機体の限界が迫ることを理解したダチェリーは、自分ではターキッシュを止められないことを悟ると通信機を付けてとにかくにマチルダに支援を頼んだ。
その通信はダチェリーの機材操作ミスによって接触回線にも繋がり、ターキッシュの耳に雑音混じりの声質の高い女の声が響いた。
「心中する気か!やめろ、命を粗末にするな!」
「接触回線か!バクーで何人も殺した男がナニを言うんだよ!」
「それは祖父ちゃんのやったことだ!俺はそれを調べるために……」
「祖父ちゃんだと?それに声が違う?その機体に乗ってるのは誰だ!お前は何者だ!」
急に聞こえたダチェリーの言葉に驚くのも束の間、ターキッシュは彼女の言葉に焦るとダチェリーへ心情を揺さぶる言葉で手を離すように仕向けようとした。
だが、ターキッシュの声が無数の警報音の中に聞こえたダチェリーは眉間にシワを寄せ歯を食いしばると、モニターに映るカサブランカの装甲の向こう側にいるターキッシュを睨みつけたのである。それに遅れて彼女が怒鳴りつけると、ウロボロスの腕は相転移性がなくなったカサブランカのスカート装甲を捻じ曲げるほど強く握った。
そのダチェリーの荒らげる声は声質が高いゆえにターキッシュの脳にこだますると、彼は思わず彼女の声に対抗して声を張った。その内容は危機的状況を前にあまり思考を巡らせていない発言であって、彼は言いながらに後悔した。
だが、ターキッシュの思っていた以上にダチェリーはその話に食いつき、それと同時にターキッシュの張り上げた声に眉間にシワを寄せた。その一瞬の間に彼女は過去に聞いたタチバナの声と比較すると目を見張り、目の前の知っているようで知らなかった敵へと戦闘最中ながらに尋ねかけたのである。
「クソっ……マチルダ、なんでアタシを撃った!」
[下手に動くなよぉ!そっちが当たってどうすんのさ]
だが、ターキッシュがそれに答えることも、ダチェリーが更に問いただすこともなく、彼女はウロボロスの左腕の爆発によって歯を食いしばり衝撃に耐えた。
ウロボロスの腕は肘と二の腕付近に着弾した砲撃によって千切れ飛んでいた。その砲弾はケートスではなくマチルダのブラスカが放ったものだった。廃高層ビルの上階にて援護射撃を行ったマチルダだったが、彼女の砲撃はターキッシュではなくウロボロスの腕を破壊し、遂に限界を迎えたウロボロスはうつ伏せで地面に倒れたのである。
動けなくなったウロボロスの中で、奇跡的に見えたカサブランカの後ろ姿を前に操縦桿近くに拳を叩きつけた。その拳を力なく重力に従い前方へ落としてゆくと、ダチェリーは無線で最後の最後に邪魔してきたマチルダへと文句の言葉を送りつけた。その声は全身の力を抜いて手足を重力の流れに従わせる分、体の力を上乗せした声であった。
しかし、ダチェリーの怒りの声に反してマチルダの露骨に呆れるような煽りの言葉に、彼女は何も言えなくなると、力強く振り上げた拳を震わせながらゆっくりと自分の太腿に振り下ろした。
「今のうちに……」
「ターキッシュ様、新手です」
「あれは、あの時の"サムライ"もどき!」
ダチェリーを振り切り大通りへと再び戻ったターキッシュは、背後を振り返り追手がいないか何度も確認した。
背後に追撃がないことを安心したターキッシュだったが、彼がカサブランカの腕を使い胸をなでおろそうとするのを止めるようにミアは彼へと警告を出した。その言葉にターキッシュが改めて前方を見ると、そこには1機のバトルドレスが仁王立ちしていた。
その鎧武者のような外装と腰につけた大きな日本刀のような装備に、ターキッシュはシベリアの地下施設で戦った禍々しい姿と、少し前に笑い合って話したクロエの楽しげな表情を脳裏に過ぎらせた。
「ターキッシュ、お前がどんな事情があるかは知らないが……」
「さっきの"オーロラ"ちゃんか!」
「博士の為にも、逃がすわけにはいかない!」
愛機であるムラサメに腰から引き抜いた剣を上段で構えさせたクロエは、目の前のモニターに迫るカサブランカの黒い影を見つめた。その瞳に揺らぎ操縦桿を握る手は僅かに震えていた。
ムラサメの戦闘の意思があると言わんばかりの姿勢を前にしたターキッシュは、軽口を呟きながらもその口調は苦々しく、銃口先を迷わせながらもクロエに向けて構えた。
クロエの覚悟の言葉とともに、彼女はカサブランカとの再戦へ突入した。




