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桃太郎君と我々

作者: 井川林檎

お題:「犬の凡人」

で、書いたら、このようなものができました。

 桃太郎君に付き従って、我々は行くわけだ。

 進むにつれ、わたしの心はどんどん重くなる。



 桃太郎君は、鬼が島社の求めているニーズと我々の企画は完全にマッチしているのだから、今回のプレゼンは絶対にうまくいくと豪語している。


 今度こそ我々のチームは営業課の底辺から抜け出せるに違いない。


 「それどころか、営業課トップのエリートになること請け合い」


 桃太郎君はそこまで言い切った。

 そして、この企画を満面の笑みで封筒に入れ、みんなに桃のイラストの鉢巻きを配った。

 これはプレゼンの時のパフォーマンスらしい。

 

 「上手くいくぞ、これは絶対にいける」


 

 自信満々の桃太郎君の後ろを、雉君と猿君とわたしは歩く。


 雉君も猿君も、会社ではいまいち冴えないけれど、実は有名校出身だ。お勉強はものすごくできる。

 もちろん桃太郎君もその点では負けてはいない。

 桃太郎君は、ちょっと空気読まずなところと変な嗜好が全てを台無しにしているけれど、頭はすごくいい。


 今回の企画は、雉君の一言から始まった。


 「あのさー、もし、みかんがタコヤキ味だったら凄くね」


 タコヤキ味のみかん!

 なんだそれと思ったのは、チームの中ではどうやらわたしだけだったらしい。

 雉君の言葉を聞いた瞬間、猿君は目を輝かせ、桃太郎君は膝を打った。


 「よし、その線で次いこう」

 桃太郎君は叫んだ。

 「取引のある農場で、みかんの開発に秀でているところを当たってみる」

 猿君はすぐに行動に移した。

 「ついでに、やきそば味のマンゴーはどうかな」

 雉君がまたユニークな発想を打ち立てた。

 「よしそれもいいな、それもこの企画に織りこもう」

 特産物の宣伝にもなるからなと呟き、桃太郎君はパパッと決断した。


 わたしは一人でぐるぐる眩暈を感じながらチームの動向を眺めていた。

 みんなものすごく精力的に次々に企画を盛り上げ、どんどん話を進め、ついにその奇特な(と、わたしは思うのだけど)計画に乗ってくれる農家さんまで見つけた。


 あとは、この企画を受け入れてくれる企業さん。

 桃太郎君は物凄いエネルギーで色々と探し、ついにその、鬼ヶ島社に行きあたったのだった。



 「いいぞ、絶対いける」

 桃太郎君がそう言うと、雉君も猿君も、盛り上がる。

 よっしゃ、できるぜ。

 雉君の発想と、猿君の実行力と、桃太郎君のリーダーシップ。

 確かにこのチームは非凡揃いだ。


 (なぜか、営業課では最底辺チームなんだけど)


 沸き立つ三人の後ろをついて歩きながら、わたしは思う。

 とぼとぼ歩く。

 目指す鬼ヶ島社はまもなくだ。


 額に巻いた桃マークの鉢巻きがイカれていると思うのは、多分、わたしが凡人だから。



 無言で歩くわたしを、ふいに皆は振り向いた。

 胸がつまるような笑顔である。


 「どうしたんだい犬君っ。さあ、君もはりきって」

 きっとうまくいくさ!

 レツゴー。


 桃の鉢巻きをつけた、桃太郎と雉と猿。

 その手に握るは、イカれた(と、わたしは思うのだが)企画。

 るんるん、るんたった。

 目的に近づくにつれ、三人の足取りはいよいよ軽く、ついにはスキップとなる。




 わたしは、思った。


 (凡人で、いい)

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